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痛武器勇者~最強武器らしいけど、観賞用にして推しを布教します~  作者: 桝田キゲン
4 ラクケット開幕編

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秩序の騎士と文化防衛戦 その2

「……望むところです!」


 俺は《タクミ・ブレイザー》の鞘を握り直した。


 目の前には、白銀の騎士。


 アストリア騎士団長、サー・レジナルド。


 さっき見せられた《白薔薇の舞》は、冗談みたいに美しかった。


 そして、冗談じゃないくらい重かった。


 ……いや、本当に。


 腕がまだ痺れてるんですけど!?


『相手は騎士団長じゃぞ。少しは身の程を知った方がよいのではないか?』


「今さら言うなよ!」


『今なら間に合うかもしれんぞ』


「何に!?」


 レジナルドは、そんな俺を静かに見つめていた。


「……準備はよいか」


「はい!」


「では、続けよう」


 白銀の剣が動いた。


 俺は鞘を構える。


 今度こそ、しっかり見てやる!


     ◇


 ……見えませんでした。


「うおおおおっ!?」


 鋭い一撃。


 続いて、角度を変えた二撃目。


 俺は必死に鞘を動かした。


 カンッ!


 衝撃が伝わる。


「くっ……!」


 強い。


 速い。


 しかも、動きに無駄がない。


 俺が鞘を振り上げれば、その隙を見て距離を変える。


 踏み込めば、こちらの勢いを利用して体勢を崩そうとしてくる。


 ……何これ!


 強キャラのモーションを全部覚えてるタイプの人!?


『お主の攻撃が分かりやすすぎるのじゃ』


「だって鞘で戦ってるんだぞ!」


『その制約を決めたのは誰じゃ』


「俺です!」


 ……反論できねえ!


 レジナルドは、剣を止めた。


「……なぜ、そこまで刃を使わぬことにこだわる」


「さっきも言いましたけど、ミスティアを傷つけたくないからです!」


「それほど大切なものなのか」


「はい!」


 俺は即答した。


「この武器は、ただ強ければいいって思って作ったものじゃないんです!」


 ピンクメタリックの刀身。


 描かれたミスティア。


 自分の好きなものを、全部詰め込んだ武器。


「見て嬉しい。持っているだけで幸せ。それを、戦うためにも使いたいんです!」


 レジナルドは、少し考えた。


「……効率は悪いな」


「そうですね!」


「認めるのか」


「だって事実ですし!」


 俺は胸を張った。


「でも、俺にとっては、それでもいいんです!」


 レジナルドの表情は変わらなかった。


「……理解し難い考えだ」


 ……ですよね!


     ◇


「だが」


 レジナルドは、剣を下ろさずに続けた。


「貴殿は、その不利を自分で引き受けている」


「……え?」


「刃を使わぬと決めたのは、貴殿自身なのだろう」


「はい」


「ならば、それによって生じる危険も、まずは貴殿が負うことになる」


 俺は、思わず頷いた。


「……そうですね」


「だが、ラクケットは違う」


 ……!


 レジナルドの声が、少し低くなった。


「貴殿の判断によって生じた危険を、参加者や購入者が負うことになる場合がある」


「……」


「そこで同じ理屈を使うことはできん」


 ……なるほど。


 俺が鞘で戦うのは、俺自身のこだわりだ。


 でも、イベントは違う。


 参加する人がいて。


 作品を買う人がいて。


 運営する人がいる。


 俺一人の話じゃない。


「……確かに」


 俺は、小さく頷いた。


「そこは、違いますね」


 レジナルドは、少しだけ目を細めた。


「理解したか」


「はい。でも……」


 俺は、鞘を握り直した。


「だからって、自由に描くことまで制限する理由にはならないと思います!」


「……その点については、まだ議論が必要だな」


 レジナルドは、静かに答えた。


     ◇


「……そこまで!」


 少し離れた場所から、アーグの声が飛んだ。


「オタクミ、いったん休め!」


「えっ!? まだいけるって!」


「腕が震えてるだろう!」


「……あ」


 見れば、確かに震えていた。


 ……いや、これはあれだ。


 武者震いというやつで。


『ただの疲労じゃ』


「言わないで!」


 セラが呆れた顔で近づいてきた。


「本当に無茶しないって言ってたわよね?」


「……はい」


「その結果がこれ?」


「……はい」


「まったく……」


 セラはため息をついた。


 リアも、心配そうに俺を見ている。


「先生、大丈夫ですか?」


「大丈夫!」


 俺は笑った。


「ちょっと腕が痛いだけだ!」


「それ、大丈夫って言わないと思います……」


 ……リアまで!


 シエルも少し離れたところから、じっと俺の腕を見ていた。


 ……ごめん。


 心配かけてるな。


 レジナルドは、剣を収めた。


「ここまでにしよう」


「……え?」


「これ以上続けても、貴殿の動きは鈍る一方だ」


 ……正論!


 また正論!


 この人、剣より言葉の方が刺さるんじゃないか!?


『どちらもよく刺さりそうじゃのう』


「笑えないから!」


     ◇


 立ち合いが終わり、俺たちは広場の端で話を続けることになった。


 アーグが、持ってきていた資料を開く。


「さて。剣の話はここまでだ」


「……はい」


「本題に戻ろう」


 アーグは、ラクケットの出展内容を整理した紙を示した。


「今回の問題は、作品の展示と、商品の販売と、正規品だという説明を混同したことにもある」


 レジナルドが頷く。


「詳しく聞こう」


「例えば、子供が描いたドラゴンの絵を飾る場合」


 アーグは、俺を見る。


「これに、商品の仕入れ先の確認は必要か?」


「必要ない!」


「そうだな」


「……おお」


 ちゃんと答えられた!


『それくらい当然じゃろう』


「今、ちょっと嬉しかったのに!」


 アーグは話を続けた。


「では、誰かが作った商品を仕入れて販売する場合はどうだ」


「……出所の確認が必要だな」


「そういうことだ」


 レジナルドが口を開く。


「ならば、販売品については確認を義務づけるべきではないか」


「……でも」


 俺は、少し考えた。


「自分で作ったものを売る人もいますよね?」


「当然だ」


「その人たちまで、難しい説明を求められたら困ると思うんです」


 レジナルドは、静かにこちらを見た。


「何を作り、誰が販売するかを明らかにすることは、難しいことか?」


「……人によると思います」


「人による?」


「初めて参加する人は、自分の作品を人に見せるだけでも緊張します」


 俺は、リアを見た。


 リアは少し驚いた顔をしたあと、小さく頷いた。


「……はい」


 そして、静かに口を開いた。


「私も、最初は自分の絵を見てもらうのが怖かったです」


 レジナルドが、リアへ視線を向けた。


「……そうなのか」


「はい。上手く描かなきゃいけないって、ずっと思っていました」


 リアは、少し照れくさそうに笑った。


「でも、好きなものを描いていいって分かって……やっと、自分の絵を見てもらいたいと思えたんです」


「……」


「ラクケットでは、初めて絵を描くっていう子もいました」


 リアは続けた。


「何を描けばいいか分からなくて、最初はずっと迷っていたんです」


「……それで?」


「好きなものなら何でもいいって伝えたら、少しずつ描き始めてくれました」


 俺は、あのミニカードの机を思い出した。


 小さな紙に、思い思いの絵が増えていった。


「もし、描く前に難しい決まりがたくさんあったら……」


 リアは、言葉を探すように少し俯いた。


「その子は、描かなかったかもしれません」


 レジナルドは、しばらく黙っていた。


 そして、静かに言った。


「……参加のしやすさが重要だという点は分かった」


 リアは、ほっとしたように息をついた。


 だが。


「しかし、それだけで管理を不要とすることはできん」


「……はい」


 リアは、素直に頷いた。


 ……この人。


 本当に、簡単には譲らないな。


     ◇


「……問題は」


 アーグが、資料を指さした。


「何を確認するかだ」


 俺たちは、アーグの話を聞いた。


「自分の絵を展示するだけなら、作品を持ってきた本人が何をしたいのか確認できればいい」


「うん」


「自分の作品を販売するなら、価格や受け渡しの条件も必要になる」


「なるほど」


「仕入れた商品を売るなら、作った人や仕入れ先の説明が重要になる」


 俺は頷いた。


「……全部同じ扱いにする必要はないんだな」


「そういうことだ」


 レジナルドは、しばらく考えていた。


「……分類すること自体は合理的だ」


「おお!」


「だが、申請した内容と違う商品を持ち込まれた場合、その分類は機能するのか?」


「……!」


 俺は、思わず口を閉じた。


 まさに、ラクケットで起きたことだ。


 手作り小物の出展者として申し込んでいた人が、当日になって仕入れ品を追加していた。


「申請の内容が正しいことを前提にした仕組みなら、虚偽の申請には対応できん」


 レジナルドは、淡々と続けた。


「その場合、誰が確認する」


「……」


「問題が見つかったとき、誰が対応を判断する」


「……」


「購入者に説明が必要になったとき、誰が責任を負う」


 ……うっ。


 次々に問題が出てくる!


「……俺たち、ですかね」


 俺が答えると、アーグがため息をついた。


「そんな曖昧な言い方をするな」


「すみません!」


 レジナルドは、静かに言った。


「責任の所在が曖昧なままでは、同じことが起きる」


 ……確かに。


 ラクケットは、みんなの協力で開催できた。


 でも、協力してくれた人たちに、問題の責任まで押しつけるわけにはいかない。


「……だったら」


 俺は、ゆっくり口を開いた。


「運営する俺たちが、ちゃんと責任を持てる方法を考えます」


 レジナルドが、こちらを見た。


「……貴殿が?」


「はい!」


「その覚悟はあるのか」


「あります!」


 俺は、拳を握った。


「だって、俺が始めたことですから!」


     ◇


「……覚悟だけでは足りん」


 レジナルドは、厳しい声で言った。


「必要なのは、実際に対応できる仕組みだ」


「……はい」


「貴殿が倒れれば終わるような催しでは、文化を守るとは言えまい」


 ……ぐっ。


 それも正しい。


 俺が全部やるって言っても、できることには限界がある。


 実際、ラクケットの準備だって、俺一人では無理だった。


 アーグがいて。


 セラがいて。


 リアがいて。


 シエルがいて。


 街の人たちが協力してくれて。


 ようやく開催できたんだ。


「……分かりました」


 俺は、静かに頷いた。


「一人で抱え込むのは、違いますね」


「……そうだ」


「でも!」


 俺は顔を上げた。


「だからこそ、いろんな人に参加してもらいたいんです!」


 レジナルドは、わずかに眉を動かした。


「……どういう意味だ」


「作る人だけじゃなくて、運営する人も、見に来る人も、みんなで考えられる場所にしたいんです!」


「……」


「俺一人が全部決めるんじゃなくて、困ったことがあったら、ちゃんと話し合えるようにしたい!」


 ……うん。


 言いながら、少し整理できてきた。


 自由って、何でも好き勝手にしていいってことじゃない。


 誰かが困ったときに、知らん顔していいってことでもない。


 でも。


 誰かが決めた正解に、全員が従うだけの場所にもしたくない。


「……俺は、そういうラクケットにしたいです」


 レジナルドは、しばらく黙っていた。


     ◇


「……貴殿の考えは聞いた」


 レジナルドが、静かに言った。


「だが、まだ不十分だ」


「……ですよね」


「話し合えば、すべて解決するわけではない」


「……はい」


「悪意を持つ者が紛れ込めば、善意だけでは止められぬ」


 俺は、ラクケットで見つかった商品を思い出した。


 作った人も、仕入れ先も、まだ分からない。


 買った人は、正規品だと思っていた。


 ……そうだ。


 悪意があったのかどうかも分からないんだ。


 だから、余計に難しい。


「……分かってます」


 俺は、ゆっくり答えた。


「でも、悪い人がいるかもしれないからって、最初からみんなを疑うのも嫌なんです」


 レジナルドの目が、鋭くなった。


「……ならば、どうする」


「……考えます」


「考えるだけか」


「今は、まだ答えが出ません」


 俺は、正直に言った。


「でも、だからって、自由に作る場所を諦めたくないんです」


 ……沈黙。


 レジナルドは、何も言わなかった。


 俺も、それ以上は言わなかった。


     ◇


 広場には、静かな風が吹いていた。


 さっきまで剣を交えていた相手と、今は言葉を交わしている。


 でも、どちらが難しいかと聞かれたら。


 ……間違いなく、こっちだ。


『剣なら、受ければよいからのう』


「……言葉は、受けるだけじゃ駄目なんだな」


『そういうことじゃ』


 俺は、レジナルドを見た。


 この人は、秩序を守ろうとしている。


 それは、ただ厳しくしたいからじゃない。


 守らなければならないものがあるからだ。


 でも。


 俺にも、守りたいものがある。


 ラクケットで見た、あの笑顔。


 初めて描いた絵を、嬉しそうに見せる子供。


 自分の作品を褒められて、照れる大人。


 そして、小さなミニカードに描かれた、たくさんの『好き』。


 あの自由を、簡単には手放せない。


「……レジナルドさん」


「何だ」


「俺、あなたが守りたいものも、ちゃんと考えたいです」


 レジナルドは、静かにこちらを見た。


「……ほう」


「でも、俺が守りたいものも、見てもらいたいです」


 しばらくの沈黙。


 やがて、レジナルドが口を開いた。


「……ならば、実際に確認させてもらおう」


「……え?」


「貴殿らが生み出したものを」


 その声は、まだ厳しかった。


「作品を見れば、無条件に価値を認めるという意味ではない」


 ……!


「何が行われ、誰にどのような影響を与えたのか。それを確かめねば、保護すべきものも、対処すべき問題も判断できん」


 ……なるほど。


 この人は、まだ俺たちの文化を認めたわけじゃない。


 あくまで、騎士団長として確認しようとしているんだ。


「……分かりました」


 俺は、ゆっくり頷いた。


「でも、ひとつだけ約束してください」


「何だ」


「上手いとか、値段が高いとか、それだけで判断しないでください」


 レジナルドは、目を細めた。


「……なぜだ」


「初めて描いた絵にも、作った人にとって大事な意味があるからです」


 しばらくの沈黙。


 レジナルドは、静かに答えた。


「……見ずに価値を決めることはせぬ」


 それ以上は、何も言わなかった。


 俺も、無理に笑わなかった。


 この人と俺では、まだ考え方が違う。


 きっと、簡単には分かり合えない。


 それでも。


 俺たちが守りたいものを、目の前に並べることはできる。


 そのとき、この白銀の騎士は何を見て、何を判断するのだろう。


 ……少し怖い。


 でも、逃げるつもりはない。


 ――文化防衛戦は、まだ終わらない。

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