プロローグ〜さらば醜い世界よ〜
桜の花が舞い散る遊歩道を佐倉士郎は青色の髪を靡かせて走っていた。
今日から新学年ということもあり、士郎はクラス替えを楽しみにしていた。
士郎をいじめる奴らと違うクラスになれるのかもしれない。士郎にとってはそれだけが望みである。同じクラスになったから昨年度は毎日のようにいじめられたのだ。
だからこそ、今度こそは別のクラスになりたいと思っている。
だが、運命というものは彼に味方しなかった。
「やあ佐倉、待ってたぞ」
金髪の男は太い腕をズボンのポケットに入れてニヤニヤとしている。
彼の名前は奥宮雅流斗。士郎をいじめるグループのリーダーだ。
「どうしているのさ?」
士郎にとってこの男は苦手な人だった。常に士郎をコキ使い、できなければ殴ってくる。
あの太い腕で殴られた時はあばらの骨が折れるかと思うくらい強いものだ。
「どうしてって、俺たち友達だろ?」
「う、うん……友達」
本当はそんなこと思ってもいない。士郎はただ雅流斗の機嫌を損わないようにしているだけ。今だって士郎は笑っているが心のうちでは笑っていない。
「それぞれクラスを確認したら教室に入れ」
校舎前にいた生徒たちが学校の教員に促され校舎の中へと入る。
「あ、まだ確認してなかったや」
士郎は校舎の壁に貼られたクラス表を確認する。クラスは全部で6クラスある。1組、2組と順に確認して行き、3組の表を見たとき、まず雅流斗の名前を見つける。
どうか同じクラスになりませんようにと願いながら下の方に視点を動かす。
後藤という名前がある。来るならその下に書かれている可能性が高い。
佐倉士郎という名前を見つけてしまった。
士郎は最悪の状況に口をぽかんと開けたまま、突っ立っている。
「おーい佐倉、大丈夫かー?」
士郎のことに気づいたスーツの教師が士郎の顔の前で掌を上下させる。
「あ、だ、大丈夫です。すみません、すぐ行きます!」
『今すぐこの場から立ち去りたかった。こんな運命なら呪いたかった。今日、始業式に行かなければよかった』
士郎の脳裏をよぎるのは後悔の念ばかりだった。
「これくらいなら死んでやるよ!」
今時珍しい木でできた階段を駆け上がる。ギイギイと軋む音だけが響き渡り、2階、3階と登っていく。
「佐倉君、こっちだよ」
スーツを着た黒色のロングヘアーの女性教師が手招きで呼ぶが、士郎はお構いなしに階段を駆け抜ける。
「ちょっと佐倉君!?」
女性教師も階段を走って駆け上がる。
さらに木が軋む音が大きくなる。
木製のドアが視界に映る。ドアノブを回して一気に奥へと押し込んだ。
それと同時に眩しい光が視界を遮る。
「まぶしっ!」
右腕で目を覆う。
少しして目が慣れてきた。
士郎は屋上へと歩みを進め、鉄でできた金網を乗り越える。
「さよなら……理不尽な世界」
女性教師も屋上にたどり着くも、時すでに遅し。
士郎は前に体重をかけ、静かに下へと落ちていった。