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サイバーファンタジーの異世界で本気出す  作者: 南田華南
コレクター編

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第11話 来訪

  激しい雨が降り注いでいた。鉄とコンクリートで構成されている

 建造物に水が染み渡る。一切植物が生えていないプライドシティは、

 自然の恩恵を受けない人工物を崇拝していた。彼らにとって技術の

 進歩こそが至高であり、樹を植えて共生を目指すことは怠惰だった。


  高層ビルの路地裏には多くの室外機とダクトが配置され、まるで神経

 細胞のように絡み合っていた。その場所を、一人の男が走っていた。


  男は息を切らし、顔から汗が流れている。彼は運び屋で、シティの

 犯罪企業ギャングから受注した合成麻薬をナイトクラブの顧客に届ける仕事を

 20年以上続けていた。もう足を洗おうと、最後に始めた仕事で彼は

 予想外の出来事に遭遇した。いつも通り、客に商品を渡した後で、

 路地裏で傘をさして喫煙したら、雑居ビルの窓から悲鳴が聞こえた。


  そして上空を見上げると、まるで透明人間のようなシルエットが

 窓を開けて出るのを目撃した。雨のせいで、歪んだ空間が男には

 見えた。そして人の形をした正体不明の透明人間は見上げる男と

 視線が合い、男に向かって飛び出した。男は傘とタバコを落とし、

 無我夢中で路地裏を走り回った。男は虚空に向かって叫んだ。


「嫌だぁああ!! まだ死にたくねえ!! 助けてくれよママァ!!!」


 男が叫んだのは別れた女房ではなく、他国で暮らす母親だった。


 そんな男の悲痛な叫びに、残酷な言葉を吐く女がいた。


「ママは来ないわよ。逝きなさい。」


  男に何かが絡みつき、男は額に痛みを感じた。しかし次の瞬間、

 男の頭は輪切りにされた。男の頭の上半分がロケットのように

 発射され、真っ赤な手に掴まれた。そして赤い手は保冷箱に

 男の脳をしまい込んだ。雨に濡れたことで、自然に男の血を

 洗い流していた。そして雨によって透き通るような肌から水が

 滴り落ちる。赤いメッシュが入った青い髪を持ち、金色の瞳が

 妖艶な輝きを放つ。女の身体は真っ赤な色で塗装されていた。


 青い髪の女は自分の腕や脚を見ると、こう言った。


「あらあら。雨だと光学迷彩は厳しいか。仕方ないわね。」


  どうやら光学迷彩は長時間濡れていると、機能を停止するようだ。

 がっかりした様子で、女は手に残った男の血をなめて、言った。


「・・・データ収集完了。これで30代男性のヒトはコンプね。」

「それにしても、新しい脳はいいわぁ。前の男の脳よりもいい。

 女は感情が多様だわ。」


 N-XXダブルエックス機械生命体ミュータント史上、初めてのヒト型の新種である。人間の言語を

 理解し、人間社会に溶け込むように進化した。ヒトの脳を頭頂部からセットし、

 脳を直接学習する機能が搭載されている。現在の偽名はエスカ・ミューランデ。

 彼女には使命があった。それは__________


  ジンは腕を組みながら、黄色いグラビランナーの窓から外を見つめていた。

 雨が強くなっている。そして、背後から尾行しているグラビランナーにも

 関心が向いた。ジンは覚悟を決め、対面にいるベンジャミンに話しかけた。


「なぁ。オレとミシェルの場所を移動できるとしたら、出来るか?」

「なぁーに勿体ぶって話すんだァ★ そんなの長官の許可がいるに

 決まってるだろ!! 大人しくマンションに着くまで、待ってろ★」

「今から長官と話したい。つなげることは出来ないか?」

「おい!! 僕はお前の保護観察官だぞ!! なんで観察対象が命令するんだよォ!!」

「オレはナジュリと長期契約を結んでいる。お前の上司と対話をする権利がある。

 頼むベンジャミン。お前の量子操作魔法でナジュリを呼び出してくれ。」

「・・・・・・カッ!! 分かったよ。ちょっと待て★」


  ベンジャミンは目を閉じると、人差し指を回して意識を集中した。

 彼はミシェルと違って、脳インプラントを挿入していないようだ。

  すると突然、ベンジャミンの目が開き、そこから青白い光が出た。

 ジンは無表情で、量子通信機状態のベンジャミンに話しかけた。


「・・・ナジュリか?」

「どうした、ジン? ・・・まだマンションに着いていないのか?」

「どうしてオレがまだ着いていないと思った?」

「お前をマンションの近くまで案内したら、ベンが私に連絡する手筈だ。

 だがお前がベンを使って話しているということは不自然だ。緊急事態か?」

「ああ、手短に話す。今、ロズノフの女スパイかもしれない奴に追われている。」

「女スパイ?」

「地下街で俺の名前を尋ねた赤い髪の女だ。俺の魔法生成AI、アミちゃんが

 言うにはそいつがマシュアに頼んで、マシュアはロズノフに連絡し、オレが

 地球からの転生者だと確信したと推論している。」

「ふむ。それだと赤い髪の女はスパイではない気がするが?」

「・・・なんでだ?」

「それならマシュアに頼む必要はない、ロズノフに直接報告する筈だ。

 そしてロズノフがマシュアに頼めばいい。マシュアはロズノフの手下だ。

 それとロズノフならお前を尾行させない。既に特務官ジャッジナイトの管理下に置かれた

 お前とミシェルの動向を探るのはリスクが高すぎる。ならば、お前の行き先で

 罠を張る筈だ。お前は必ずMeroメロ社でキャサリンとマシュアを殺した犯人を

 追うと奴は考えている。ロズノフはわざと情報を流してお前を釣る気だ。」


  ジンはナジュリの話を聞いて、ふと脳内で赤い髪の女のことを思い浮かべた。

 確かにロズノフが今ジンを追跡するとしたら、赤い髪の女以外に仲間を使って、

 ジンがこれから住むマンションを特定する筈だ。しかし今のところそれがない。

  そして、ジンが欲しい情報をばら撒いて罠にはめる方が現実的だと、ジンも

 ナジュリの推理には一理あると考えた上で、ナジュリに質問を始めた。


「・・・じゃあオレらのことを追っている赤い髪の女は何の目的だ?」

「先ほど地下街の映像データを見たエド1佐が言うには、あの女は

 安全保障会社『ケルベロス』の契約社員だ。エド曰く、お前のことを

 追っているのは恋愛感情からではないかと考えている。」

「はぁ!? 恋愛感情ゥ!?」

「そうだ。マシュアが殺されたことはもう報道されている。

 もし彼女がスパイならお前に会いに行こうとしないだろう。

 現在のお前は、世間では連続殺人鬼の疑いがある人物だ。

 彼女はお前に会いに行けば目撃者に疑いの目を向けられる。」


 そう考えると、そうかもしれない。依頼したマシュアが殺されたら、

 赤い髪の女は疑われているオレと会うのを躊躇ためらうだろうな。

 逆に、オレのことが好きで、街で見かけたから追っているのか。

 たとえ誰かに見つかって、ネットで叩かれても気にしないと…。


 青白い瞳のベンジャミンの口からナジュリの声が再びジンに届いた。


「逆に罠を張るのだ。お前とミシェルはあのマンションにいることを

 ロズノフや赤い髪の女に教える。奴らがお前に近づく機会を与えるのだ。」

「オレらが奴らのエサになれってか?」

「そうだ。潜伏場所を知った連中はお前の行動を監視するために、

 近くに仲間を置こうとするだろう。我々特務官ジャッジナイトがそこを押さえる。」

「そしてロズノフの手がかりを掴む訳か。」

「警告にもなる。今後ロズノフが何かしようとしても、すべて潰される。

 ロズノフはお前を狙うよりも、コレクターによる殺人を続けさせるだろう。」

「優先順位を変えるんだな。奴らは脳みそ狩りに注力する。」

「お前の言う通りだ。では、このままお前とミシェルはマンションで待て。

 もしも来訪者で不審人物が居たら、ベンジャミンを使って連絡してくれ。」

「オーケイ。じゃあ、またなナジュリ。」

「ああ。連絡感謝するぞ、ジン____」





 プライドシティ 住宅街 フォートランド地区





  黄色いグラビランナーが目的地に到着し、ジンは車から降りた。

 車内にいるベンジャミンは手を振りながら、ジンにこう言った。


「明日の夜にまた来るぞ★ その時にはコーヒーを所望する!!

 お前と違って僕は改造していないからなぁ。喋ると喉が渇く!!」

「・・・・・・ああ。いつもお前は体内の水分を消費しているからな。

 不便な体を持ってて、可哀想だな。」

「ハハハハハ!! 生き物の素晴らしさを実感できないお前に同情する★

 では、また会おう!! 屑鉄スクラップのジン!!」

「じゃあな、ベーコンレタス・バーガーマン。」


 お互いに嫌味を言い合い、別れた2人の男達は帰路に着いた。


 ジンはマンションのエントランスに近づくと、いきなり声が聞こえた。


「部屋番号と暗証番号をお願いします。」


  姿は見えない。が、自動ドアの天井部分にある赤い点灯が点滅しており、

 おそらく人工知能が対話していると考えたジンは、上を見上げて答えた。


「2007号室。暗証番号は1984だ。」

「お帰りなさいませ。どうぞお入りください。」


  機械で加工した声は、黒いマスクと茶色いトレンチコートを装着したジンを

 迎え入れた。自動ドアが開き、ホールを歩くジン。植木鉢が置かれておらず、

 代わりに数式やグラフをアートにした絵が4つ飾られていた。このビルは、

 来訪者に観賞用植物よりも数学の方が価値があるってことを言いたいらしい。


  エレベーターの前に立ち、ジンは上に行くためのボタンを押した。

 数秒後、エレベーターの扉が開き、ジンはエレベーターに乗ると、

 ミシェルが待つ2007号室を目指した。このビルの最上階は30階で、

 ジンがこれから住む場所は20階にある。上の階の住民が静かだと

 良いなと思っていると、あっという間に20階を知らせる番号が出た。


「ずいぶん早いな、このエレベーター。重力を感じなかった。」


  エレベーターが開き、ジンが廊下に出ると遠くから男の声が聞こえてきた。

 音の方に目を向けると、ボサボサ頭でリクルートスーツを着た怪しい男が

 2007号室の前で何かを話している。ジンは警戒しながら、男に近づいた。

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