28話:勇気の虹
結に溜め込んだ気持ちを打ち明け、彼女の優しさに触れた姫乃。
彼女たちは行く末には、何が待っているのだろうか__
黄昏という名が相応しいオレンジ色に染まる空の下。居住区同士を繋ぐ街道を、1台のバスが走っていく。
「びっくりしたよ! 来ないなぁと思ってたらいつの間にか後ろにいるんだもん」
「出来ればもう少し早く合流したかったのですが。…思いのほか、手間取ってしまいまして」
「なんて言うか、あの気配の消し方はあれだね! 忍者!」
「…まあ、似た様なものですから」
バスに乗っているのは、鳳凰学園中等部1練生たち。競技場での観戦を終え、次なる目的地である野外訓練所へと移動している真っ只中である。
「大変だよね。ひめのんの護衛をしながら、ほかの仕事もやってるなんて」
「そうですね。…しかし、一番気を遣うのは芽愛の挙動です」
「えっ…?」
微笑ましい?会話を紡ぐ金髪の姉弟が合流したのは、スタジアムを後にした姫乃と結が駐車場へと向かっている最中。
まるで狙い澄ましたかの様なタイミングで、足並みを揃えて来たのであった。
「…芽愛。あの後、何か御兄様の情報は手に入りましたか?」
結が前席の友人たちと話を始めたタイミングで、バス後部の座席へ着いた姫乃が、従者へと語りかける。
すると芽愛は、申し訳なさそうに肩をすぼめながら言う。
「それが… かなり固いプロテクトに守られていて、もう少し時間がかかりそうなんです。…ごめんなさい」
「いえ…謝るのは私の方です。…すみません、仕事を増やしてしまって…」
「お…御嬢様が謝ることなんて…」
ただでさえ忙しい日々を過ごす従者に、さらなる労働を強いてしまっている後ろめたさに、俯くことしか出来ない。
改めて知る自分の無力さと、それをどうすることも出来ない弱い自分。
結に気持ちを打ち明け、少しばかり肩の荷が下りたとは言え、まだ現状は何ひとつ変わっていない。
考えれば考えるほど、深みにはまってゆく思考。
…しかし。
またもそれを払拭するのは、彼女の一言だった。
「そうだ! 聞いて芽衣ちゃん! 芽愛ちゃんも!」
窓の外に意識を向けかけていた姫乃の意識の端で、座席の背もたれを限界まで倒し、前の席に座る結が身を乗り出し2人へと話しかける。
「コラ恋羽ァ! シートベルト外すんじゃない!」
途端に飛んでくる担任教諭の怒号をものともせず、結は体勢を変え再び後ろへと顔を向け話し始める。
「2人にね、頼みたいことがあるんだ!」
「…私たちに、ですか?」
「うん!」
「…高く付きますよ?」
「そこをなんとか! このとーり!」
”お願い”のポーズをとる結に、冗談ですよとわずかな笑みを浮かべ答える芽衣。
それを聞いてポンと笑顔になった結が、1枚の紙を携え、本題へと入る。
「これは…?」
「ふふ… これはね、ひめのんの危機を救う作戦だよ!」
その結の言葉を聞いて、今度は姫乃がこちらへ向き直る。
「ちょっ…! 結!? それはもう少し考えてから2人に言う約束じゃ…! 」
「大丈夫だよ? 今考えて改稿したから!」
「なっ…!」
事態を呑み込めない従者2人の視線の先。拳を握り締める姫乃と、こちらは千切られたノートを握り締める結。
数秒間の硬直の後、紙切れを握り締める結が口を開く。
「…私は、ひめのんより勉強が出来ないし、注意力散漫で、よく先生に怒られて。いっぱい、周りの人達に迷惑をかけてる。…けど、こんな私が何言ってんだって…思われるかもしれないけど。 …ひめのんに足りない物がなにか、もしかしたら…分かったかもしれないんだ」
「…わたしに… 足りないもの…?」
破天荒で、天真爛漫な彼女がたまに見せる姿。
凛としていて、誰よりも真面目な表情で__
そこ言葉と姿に思わず見惚れる姫乃に、結は言う。
「それはね、 ”勇気” だと思う」
「…勇…気…?」
「そう、1歩を踏み出す勇気。ひめのんはせっかく頭も良くて可愛くて、いい所いっぱいあるんだから。もっとそれを振り撒かないと。 …ね?」
「……」
勇気__
それは、初めて異進種を目にした時。兄が背中で語ってくれた物の名だった。
*****
今から2年前。兄__彼方が鳳凰学園に入学して間もない頃。
園内の動物が突如として異進化し、ニュースや新聞の一面を飾ったある事件が起きた日。兄と芽衣、芽愛との4人で動物園へ言った時の話だ。
つい先程まで平然としていた動物が、異形の物へと変わってゆく様を目にし。怯えるしか出来ない自分にの元へ、その恐怖はやってきた。
あまりの光景に目を逸らせないでいた姫乃と、異進種となった猛獣の瞳とが真っ直ぐ合ってしまい、姫乃が攻撃対象となってしまったのだ。
もちろん、従者の2人が黙って見ているわけではない。しかし、猛獣と子どもとでは体格が違いすぎる。
そんな中、姫乃を守るべく戦う2人を不利と見て、姫乃を抱き締める彼方が刀を抜いたのだった。
後から聞いた話だが、彼方にとってあの戦闘が、異進種との初めての交戦だったらしい。
そして。彼方の参戦がなければ、自分たちは討伐隊が来る前に殺されていた。と、芽衣と芽愛は言っていた。
つまり。あの時彼方が異進種に立ち向かった事で、犠牲がゼロで抑えられたと言っても過言ではないのだ。
「…勇…気」
結の言葉を聞いて、記憶が。そして、心に新たな感情が沸き立つ。
それは、佐倉姫乃と言う人物の未来を決める、運命の選択であった。
「…分かりました。では…結の考えた方法を、2人に伝えましょう!」
「そう来なくっちゃ!」
2人の声音に、新たな彩りが加わり。
「あっ! 虹だ!」
車内の誰かが声を上げる。
「…ほら。神様もひめのんを応援してるよ」
見上げた景色の先、先程まで黄昏を映していた瞳に、七色のアーチがかかっていた。
「さあひめのん! 作戦会議を始めよう!」
すっかりと天真爛漫テンションに戻った結が、いつも以上の元気を持って話し始める。
走り続けるバスの中、新たな物語が、紡がれようとしていた。
coming soon…
お読み頂きありがとうございます。
長らくお待たせしてしまい、誠に申し訳ありませんでした。
さて、次回以降の投稿についてですが、週1〜2回での投稿を予定しています。
秋の涼しさを感じられるようになる頃までに、長らく続くであろうSkuldの一章を完結させたいと思っておりますので、今後ともどうぞよろしくお願いします。




