1話 異世界への誘い
あなたに推しはいるだろうか?
俺にはいる。断言しよう。
俺の人生の半分は、いや、ほぼすべては推しのためにある。
その推しとは──
「ミスティアちゃああああん!!!」
俺、小田タクミ、24歳、独身。
だが、魂は魔法戦姫ミスティア・ルミナスと共にある。
『輝星のルミナス!』──
人々の願いを光に変え、歌いながら戦う魔法少女たちの物語。
キラキラしたバトル×百合要素×熱い友情が詰まった国民的アニメであり、俺の生きる意味そのもの。
主人公・ルミナス率いる輝星戦姫たちが、「星の輝き」を巡る戦いの中で絆を深め、成長していく。
可愛らしい日常パートと、魂を燃やすシリアスバトルのギャップ……それこそが至高なのだ!
中でも俺の最推し、ミスティア・ルミナスは最高の尊さを誇る魔法戦姫。
氷の魔法を操るクールな剣士でありながら、仲間のために己を犠牲にする儚さ……。
そのたびに俺の心は打ち砕かれ、そして救われる。
「たとえどんなに辛い時でも、私の魔法は希望の光。みんなの笑顔を守るために、私は戦う!」
……あの回は、今でも見返すたびに泣ける。。。
今日は、その推しアニメ「輝星のルミナス」のライブイベント!!
会場は推しの名前を叫ぶ同志たちで埋め尽くされ、俺もそのひとりとして全力でサイリウムを振る。
汗と熱気に満ちた会場で、一斉に振られるサイリウムがまるで星空のように瞬き、耳に響くコールが胸を震わせた。
ミスティア・ルミナス(CV:三嶋レナ)の声が響いた瞬間、脳内のルミナスが覚醒した──。
「るみたん、最高だよおおお!!」
「うおおおおお!!!」
全力でコール&レスポンスを決め、汗と涙にまみれた神の時間を過ごした俺。
ライブが終わる頃には、喉は枯れ果て、全身が燃え尽きた。
(……生きててよかった)
この瞬間のために生きてると言っても過言ではない。
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ライブが終わり会場を出て、ライブ会場の記念撮影をしていた所、一人の男が駆け寄ってきた。
「オタクミ殿〜!今日はチケット譲ってくれてありがとうでござる〜!」
コイツ、オタメガネとは、SNSを通じて知り合ったオタク仲間である。(ちなみに、オタクミとは俺のSNSの垢名である。)
彼も俺と同じく『輝星のルミナス』のファンで、たまたまライブチケットを余らせていた俺が譲った(転売ではないよ!!)のがきっかけで仲良くなった。
「いやー、やっぱり生るみたんの歌声は最高だったな! また行こうぜ!」
「是非ともでござる〜! では拙者、帰るでござる!」
妙な口調だが、いいヤツだった。
そして俺も愛車に乗り込み、推し曲を爆音で流しながら帰路につく。
夜の道路を疾走する俺の愛車、痛車輝。俺が名付けた、愛と輝きの化身だ。
ボンネットにはミスティアちゃんのドアップ、サイドにはライブ衣装バージョン、リアウィンドウには「☆ルミナス☆」の文字がデカデカと貼られた最高の愛車である。
(今日も推しが尊い……)
そう思いながらハンドルを握る俺だったが──
──突然、視界に人影が飛び込んできた。
「えっ……!?」
時間がスローモーションになる。
反射的にブレーキを踏もうとするが、足が間に合わない。
──光が弾ける。
耳をつんざく衝撃音とともに、俺の意識は闇に飲まれた。
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目覚めた場所は……
「……はっ!?」
気がつくと、俺は真っ白な空間に立っていた。
(なんだここ……? 俺、事故った……よな?)
周囲には何もない。
ただ、ふわふわと光の粒が漂い、幻想的な雰囲気を作り出している。
頭を整理する暇もなく、目の前に金色の光が収束し、ひとりの男が現れた。
屈強な筋肉、そして──推しが描かれたライブTシャツ。
「やあ、オタクミ殿!」
「……は?」
ガチムチの男が、満面の笑みで俺を見つめていた。
「……誰?」
「ふっふっふ……貴殿は拙者のことを“オタメガネ”と呼んでいたな?」
「……え?」
よく見ると、このメガネ顔、どこかで見覚えがある。
いや、っていうか……
「オタメガネ!? お前、何があったんだよ!?」
「いやぁ、実は拙者……神なのだ!」
「意味がわからん!!!!」
「まぁ、神という言っても神候補なんだが……
ちな本名はゴルドスともう申す!!」
普通のオタク仲間だと思っていた男は、実は異世界の神──その名も「ゴルドス」だった。
そして彼は俺に告げた。
「今から貴殿を異世界へ転生させる!」
「……えぇぇぇ!?」
俺の運命は、推しのライブ後に一変したのだった。