第18話 続・8年前の思い出
滞在――5日目
アランは傷を治してくれたお礼にと、のんびり暮らすエルフではやらないような、畑仕事や掃除をしていた。
「アランて、魔法使いなのに体力あるわよね。」
「あー、最初は剣士になろうと修行してたんだ…でもケイトが剣士になるって言うから。あいつの助けになればと思って、魔法の勉強したら、使えるようになった。」
「すごいわね…勉強でどうにかなるものじゃないわよ?」
「元々魔力があったのかもな!それか天才?」
どこか悲しげに話すアラン。
レイチェルは吸い寄せられるように、口付けをした。
「――っ!?」
「っ!…ごめんなさい。」
「待って!」
レイチェルの腕を掴んで引き寄せると、アランから深い口付けをした。
「…レイチェルは謝るような事はしてない。
俺が、キスしたんだ。」
「アラン…。」
今度はお互いに、吸い寄せられるように口付けを交わした。
その頃ケイトは不穏な動きを見せていた。
長の屋敷の掃除をしていたケイト。
隠している訳ではないが、近寄り難い地下室へ入って行った。
そこは薄暗く、数百年忘れられてたかのようだった。
「うわー。ここの掃除は何日かかるだ!?」
一番奥の棚に、ガラスケースに入れられてある、淡くエメラルドグリーンに光る玉を見つける。
そこだけはホコリはなく、玉に意識があるようにも見えた。
「――綺麗だ。」
そう思ったのは、一瞬だった。
次の瞬間には、目が離せなくなっていた。
「……なんだ、これ……」
ガラス越しのはずなのに、妙に近く感じる。
触れてはいけないと、頭では分かっているのに。
「……ちょっと触るくらい、いいよな」
誰に言い訳するでもなく、呟いた。
その指先が、玉に触れた瞬間――
(…、…願い、…叶えてやろうか?)
「――っ!?」
不気味に思い指を離す。
「なんだ?声が聞こえたような…。
ここは、辞めとくか…。」
ケイトは掃除をするのを諦め、地下室から出て行った。
その夜。
隣に寝るアランを起こさないように、ケイトは静かに体を起こした。
「……もう一度、確かめにいくか。」
ぽつりと呟く。
昼間になかった静けさと寒気が、より不安を煽ったが、ケイトは玉の前まで来ていた。
(……来たな)
「――っ!?」
はっきりと、聞こえた。
(願いがあるんだろう?)
「……うるせぇな」
反射的に吐き捨てる。
けれど、手は離れていなかった。
(救いたいんだろう?
あの場所を。子供たちを。願いを言ってみろ。)
「…か、金が、ほしい。」
ケイトがポツリと言ったすぐ、玉は青白い光を放つ。
「…はあ…。この時を待っていた。貪欲な人間。私が自由になれる日。」
玉の意識は、ケイトの体を乗っ取ってしまう。
地下室から出ようと進んだ先に、エルフの長と弓を引く隊が、待ち構えていた。
「くっ!」
「私が勘付かないと思っていたのか?
欲で生きる宝玉よ。だから数千年の間、エルフの里に隠されていたんだ。」
そこへアランが滑り込んで来る。
「ケイト!?」
状況が飲み込めず、ケイトと長を交互に見るしか出来ずにいた。
「この者は、宝玉に魅入られたようだ。」
「宝玉…?」
「人の欲に反応し、取り付く。
エルフは欲がない故、ここで見張っていたのだ。」
「取り付く。と、ケイトはどうなるんですか?」
「侵食されて魂は死ぬ。そして、ありとあらゆる悪事の結果、玉に戻るか、また他の人間に取り付く。」
「そんな…元に戻す方法はないんですか!?」
「大丈夫よ!」
レイチェルが神官を連れてやってくる。
アランは安堵を顔に滲ませていた。
つづく。




