第20話 七大企業
ベンジャミン・ベーコンとセイコ・マクネアリーが訓練場で
激しい魔法合戦をしていた頃、特務官の長であるナジュリは、
経政連の議員達に呼び出されていた・・・・・・。
プライドシティ ビジネス街 ワールド・キャピタル地区 経済政治連合会本部
経政連の議会場は、黒い正四角錐のような建物だった。正面のゲートには
重武装した特務官が24時間体制で警備しており、一人の特務官が黒い電気
自動車に乗ったナジュリの姿を窓越しに確認すると、彼は彼女に話しかけた。
「足をお運び頂きありがとうございます、長官。」
「うむ。」
「皆さん、お待ちいただいております。・・・お気をつけ下さい。」
「ふむ・・・・・・。ありがとう、君の名前は?」
「レックスと申します。」
「感謝するぞ、レックス。いつもすまないな。」
真っ赤な軍服を着た女性将校に見えるナジュリは、ベレー帽を被った
レックスという男に言った。車は発進し、経政連本部に向かっていった。
レックスは敬礼したまま、ナジュリを乗せた車を見送った。
プライドシティ 経済政治連合会本部 会議室
長方形の黒いテーブルの上には巨大な立体映像が浮かび、経済界の重鎮達が
雁首並べてナジュリを待ち構えていた。その中の一人、ゴドリアスが言った。
「我々を待たせるとは、『時の魔女』、ナジュリは・・・大した身分だな。」
ビンス・シュドルフ・ゴドリアス。宇宙太陽光発電事業で成功したEnergeosの
CEO。EAMAと呼ばれ、古参の議員達からは成り上がり者と見下されている。
「ははは。お前さんのような若造が、ナジュリのことを言えるのかね。」
ジャック・ボルジャー。石油王。七大企業である、ライフ・イズ・オイル社の
7代目会長。71歳のゴドリアスのことを若造と呼ぶ。齢92歳。経政連でも会長。
「まぁまぁ。会長、ようやく事件が解決したのですから。喧嘩はやめませんか?」
カイザー・ロン。七大企業である、テクジア社の会長。同社は様々な
パーソナルコンピュータのオペレーティングシステムに使われている
Mindowを開発した。赤茶色のサングラスと黄色いネクタイが特徴の男。
「・・・クーロン君、人に足を向けるのも止めてもらえないかね?」
ヒロヤ・ヨシロ。七大企業の一角、ヨシロ自動車の6代目会長兼CEO。
コレクター事件では高性能偽体を作れるオハギ・スラグホーンに依頼し、
難を逃れた。宇宙空間を航行できるグラビランナーの完成を目指している。
「重力を感じると、見えないんですよ。この宇宙にどこかにある地球がね。」
クーロン・マッキード。宇宙開発・ロボティクス企業、AerospaceXの
創業者兼CEO。世界一の大富豪。現在、彼は足をテーブルの上に置いていた。
「ヨシロとマッキードの対立、これは売れる!!!!」
ゾディラー・ミルフォード。メディア王。七大企業で、世界最大の新聞会社
『シティ・ポスト』CEO。報道チャンネルの『シティ・トゥデイ』も手掛ける。
「今回、Mero社とシンク・ディファレントのCEO代行は欠席、ですか・・・。」
ヒューズ・クラモト。七大企業。創業百年の老舗銀行のマキモン・ブラザーズ
CEO。クラモトもオハギのおかげで、コレクターによる暗殺から生き延びた。
「それだけではない、AIbirthのシャイデマンも居ないではないか!!」
ギュスター・サイラス。七大企業のパラメディオのCEO。同社は
医療機器・軍事兵器開発では、業界随一との評判。今回の事件では
コレクターに自社の光学迷彩を盗まれたと主張する。ナジュリは、
犯行状況を鑑みても、ギュスターが黒幕の一人だと考えていた。
ギュスターの指摘に対し、クーロンはテーブルの上に足を置いたまま、言った。
「あいつは今忙しいですよ。なにしろ、究極知能開発に真剣ですから。」
「おい、クーロン。なんじゃあ、そりゃあ?」
経政連の会長であるボルジャーは机の上で手を組んで、クーロンに尋ねた。
「まあ簡単に言うと未来予知ができる人工知能ですよ。」
「!? ・・・ほぉ。詳しく聞かせてもらおうか。」
「カオス理論っていう、初期値の完全な測定が不可能だと__」
クーロンがボルジャーに説明していると、ノックがあった。ナジュリは入り、
経政連に敬礼した。ナジュリはこれから始める定例会議で、経政連の質疑応答に
正直に答えなくてはならない。緊張しているナジュリに、クーロンが尋ねた。
「相変わらず、デカい女だな!! まるで太陽だァ!!」
突然のパワハラ。最高権力者の男による洗礼を受けたナジュリは、身長が
190センチもあり、更にバストも大きかったので、学生時代は男子から
「巨乳兵」とセクハラも受けていた。それでもナジュリは怒らなかった。
ナジュリは凛とした表情のまま、着席している議員全員に会釈し、
椅子を引いて座り、ボルジャーの顔を見て、今回の経緯を話し始めた。
「今回、私がコレクター事件の解決を『ワイルドパンク』に依頼したのは、
創業者のジン・ゼッカードが取引に応じたからです。私は彼と話した後、
保護観察官に彼を監視させ、条件を満たしたので、今回の作戦に呼びました。」
「条件とは、どういうことじゃ?」
「はい、会長。私は部下の報告を聞き、ジンを信頼できると判断しました。」
「具体的に話さんかい。ワシは、お前がジンを選んだ条件を聞きたいのじゃ。」
「申し訳ありません、会長。ジンが手掛けているサービスは、情報提供者が儲かる
仕組みになっており、投稿手数料も良心的な価格で、彼はそれ以上の搾取を
やっておりません。また彼の理念も、ユーザーが自由に情報を人々に提供し、
ユーザーが得をするように考えていることが判明し、私は彼が私利私欲で
動かない、誠実な人物だと思い、彼は私の考える条件をクリアしたのです。」
「ほぉ。質実剛健なら、お前は部下ではなくて民間企業にやらせるのか?」
「はい。もし我々特務だけなら、コレクターを討伐することができないと
思いました。コレクターの背後に議員が運営する企業がいるからです。」
ナジュリは、ギュスターに視線を向けた。左側に座るギュスターは、最初から
ナジュリと目線を合わせていなかった。ゾディラーがナジュリに話しかける。
「待ちたまえ。我々の中に、連続殺人鬼を支援する者が居ると言いたいのかね?
パラメディオは光学迷彩を盗まれた被害者なのだぞ? なぜ疑うのか?」
「そもそも光学迷彩をどうやってコレクターが手に入れたのでしょうか。
厳重に保管され、簡単に魔物を改造した機械生命体が入れるような
場所ではないと、あなたもご存じの筈ですよ。ミルフォード議員。」
ナジュリに対し、今度は右側に座っているカイザーが首を傾げて話しかけた。
「コレクターは、ヒトの女性に化けていましたよね。・・・ハニートラップで
パラメディオの研究員をたぶらかしたとか?」
「ロン議員。それよりもパラメディオが光学迷彩をコレクターに渡し、
生体情報と脳を集めさせていたと考えるのが、我々の結論です。」
一部の議員達がざわめいた。左側に座るゴドリアスがナジュリに反論した。
「馬鹿な!! パラメディオは普段から生体情報を集めているではないか!!
コレクターという化け物を使う必要がない!! それは貴様の感想だ!!」
「パラメディオが生体情報を集められるとしても、基本は入院患者や戦場で
負傷した兵士だけです。10代の少年少女から生体情報を集めるには手続きが
必要で、まして脳を機械化する計画があるなら、強引な手法を使うでしょう。」
「脳を機械化? 貴様、貴様の根拠はなんだ!?」
「はい。根拠はこれです。」
そう言うと、ナジュリは胸のポケットから黒いマイクロチップを取り出した。
それを見たクラモトは、テーブルの上にそれを置いたナジュリに尋ねた。
「なんですか、これは?」
「今回の作戦に参加した安全保障会社『ケルベロス』に所属する、
ジュリア・スミス氏の音声記録装置です。コレクターは、ヒトの
脳を機械化して超越者にさせることが目的だと自白しました。」
「超越者、とは?」
「憶測になりますが、脳死を克服した機械化人間のことかと。」
再び一部の議員がざわめいた。そして、右側に座っているヒロヤがこう言った。
「現在の科学技術では脳の延命はできても、脳の自然死は防げません。意識を
コンピュータに移植できるとしましょう。問題はその意識は本人なのか、
それとも人工知能が演じている疑似人格なのか。私とクラモトさんが
襲われたのは、もしも私達を機械の体に閉じ込められる技術があれば、
私達は誰かの操り人形になりますな。それが真の目的かもしれません。
医療目的ではなく、生物を機械化させて、制御する意図を感じます。」
冷静な態度のヒロヤに対し、驚いた表情のゾディラーが話しかける。
「それはまったく気づかなかった!! つまりコレクターを支援する企業は
ヒトの操作が目的か!! 我々を操って、世界を支配する・・・うーむ!!
何か記事が書けそうな予感がするぞぉ!! これは面白い話だァ!!」
「ミルフォードさん、落ち着いて下さい。これは私の稚拙な推理です。
音声データを聞きましたが、コレクターは私の研究成果と話しており、
パラメディオとつながる話は出てきません。それについて、あなたは
どう結論づけたのでしょうか? 答えて下さい、ナジュリ長官。」
「はい。注目してほしいのは、その前の発言です。コレクターは私達が
ヒトを救うために働いていると言い、私達は脳の機械化を目指していると
発言しています。つまり、これは組織的に動いていると気づきました。」
議会は騒然となった。そんな中、クーロンとギュスターだけは平静だった。
その後、ボルジャーの鶴の一声で会議は終了し、真相究明は保留となった。
ナジュリは権力の本質を知った。どんなに根拠を述べても利害関係により、
審議は打ち切られる。意思を捻じ曲げる力が、最も強いとナジュリは思った。
プライドシティ 学生街 サピエンティア地区 サイバレンシア大学病院
白いベッドの上で、首にギブスをはめているジュリア・スミスは
横たわっていた。ジュリアの傍に、豹のような顔をした機械化人間が
折りたたみ椅子に座っている。その男は、シティの居酒屋でフードで
顔を隠した男にエスカの始末を頼まれた、マシンスレイヤーだった。
豹顔の男は、ベッドで横になっているジュリアに話しかけ始めた。




