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時刻神さまの仰せのままに  作者: Mono―
第一章:学園
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29話:策士・結

姫乃の兄_彼方と、父親である一吉。姫乃の勇気に応え、その2人の関係を改善する”作戦”を語る。


そして、一方の彼方は、再び姿を現した青い瞳の少女と対話する__



”ひめのん人質大作戦”


その作戦は、1練生が参加する鳳凰祭のイベント”校外学習”において、参加していた生徒複数人が行方不明になる、というプロローグから始まる。


勿論、本当に安否不明になる訳ではないが、姫乃を筆頭に結、芽衣、芽愛が一時的に集団の中から姿を隠し、彼方と一吉の関心を一身に向けることを目的とした偽装工作だ。


そして、当然の如く姫乃の身を案じる2人に、姫乃本人から連絡を入れ、その場で進展を話し合ってもらい、関係の蟠りを取り去る協議をする。


彼方と一吉がお互いに顔を合わせようとしないのなら、無理矢理にでも引き合わせ、ここで決着をつけてもらう。


そんな意図を持って、奇策__”ひめのん人質大作戦”は起承したわけだ。


結からこの事を聞かされた芽衣は、考え込むように腕を組みながら、話を出した本人__結へと語りかける。



「確かに、少し強引ではありますが、あのお二人を無理にでも引き合わせようとするならば__いい策であると思います。しかし…」



芽衣は言葉を詰まらせ、ちらりと姫乃を見やる。そして、その顔を数秒見つめ、そして。



「言葉にするのと、それを実行するのとでは、重みが違います。間髪入れず吐き捨てられらる言葉と違い、それを行動に移すとなれば、様々な問題が生まれてきます。例を挙げるとするならば__」



そう言うと芽衣は、言葉を向ける結から視線を外し、自らの使え主__姫乃をチラリと横目で捉えながら言葉を紡ぐ。



「お忘れではないでしょうが、お嬢様の身を護り、生活の障害となる物を排除するのが私たちの使命です。…つまり、そのお嬢様が路頭に迷うようなことがあれば、それは私たちの責任となる訳です」



使命、責任。

その言葉を聞き、ここまで無言であった芽愛も口を開く。



「…ねえちゃんの言う通り__つまり、僕たちがついていながら何をしているんだ~、ってなる訳なんですよ」



結からこの作戦を聞かされた時。姫乃は、この作戦を成功させるためには芽衣と芽愛の協力が不可欠であると同時に、自分のために2人の仕事を邪魔してしまうのでは、とどこかで感じていた。

自分を守るという事は、自分に何かあった時に2人の責任となり、それがそのまま彼女らに降り掛かってしまう。

…その犠牲の上に、自分の幸せがさも当然のように成り立っていいものなのかと、ふと思ったのだ。



「私の立場上、その作戦について否定も肯定もしかねます。…勿論、仕事の内に入るのであれば話は別ですが」



客観的な姿勢を貫く芽衣ではあったが、姫乃の為ならば辞さない。そんな覚悟とも取れる言葉を残し、姉弟は口を閉ざす。そして代わりに、その言葉を受け取った結と姫乃が、静かに言葉を紡ぎ出す。



「…確かに結の作戦の通りに進めば、お兄様とお父様の仲は良くなるのかもしれない。…けど__」


「……」



その言葉の先を読み取った結も、無言のまま俯く。


万人が幸せである世界など存在しない。…いや、存在出来ないのだ。誰かの幸せを優先するのならば、他の誰かが後手に回り、犠牲とならなくてはいけない。


避けて通ることの出来ない世の摂理に、葛藤に苛まれる結と姫乃。


だが、その沈黙の意味を見透かしたかのように、芽衣は無表情ながらも、2人の心に明かりを灯すような声音で言う。



「そんなに暗い顔をせずとも、…言ったはずです。私はその作戦に、否定も肯定もしないと」


「え…?」



ふと顔を上げた姫乃が、芽衣の瞳を見つめる。



「物事には、”機”という物があります。それが今でも後のことでも、必ずその時はやって来ます。…私の意見としては、”機”が熟すのを待ってからでも、遅くはない。その一言です」


「…じゃあ! もし準備が万端になったら、手を貸してくれるの?」


「お嬢様が一切の懸念なく、実行せよと言えるようになった時。それが、”好機”でしょう。無論、その時は全力でお力添えを致します」



結の作戦は、強いて言うのなら”極論”だ。回り道や障害物の無い、最短ルートの答え。


しかし、急がば回れという言葉があるように、目先のものに向かって突き進むだけが近道ではない。熟考し、最善を尽くすことが最短に繋がる。




「__さあ皆さん、もうすぐ目的地です! 野営訓練、頑張ってきてくださいね〜!!」




芽衣の言葉で重みの取り払われた一行の雰囲気を読んだかのようなタイミングで、車内にアナウンスが響く。

他の生徒達は、色とりどりな声音、反応を持ってそれに応える。



「では私たちはできる限りの手を尽くし、”その時”へ向け準備を進めておきます。お嬢様個人からの依頼も、芽愛が解析を進めています。…お二人共、今のご自分の為、有意義な時間を過ごされますよう」



「ええ。ありがとう、芽衣。芽愛も、よろしくお願いしますね」


「はい、お任せ下さい!」



姫乃と同じく結も従者たちと言葉を交わし、長きに渡った、”ひめのん人質大作戦” の第一回会合は、幕を下ろしたのであった。





**********





空のグラスに薄らと映り込む、青い瞳の少女。


その視線に気づいた彼方は、彼女との出会いが夢では無く、この世界で誠に起きている現実であると確信を持った。


世界行く末や大人達の権力争いになど、正直言って興味がない。けれども、彼女の話を聞いた事により、自分や逢里、綾音の存在が、世界にとって重要なものであると知った。


あの”約束”も、そして新たに知った世界の在り方も。どれも、邪険には扱えない代物だということ。


そして___



「知っている、とは__ ”何を”だ?」



視界に”アレ”を捉えた時から、何をどう説明して良いものか、全く頭で整理がつかなくなった。


健慈の言葉にふと意識を現実に引き戻されても、まるで口が話すのを拒んでいるかのように開かない。


まるで、何かに引き留められているかのように___



『随分と興味深い話をしているようじゃの、人間たちよ。…悪いが、少しばかり聞き耳を立てさせてもらったぞ』



そんな、言葉を話すことを忘れた彼方に代わり。どこからともなく響く声。

その声は、聴覚ではなく。頭の中に直接響いてくるように感じる。


その声の主は、ステンドグラスに浮かび上がる聖母のような。…何とも表現のしようがない不可思議な存在感を持って、そこに佇んでいた。



「なんだってんだ…? コイツは…」


「誰の…声…?」



既に一度この声を感じている彼方を除く3人は、声の主を探して辺りを見渡す。



『ここじゃ。…と言っても、これでは視認性が悪いか。…そうじゃ彼方よ。この近くに大きな鏡があるじゃろう? そこに皆を誘導せい』


「か…鏡って…? どこにあるんだよ?」



右往左往する3人を他所に、謎の声と会話する彼方。どうやら、ひとつの机を囲うこの4人にのみ、この声が聞こえるらしく。宴会場を固める他の健慈近衛隊のメンバーには、一切の変わりがない。



「…もしかしてこの声、君が行ったって言う世界と、何か関係があるの?」



逢里の言葉に答えようとし、ふと、先程まであった異質な閉口感が無くなっていることに彼方は気づく。



「関係がある… なんてレベルじゃ、ないのかもしれない。この人は、そこの__」



『なにせ、お主らが ”狭間” と呼ぶ世界の統治者じゃからの。わらわは』



彼方の言葉に重ねるように、賢者口調の訪問者__時の女神ウルドが語る。



「さっき彼方が言ってた女神様って…?」


「…ああ。このひとのことだよ」



相変わらず姿を見つけ出せずにいる3人に、彼方は向かいに座る健慈の手元にある、空のビールグラスをコーンと指先で鳴らしてみせる。



『むぅ… やはりここは不安定なようじゃな。…早いところ、大きな鏡に繋げるとしよう』


「えっ!? ちょっと待てって! 折角皆と顔合わせるって時に__」


『ならば尚更じゃろう? こうも手を煩わせられる環境では、落ち着いて話も出来ぬわ』



グラスが甲高い音を立て、そこに逢里、綾音、健慈の視線が集まりかけた時。突如としてウルドがそんな事を言い出し、映し出されていたウルドの姿が滲みながら薄れていく。



「…何も、見えないじゃない」


「やっぱあの人、掴みどころがねぇ…」



グラスの曇りを指で払いながら、綾音が不思議そうに瞳を揺らす。



「ま…まあ、そんなわけだから健慈」


「何がそんなわけだテメェ。何がなにやらさっぱりなんだが?」


「でかい鏡がある所に行こう。それで、もう一度ウルドに来てもらう。…多分、俺の口から説明すると、要所要所で言葉足らずになると思うから…」



はぁ…とため息をつく健慈は、人工芝のように刈り揃えられた顎鬚をなぞりながら呟く。



「あの”女神様”ってのは、”ウルド”って名前なのか?」


「うん。そう言ってた」


「……」



彼方の返事を聞き、考え込む健慈。相変わらず宴会場は健慈近衛隊の隊員達に埋め尽くされ、喧騒に満ち溢れているのだが。

彼方たちの座る席だけは、嘘のように静まり返っている。



「…取り敢えず、その女神様が言っていたように、大きな鏡に行きましょう。百聞は一見にしかずって言いますし」


「そうね。先生、案内を頼みます」


「…分かった」



この世ではない__ある世界へ誘われ、世界を知った少年。

そして、導きを授ける男から世界を聞いた少年少女。


時を同じくして世界を知った彼らは、次なる世界を知るため、過去を司りし女神の元へと足を運ぶのであった。



…その道中。



(まさか…こうも早く歴史が変わるとはな。時の女神、ウルド___か…)



この施設で一番大きな鏡面のある場所を目指し、その先頭を行く男は、静かに、思惑を走らせるのであった。






coming soon…


遅くなりまして、誠にすみません。当初の目標よりも少しばかりズレる形となってしまいますが、年内に一章完結出来るように予約を始めています。今のところ、ではありますが、一章は35話での完結を予定しています。

それと同時に改稿版の方も投稿していきますので、これからもどうぞ宜しくお願いしますm(_ _)m

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