男たちの熱き連結作業
「……さて、どうしたものか」
カフェ『KIRABOSHI』の裏庭には、重苦しい空気が漂っていた。
目の前には、車輪が外れ、無残な姿で地面に沈んだ黄金のロイヤル・リムジン。
その隣には、対照的に、無傷のまま極彩色に輝く痛馬車『ミスティア号』が鎮座している。
「痛馬車だけじゃ、全員乗るには狭すぎる。かといって、女王陛下を荷台に乗せるわけにもいかねえしな」
オタクミは腕を組み、二つの馬車を交互に見比べた。
ロザリア、リア、セラ、シエル。男三人に大量の荷物。
どう考えても、定員オーバーは避けられない。
「……やはり、私が走って並走するしか……」
レジナルドが、魂の抜けたような目で呟く。
「いや、団長置いてけぼりは外交問題になるだろ」
オタクミは顎に手を当て、思考を巡らせた。
動力はある――痛馬車。
快適な客室もある――壊れたリムジン。
足りないのは、それらを繋ぐ「絆」だけだ。
「……よし、閃いた」
オタクミの口元が、悪魔的に歪む。
「ないなら、繋げちゃえばいいんだよ。痛馬車を『牽引車』にして、壊れたリムジンの客室部分を後ろに連結させる!
名付けて――『痛リムジン・トレーラー化計画』だ!」
「と、とれーらー……?」
聞き慣れない言葉に、レジナルドとアーグが同時に首を傾げる。
「要は二台を合体させるんだよ! 男の夢だろ、合体は!」
オタクミはバシッと手を叩き、作業着代わりのエプロンを締め直した。
「やるぞ野郎共! 王都までの快適な旅路は、俺たちの筋肉と汗にかかってる! 工具箱持ってこい!」
⸻
「ぐぬぬぬぬ……ッ!!
なぜ……なぜ私が……王国の騎士団長たるこの私が……スパナ片手に馬車の下に潜らねばならんのだ……!」
裏庭に、レジナルドの悲痛な呻き声が響く。
彼は今、高級なマントを脱ぎ捨て、ワイシャツの袖をまくり、油まみれになって壊れたリムジンの下に潜り込んでいた。
「文句言うな団長!
アンタのその無駄に鍛え上げた筋肉は、今この瞬間のためにあるんだよ!
その鉄骨、絶対落とすなよ!?」
チラシの裏に描いたラフ画を手に、オタクミが現場監督さながらに叫ぶ。
「無駄とはなんだ無駄とは! ……くっ、しかし、この構造……意外と複雑だな」
悪態をつきながらも、レジナルドは持ち前の真面目さと怪力で、巨大な車軸を一人で支えていた。
「アーグ! 連結部分の強度はどうだ!?」
「問題ない! 拙者の『愛』で補強済みだ!」
一方、アーグは溶接魔法――火属性魔法の応用を用い、二つの車体を繋ぐ金具を加工している。
「ふむ……ただ繋ぐだけでは美しくない。流線型を意識し、風の抵抗を……そして何より、ミスティア様の尊さを損なわぬフォルムでなければ!」
バチバチバチッ、と火花が散る。
職人の目で鉄を打つ姿は、もはや芸術家のそれだった。
「おいアーグ! こだわるのはいいが、早くしないと日が暮れるぞ!」
「待てオタクミ殿!
ここは妥協できん! 連結部とは、すなわち二つの魂が重なる聖域……適当な仕事は許されん!」
「どいつもこいつも面倒くせえな!」
オタクミは悪態をつきながらも、どこか楽しそうだった。
身分も立場も忘れ、男たちが集まり、一つの巨大なメカ――馬車を組み上げる。
そこには原初的な「工作の喜び」があった。
⸻
数時間後。
男たちの奮闘により、二つの馬車は物理的に繋がった。
前方に極彩色の痛馬車。
後方に、車輪を換装された黄金の客室。
異世界初となる、「痛リムジン・トレーラー」の誕生だった。
「よし、機能的には完璧だ。あとは……」
オタクミは、二つの車両を繋ぐ連結部分を見つめた。
黒い鉄の塊が剥き出しになっている。
「ここだな。ここに『意味』を持たせないと」
「意味、とは?」
煤で顔を汚したレジナルドが問う。
「女王陛下が乗るんだぞ?
ただの連結器じゃダメだ。
この『前』と『後ろ』が繋がっていることに、物語性が必要なんだよ」
オタクミは筆を取り、アーグに目配せする。
「アーグ、いけるか?」
「承知した。陛下の『性癖』……いや、深淵なる御趣味を反映させよう」
二人は連結カバーに筆を走らせた。
オタクミが構成を、アーグが作画を担当する、完璧な阿吽の呼吸。
「おい、何を……」
レジナルドが止めようとするが、もう遅い。
完成した連結カバー。
そこには、男装の麗人となったミスティア(痛馬車側)と、ドレス姿の可憐なミスティア(客室側)が、連結器を支えるように手を取り合い、見つめ合う美麗なイラストが描かれていた。
「こ、これは……!?」
レジナルドが言葉を失う。
「名付けて――
『運命の結合』!!」
オタクミが高らかに宣言する。
「同一人物同士の禁断のカップリング……これぞ、女王陛下への最高のおもてなしだ!」
「自己愛の極みではないか!!
不敬だ!! 技術と画力の無駄遣いにも程があるぞ!!」
レジナルドの叫びが響くが、完成度は無駄に高かった。
⸻
「……ふぅ。完成したな」
夕暮れ時の裏庭。
そこには、全長十メートルを超える異様な存在感の「痛リムジン」と、立ち尽くす三人の男の姿があった。
全員、服は油と泥で汚れ、顔には煤。
だが表情は、一つの大仕事を終えた男たち特有の、清々しい達成感に満ちている。
「団長、悪かったな。アンタがいなきゃ、あの車軸は持ち上がらなかった」
オタクミが、ニカッと笑って手を差し出す。
「……フン。勘違いするな。私はあくまで、陛下の安寧のために動いただけだ」
レジナルドは鼻を鳴らしたが、その口元はわずかに緩んでいた。
彼は差し出された手を、ゴツゴツとした手で強く握り返す。
ガシィッ。
「……だが、貴様らの指揮も見事だった。認めてやろう。この『工作』における手腕だけはな」
「へっ、ありがとよ!」
「私のことも忘れるな!」
アーグが割り込み、二人の上に手を重ねる。
「我らの『愛』と『筋肉』と『技術』が、今ここに結合したのだ!
美しい……これぞ男の友情の輝き!」
「暑苦しいんだよ、お前は!」
「なんだと!? 貴殿こそ汗臭いぞ!」
言い合いながらも、三人の間には確かな連帯感が生まれていた。
夕日を背に、油まみれの手で交わされる固い握手。
その背後では、禁断の自己愛カップリングが描かれた連結器が、怪しく輝いている。
「さあ! 男の仕事は終わりだ!
次は腹ごしらえと行こうぜ!」
オタクミたちは、満ち足りた気分を胸に、女性陣の待つ厨房へと向かうのだった。




