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26. 番誕生の公表

高校2年生の9月1日。

この日、私はいつもより朝早く起きました。


今日は特別な日ということで、戦闘魔術科の朝練習は免除と言われています。

教室に入る直前、左の首筋がふわりと温かくなったのを感じます。


昨夜たくさん電話でお話したのに心配性だなあ。

ふふ、と笑ってしまいますけれど。

その温もりを寄せてくれる人の、私を心配してくれる気持ちが嬉しくて私も首筋に手をあてて祈りました。


───大丈夫、あなたがいてくれる。  

   大丈夫、私がいるから。


さあ、今日は魔術庁から(つがい)誕生が公表される日です。


■ ■ ■


魔術学園の生徒は各学年30~40人。

中高の6学年を合わせても200人程度のため、何か一斉に周知する時などは訓練場で事足りる。

2学期が始まる今日も、その訓練場で学園長の二宮が新学期の挨拶を述べていた。

通常ならその挨拶で終わるくらいだが、今日はいつもとは違うことが切り出される。


「今日はこのあと9時より、魔術庁より全魔術師への通達事項がある。 

大切なことなので、静かに聞くように」


その言葉と共に訓練場の壁に巨大なスクリーンが下ろされ窓に黒いカーテンがひかれていき、暗い空間には生徒達が緊張した面持ちで座っていた。


9時ちょうどにその映像は始まった。


『如月の戦いから7年目となる今、新たな番が誕生した。

これは強大な敵が数年以内に出現することの予兆だと、魔術庁は捉えている。

しかし既に対策本部が起動し、様々な方向から準備を進めている。

現役魔術師達には強化した訓練や成果が課されている者も多いだろう。

学生も、それに備えた鍛錬を組み込むカリキュラムに取り組んでもらっている。

ひとりひとりが日本の未来を背負っているという自覚をもとに励むことを期待する』


──時間にすれば5分にも満たない魔術庁長官からの通達。


その通信の終了と共に一斉に電気をつけ、生徒たちはどういう表情をしているかと魔道具科主任が見ると……。


中等部の生徒達は分かっているような、分かっていないような微妙な表情でたたずんでいた。

「番って何?」「戦いって戦争?」「強大な敵ってどこから生まれるんだ?瘴気?」などと確認しあう姿も見られる。


高等部の方はより真剣な顔つきで、何名かずつで内容の確認をしあっている。

そして、その中にチラチラと顔を見られている女子生徒がいた。


……まあ、ばれるよな。


1年の時は授業後にも自主的に工房に入り魔道具を作っていたのに、一切姿を見せなくなった同級生。

魔道具科にも関わらず、訓練場で個別の実技指導を戦闘魔術科の教師から受けている生徒。

魔道具科と戦闘魔術科を中心に2年生の秋月紗良を盗み見る者が複数存在した。


ただし、番の身元については問い合わせがあっても今はまだ明かさないと対策本部で決定している。

如月の時の過度な期待による一連の顛末を忘れたのか?という声が対策本部内部や戦闘魔術師や治癒魔術師の一部から上がったのだ。


そうは言っても想像や期待や恐怖は、憶測を呼びながらあの2人を襲うだろう。


──負けるなよ、と主任教師は思う。

教師達は秋月を育てるだけでなく、できる限りのフォローをしたいと思っている。

そして、つい数年前まで指導していた風祭のこともまた。


負けるなよ。いろいろなことに。

お前たちは孤独じゃないんだから。


……さあこれから生徒達を教室に戻して、ざわつく2学期を始めなければ。


■ ■ ■


そして、魔法庁が番の出現を公表してから1週間が経ちました。


あのあと教室に戻ってから、番についてのごく簡単な説明が先生からあり。


そして

『番とは誰か、皆が気になると思う。

けれども先生達も日本のどこかに2人がいるというくらいのことしか聞いていない。 

本人達も戸惑っていると思うから、詮索をしないようにと魔術庁から厳重な達しがでている。 

プライバシーの尊重ということを肝に銘じて無用な詮索はせず、各自の課題に取り組むように』

そんな注意が先生から皆にありました。


それでもですね。


朝、戦闘魔術科の資料室から出てくる私を登校中の生徒達が見ています。

放課後、戦闘魔術科の生徒達が自主練習をする横で、結界を張れと言われる私をとても沢山の生徒が見ています。


学校としては、200人の目に触れないように個別指導を行うのは困難であるためそこはもうしらばっくれるしかないと考えたようです。

隠す手間によるデメリットと、指導時間をきちんと取ることのメリットを天秤にかけたのですね。



『いやそれ、どう考えてもバレてるだろ』

「ですよね~」


夜の風祭さんからの電話で、私は笑いました。

この頃は番の紋が熱くならなくても、通話をしちゃったりしているのです。

どちらからともなく。

……ほぼ、毎日。


『直接訊かれたりはしてないのか?』

「はい。その辺はみんな遠慮があるというか、プライバシーとかそういうのを気にしてくれてるみたいです」

『へえ。今どきの学生すごいな』

「はい。でもそういう話題になった時の視線はすごいですけどね」


同じ魔道具科の弥生ちゃんや亜子ちゃんなどは目で『どうなの!?』『話聞くよ!?』ってビシバシと尋ねてきますが、気付かないふりです。


『……つらい目にはあってないか?』

「大丈夫です。しんどくなったら風祭さんに跳ぶから平気」

『おお、そうか』


風祭さんが笑います。私も尋ねます。


「風祭さんはしんどくないですか?」

『大丈夫だ。俺ももしもの時はお前に跳ぶから平気』

「風祭さんが跳んだことないじゃないですか」

『そう言われるとそうだな。そういう時は俺が跳ぶのかな。それともやっぱりお前が跳んでくんのかな』


また2人で笑います。


でもほんとはね。知ってるんです。

私に比べて風祭さんはストレスが多くかかってるってこと。

この頃、番の紋が熱くなる機会がとても多いのです。

ただ熱くなるだけじゃなくて、ひきつるような、痛みもある感じ。


私のことは先生達が手厚く守ってくれてる。

でも風祭さんは配慮を要する学生じゃないから課されているものもきっと大きくて、そしてきっと心無いことを言う人がいるのです。

私なんかより、かかっているプレッシャーの質も量も違うはず。


風祭さんも、私がそのことを把握していることは分かっているはずです。

番の紋に熱と痛みを感じるたびに、紋に触れて祈っているから。


でも風祭さんは、具体的なことを私に言いません。

それはお仕事のことで私には分からないことだからかもしれないし、年上だからかもしれない。

ただこのことは私には頼らず自分一人で対処したいと、そう思っているということです。


だから私も尋ねません。ただ、熱と痛みを感じるたびに祈ります。

──一人じゃないです。私がいます。大丈夫。



『秋月』

「はい」

『……ありがとな』

「こちらこそです!」

『そろそろ寝るかー』

「ですね。おやすみなさい」

『おやすみ』


この半年あまりの間、直接会ったのは夏休み中にお夕飯を食べた1度きりでした。

でも毎日の電話とそして番の紋のあたたかさで、私達の繋がりは確実に深まっていました。


これが男女としての愛しさかと問われると、2人とも曖昧な答えしか返せなかったと思います。

ただ大切な存在かと問われれば、迷いなく頷く存在にはなっていました。


──大切、だったのに……。



















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