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1. 魔術学園へのご招待

もしあなたに運命の番がいると言われたら、どう思うでしょうか。


これは私 秋月紗良とその番と言われた彼が、番の証である紋を消すために頑張った物語です。


* * *


今の話をする前に、時は少しだけ前に遡ります。


小学校6年生も終わる3月の頃。

私がお母さんのお兄さん──伯父さんの家にお世話になっていた頃のことです。


ある日いつも通り川辺のお散歩から帰ってきたら、家に知らない大人が何人も来ていました。

伯父さんの家は昔ながらの古く広い一軒家ですが、それでも何人もの人が応接間に入ると、狭いテーブルは満員です。

4人掛けのテーブルの片方に私と伯父さんが、向かいに2人座ると残りの人達は立つことになり、部屋をとても狭く感じました。


「これを作ったのは君で間違いないかな?」


その質問は目の前に座る男の人から問われたもので、手にはネックレスが握られています。


ネックレスと言ってもコロンとした石にタコ糸を通した簡単なもので、それは確かに私が何年か前に作ったものでした。

河原でとても気になる石を見つけて、拾って帰ったのです。

その石をどうしても紐で繋がなければいけない気がして、伯父さんにそう訴えかけたら石に穴を開けてくれました。

その穴に家にあったタコ糸を通して作った、とてもシンプルなネックレスです。


うまくできたと満足して引き出しにしまっていたのですが、昨年家に空き巣が入り、そのネックレスを盗られてしまいました。

その時はひどく悲しくて、でももう諦めていたのですけれど。

また目の前に戻ってきました。


……この人は警察の人なのでしょうか。

伯父さんと伯母さんに目を向けると、随分と苦い顔をしています。

2人はあまりこの人達を歓迎していないのかも……。


「急にお邪魔してすまないね。私達は、国の魔術庁から来ました。……魔術庁、分かる?」


私の後ろに立っている伯母さんが肩を撫でてくれるけれど、知らない何人もの大人に見つめられると緊張してしまいます。

その魔術庁の大人の人──藤原さんと名乗る人に静かな声で尋ねられた私は、どう答えようかとぐるぐると考えて返事ができずにいました。


「──この子は魔術の存在は知っているが、制度や組織のことは知らない。教えていない。この子の、母親の希望で。」

「そうか……」


伯父さんの答えに藤原さんは少し考えこんだあと、私の目を見つめながらまた話し始めました。


「今日僕たちは、君に魔術の学校へ入りませんかという話をしたいと思う。」


魔術の学校……。


「君はここから少し行ったところにある公立中学に春から入学する予定だと思うのだけれど。 

そこではなくて、魔術を専門に学ぶ国立の中学に入りませんかということだよ」


魔術の学校のことは聞いたことがあります。お母さんや伯父さんが卒業しているはず。

伯父さんを見ると腕を組んで黙り込んでいます。


「……それは、ここから通えるんですか?」

「東京にあるからね。ここからでは無理かな。学校に寮があるよ」

「ここから通えないなら行きません」


私はすぐに返事をしました。

お母さんが眠り、伯父さん伯母さんがいるここから離れるなんて嫌です。


藤原さんの後ろに立っている人達が慌てたように

「滅多に入れない学校なんだよ!?」

と言ってきますが、それでも嫌です。


「秋月殿」

藤原さんが伯父さんに語りかけました。

どの、と呼びかける人を初めて見ました。

東京の大人はこういう言い方をするのでしょうか。


「紗良殿には秋月殿が教育を?このままでは魔力の処理が追いつかんだろう」

「……徐々に教えていくつもりだ」

「成長期に入れば一気に魔力は溢れるぞ。悠長なことだ」


伯父さんと藤原さんの言っていることがよく分かりません。


「よく分からないって顔だね。……世の中には魔術を使える人がいるってことは知ってるんだね?」

そう言うと「勝手にやめろ!」という伯父さんに構わず藤原さんは説明を始めました。


藤原さんが言うには──。


世界には沢山人がいるけれど、その中にごく僅かに魔術を使える人がいる。

その魔術というのは時間を戻すとかそういうものではなくて、人のマイナスエネルギーを抑えることができるもの。

正確には、人のマイナスエネルギーが集まりすぎてモヤモヤが酷くなるとその人が人間じゃない悪いものになってしまう。

悪いものは、その瘴気と呼ばれるモヤモヤをまき散らしながら人を襲って食べたり病気にしたりして、とても良くない。

その瘴気を祓ってまた人に戻すために使われるのが、魔術。


……それは神社の神主さんやお寺のお坊さんとは違うのかと訊いたけれど、違うらしいです。

神主さんやお坊さんは神様や仏様の力をお借りしてお祓いをするけれど、魔術使いは自分の魔力でお祓いをする。

そこが違うとのこと……分かるような、分からないような……。


まあとにかく、人が暮らしているとマイナスエネルギーはどんどん増すので、国としてはそれを祓える魔術使いを養成したい。

小学校高学年くらいになると魔術を使うための魔力を持っているかどうかが分かるので、全国からそういう子を集めて中高6年間で教育している──。


「その学園に入らないかい?ってことなんだ。というか、入ってほしいんだ」


どうして私が魔力を持っていると思ったかと言うと。

空き巣の盗品の中に私の作ったネックレスが混ざっていて、それが夜になるとほのかに光るのだそうです。

そしてネックレスからシクシク泣き声がして「お母さん」とか「帰りたい」とか女の子の声で喋ると。

空き巣犯がネックレスをお寺に持ち込んだのですが、お坊さんがネックレスを見て「これは魔術庁の扱いだ」と思ったらしく、魔術庁に回されたとのこと。


「魔術師にも色々な得意分野があって、こういう道具にこもる魔力を分析するのが得意な魔術師がいるんだ」

そう言うと後ろに立ってる人達のうちの1人が「はい」と手を挙げました。


ちなみに魔術を使える人全般を魔術使いと言って、その中でも魔術庁に所属している人達を魔術師と呼ぶらしいです。


「ネックレスを分析して出てきた魔力が、君のお母さんや……他の親族の魔力とよく似ていてね。それでこちらにたどり着いた」


他の親族…………遠い記憶が一瞬過ぎります。


黙っている私に藤原さんは話を続けます。


魔力は体の中でどんどん作られるので、その発散方法を学ばないと体に無理がきて体調を崩してしまう。だから魔術の学校に入るのは国のためだけじゃなくその子本人のためでもある、と。


「私が教えると言っているだろう」

「魔力が生成され始めたらそんなことを言っている場合ではないだろう。

……でも、そろそろ魔力は作られているはずだし、もしかしたら本人なりに何かしているのでは?」


藤原さんの言葉に皆の視線がまた私に集まります。


「そうなのか?紗良。何か体に変化があって何かしているのか?」

伯父さんが私に訊いてきました。


何もしていません。でも……。


「この頃肩を振り回したいから、川でブンブン回してる。なんとなく外でめいっぱい回したい気分で」


そう言うと、伯父さんが

「そういうことはもっと早く言え……」

と呟きました。肩を回すのはいけないのでしょうか。


藤原さんの後ろに立っていた人が

「紗良さん、僕に向かってその肩を回すのをやってみて」

と言いました。


「家の中でやらせるな」

と伯父さんが言いますが「大丈夫です」とその人が言います。


その人は自分の前で両手をハの字に掲げて「どうぞ」と言います。

野球でボールを受ける人のようなポーズ。

皆が見ているので緊張しますが、ブン!とその人に向かって腕を振りました。

肩を回したい!という気持ちをその人に向かって投げる感じで。

ラジオ体操で腰と肩を捻る動きのような感じです。


その瞬間──皆がハッと息を飲む音がしました。


「───確定だな」

藤原さんの静かな声。


「──学園だけだ。卒業はしてもその後は魔術師として働かなくても構わないと書類を寄越せ。 

 魔術庁長官の直筆のサインと血判入りで。そうでなければ入学させない。紗良はそれを要求できる立場のはずだ」


伯父さんがひどく不機嫌な声で言いました。 


「──良いだろう。特例で卒業後の進路は魔術師を強制しないことに。 

 そちらに進まなくても教育費の返還は求めない。ただし、本人が望めばその限りではないからな?」


藤原さんの声も冷たいです。

先程から見ていると今日が初対面ではないようですよね。


とにかく、2人の間で何らかの話がまとまったようでした。


「紗良殿。君はこのままでは魔力の処理ができず体調を崩すことになる。

 それを防ぐためにも、春からは魔術学園に入力するように。待っているからね」


──そういうわけで、私は4月からは近所の中学校ではなく、東京の山奥にある国立魔術学園に通うことになったのです。


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