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21.投げ入れられた石はトゲとなる

梅雨が明け夏が始まりました。


私は今朝、久しぶりに学園の裏山を散策しています。

この頃は朝夕の戦闘魔術科の個別授業に参加しているため、裏山に足を向けることができていなかったのです。


山の上は日差しは強いのですが、大きな木のおかげで山全体の気温は涼しく吹く風も涼しく爽やかです。木々の隙間から降ってくる光は晴れやかで、梅雨の間の雨を落ち葉に溜め込んだ地面はフカフカで。


ゆっくりと歩きながら、ところどころに光る石を拾っていきます。

手に取ると、内側から感じる石の力。

持って帰って早くその力を外に出す手助けをしたい。


「石を与えてくださりありがとうございます。大切に使わせていただきます」


大地にお礼を言うたびに私の中に湧き上がる喜び。

私は山の叡智を吸い込んでは、全身に染み渡らせていました。


* * *


「なあ、なんでこの頃工房に全然来ねえの?」

ある日の実習作業中、里中くんが尋ねてきました。


この質問は遠からず来るだろうと思っていました。

私は1年生の頃は、放課後は工房に通って自主製作に励み、色々な技術の練習を積んでいたのです。

同じく今も毎日工房に通う里中くんからしたら、急に私が来なくなったのは疑問でしょう。


でも別館で戦闘魔術の座学を受けたり、訓練場で防御のための結界を張る練習をしていることは言えません。

番が誕生したことは最重要機密として未だ公表されていないのです。

それは即ち強大な敵が数年以内に発生すると言うことと同義になるので。

見通しなどを万全に立ててから公表するのだそうです。


……もし番のことが公になれば、大騒ぎになるんだろうな。

その時、私や風祭さんの身元は隠してほしいのだけれど、魔術庁はそんな配慮をしてくれるのかな……。


「秋月?聞いてる?」

つい考え事をしてしまいました。


「ごめんね。ちょっとこの頃用事があって忙しくて。また落ち着いたら自主製作もやろうかな」

敵が生まれるのが数年後なら、私が生徒のうちに放課後に自由時間がもらえる日は来ないかもしれません。

そう思うと、日中の魔道具科の授業がとても貴重なものに思えて真面目に取り組まなければと思うのでした。


そんなことを思いながら石を削っていると、里中くんがじっと私の手元を見ています。


「次は何を作るの?」

そう訊かれて、うーん、と悩みます。

実は、今手元にある石達は拾ってくる段階ではどれも魔道具に使うイメージをもてなかったのです。

ですからまずは削り出そうと思っていたのでした。


「まだ決めてないの。でも取りあえず削っておけば何かに使えるだろうから」

取りあえず私自身の魔力の気配を残さないようにしながら削っておけば、後から何にでも応用が効くでしょう。


すると、里中くんはまたジーッと私の手元を見つめます。

「…………なあ、あのな。ケンカを売るとかじゃないんだよ。それは分かってくれよな」

そんなことを急に言い出したので手を止めました。

なんでしょう?


「あのさ。なんでそんなに、自分の気配を殺そうとすんの?」


え?


「そりゃ、先生達は使い手のことを考えて自己主張をするなって言うけどさ。

そうは言っても皆多少は自分の個性が出ちゃうのは仕方ないだろ。

だからこそ相性が良い魔道具師に依頼が来るわけで。

でも……なんか、秋月が魔道具を作る姿をみてると『使い手の魔力を引き出すため』ってより『自分に気付かないでくれ、邪魔しないでくれ』って願いながら作ってるように見えるんだよ」


邪魔をしないでくれ……?


「……同じ個性を消すのでも、その2つだと目的が違うだろ………」


目的が、違う……?

私が魔道具を作る目的が?


「……ごめん、ただ見てて思うだけで根拠がないから言うつもりなかったんだけど。 

でも、その目的のズレがもしあるなら、いつかお前の魔道具作りに影響すんじゃないかって気がするんだよ」


里中くんはバツが悪そうに言うと、自分の作業に戻っていきました。

──魔道具づくりに影響がある……うまくいかなくなるということ?

それってどういうことなんだろう……?


言われたことの意味はよくは分からなかったものの、里中くんの言葉は私の順調だった魔道具作りに一つの小石を投げ入れたのです。


そしてそこから起きた波紋はトゲとなって、私に深く食い込むことになるのでした。






 



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