第29話 終わりの先に
しばらく沈黙のあと…女神が動く。
「お前は、役目が来たら消えてなくなるんだよ?」
「え……。」
「破壊しようが、ここで辞めようが、消えてなくなるの!…それが運命だから…」
パニルは胸に手を当て、深呼吸をした。
「それでも良い…」
視界は涙で歪む。
「みんなが、大好きなみんなが、笑って居られるなら…」
パニルは女神の手を取る。
「…ただ壊すんじゃなくて――
一緒に生きよう!そしたら女神様もきっとわかるよ!」
「何を馬鹿なことを――」
女神の瞳がわすがに揺れる。
その瞬間……女神の輪郭が淡く光る。
「これはっ!」
戸惑いの色を含んだ声。
けれど、その光は止まらない。
まるで、形を変えようとしているように。
パニルの手を通して、流れ込んでくる温かさ。
優しくて、どこか寂しい光…
「…私は、求めていたと言うの…」
女神の形は消え、パニルの前で丸く光る。
「貴方に…託します。」
「…はい。」
パニルは白く光る玉を抱き締める。
白い景色にヒビが入る。
同時に――
暴れ狂っていた黒い龍の動きが、止まる。
次の瞬間。
その巨体が、内側から光り始める――
鱗は落ち、爪も牙も消え始め、輪郭は溶けるように変わっていく。
やがて、その背に――翼が広がった。
それは、すべてを包み込むような、柔らかな光。
空を舞うそれは、もはや破壊の象徴ではなかった。
再生の象徴。
まるで――不死鳥のように。
淡い紫のそれは、大きな羽を羽ばたかせると、キラキラと光が降り注いだ。
三日間。
その光は世界を巡った。
焼け落ちた森に降り注ぎ、芽吹きを取り戻させる。
荒れ果てた大地を撫で、静かな命を呼び戻す。
誰もが空を見上げた。
名も知らぬ光に、ただ祈るように。
それが誰なのか、知る者はいない。
三日目の朝。
村の復興のため、滞在しているテュセの家の前に、小さな影があった。
「……え?」
戸を開けたレイチェルが、足を止める。
そこに倒れていたのは――
「パニル……?」
見慣れた姿。
あの日と同じ、最初のままの姿で、静かに横たわっている。
慌てて駆け寄り、抱き起こす。
「パニル!ねぇ、起きて……!
アラン!テュセ!来て!」
微かな温もりに、息を呑む。
「生きてる…」
その事実に、胸がいっぱいになる。
その時。
ぴ、と小さな鳴き声がした。
「……?」
視線を落とすと、パニルのすぐそばに――
小さな雛鳥がいた。
淡い光を宿した、不思議な存在。
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そして――12年の月日が流れていた。
パニルは陽の光が入る、大きな切り株の穴の中に横たわっていた。
一人の少女が、肩に白い鳥を乗せて、花を持って走ってくる。
「パニルちゃん、どうぞ!」
周りには少女が置いた花で飾られている。
「……。」
「ぴぴぴっ」
「……っ!」
少女はその場から走り出す。
「パパー!ママー!
パニルちゃんが起きたー!」
「何!?…テュセ!ケイト!
パニルが目覚めたって!」
「ほんと!?」
「急ごう!」
「ママも早くー!」
ここは忘却の森。――だった森。
今は、人間とエルフと、魔物だった生き物と…紫のモフモフの帰る場所となっていた。
おしまい。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
パニルの物語を最後まで見届けていただけたこと、とても嬉しく思います。
壊すことも、守ることも、どちらも選べた彼女が、
最後に「共に生きる」ことを選んだのが、この物語の答えでした。
またどこかでお会いできたら嬉しいです。




