第二章 クラスの異変
こんにちは、皆さん!これは『東雲さんは普通になりたかった!』の第二章です。この章をお読みいただき、ありがとうございます。読者の皆様にご覧いただけて、とても嬉しく思います!この章が皆様にとって楽しいものになりますように!
俺は報告書を渡した直後にその場を離れた。谷口もまだ屋上で気分を落ち着けたいと言っていた、あいつをそこに残して教室へ向かった。
その前に、俺は階段の横にある二階の自動販売機に立ち寄って、缶コーヒーを買った。この後の授業は数学だ――俺のホークラックスだ。担当の教師もまた、妥協を許さない冷血な殺し屋のような人だ。だから、授業中ずっと正気を保てるように、余分にカフェインを摂取しておかないと。
「やー、今日ほんと暑いねー。」
まあ、少なくともそういう予定だった。――そう思ってた矢先に、招かれざる声が俺の耳に飛び込んできた。うるさい女の声だ。
「あー、こう暑い日にはモジモジのいちご味の牛乳が飲みたいなあ。でも、あいにく財布を鞄に忘れちゃった。」
あの少女、大げさにモノローグを続けてやがった。
「教室に戻って財布を取りに行くなんて、絶対疲れるよね?それに、休憩時間ももうすぐ終わっちゃうし。このジレンマを解決してくれるヒーロー、いないのかな?本当に、誰でもいいからうちを助けて!脱水症状で死ぬ前に!」
必死な懇願が、わざとらしく哀れっぽく繰り広げられた。聞いてられないほどの大げさな演技だ。だから俺は、しぶしぶコーヒーのボタンから指を離し、代わりにモジモジのいちご牛乳を買って、後ろでピンチに陥ってるあの少女に差し出してやった。
「お待ちかねの牛乳です、奥さん。」
「わーい、モジモジ牛乳だ!ありがとうね!……あ、でもうちまだ高校生なんだよ。だから『奥さん』は呼ばないでください!」
ああ、わかってる。どっからどう見ても、彼女は奥さんじゃなくて、お嬢さんだ。身長は百五十センチに満たず、肩までの短い髪、そして一度も災難に遭ったことがなさそうな顔。名前は夏目夏樹。谷口と同じで、俺はこのヤクルト瓶みたいなガキを中学の頃から知っている。三年連続で同じクラスで、よく隣の席にもなった。だから、まあ、結構長い付き合いだ。これだから、こいつは俺に対して遠慮なく図々しく振る舞えるし、しかも畳上げを食らうこともない。もちろん、彼女の厚かましさに俺が妥協しているのには、別の理由もある。だが、この秘密をただの奴に教えるつもりはない。
「かわいい夏目ちゃんって呼んでね!それが最低限だから!」そう言って、その生物はステージ上のアイドルのように頬にピースサインを掲げた。自己愛強すぎだろ。
「ああ、かわいいよ。どうでもいい。」
「え?その反応、何?うつすぎない?」
「お前は、何を期待してたんだよ。」
「ふーん。褒め言葉!」
「本当に自己愛性パーソナリティ障害の怪物だ、こいつ。」
「高い牛乳を一箱やったんだ、褒め言葉よりマシだろ。」
「そうだけど。でもね、高い牛乳は褒め言葉と一緒に飲んだ方がもっと美味しいのよ。」
「ああ、そうか。確かに。でもどうでもいい。」
「あまり欲張るな。いいから、牛乳を飲め。さっき喉が乾いたって言ってたんだろ。」
「え?私の牛乳?小林くん、何言ってるの。エッチ。」
「お前の牛乳なんて言ってない。叩くぞ。」
「御意でござる、将軍!この高タンパク飲料を一滴残らず飲み干します!」夏目がいたずらっぽく笑いながら後ろに飛びのいて、真面目な敬礼を掲げやがった。楽しそうだな、あいつ。
「ああ、ゆっくり飲め。ただだしな。」
「安心して、将軍。ゆっくり楽しむから。だって、めっちゃ喉乾いたよ。さっき体育館でバドミントンしてたから。」
ああ、知ってる。こいつはシャトルキラーだ。単に意地悪なのか、それとも本当にバドミントンが下手なのか——たぶんその両方だ。何せ、こいつの頭はネットより低い。あまりに小柄で、常識すら通り過ぎて気づかないほどだ。
「あ、そうだ。さっき屋上にいたの、見たよ。」そう言って、夏目はその高い牛乳をストローでチューチュー吸った。
「何だその目は、望遠鏡のカヨ。」俺はそう言いながら、自販機の取り出し口からブラックコーヒーの缶を取った。
「へへ、夏目ちゃんの目を舐めないでよ。夜の闇でネズミを狩る鷹みたいに、はっきり見えるんだから。」
「誰だお前、七武海?あと、夜にネズミを狩るのはフクロウじゃなくて、鷹だろ。」
「え?一緒じゃない?どっちも猛禽類でしょう。」
「まったく単純な理屈だな、お嬢。だったら、お前の頭もペットボトルと同じってことか?どっちも透明だから。」
「で、さっき誰と話してたの?すごく真剣そうみたい。」
「鷹の目があるんじゃなかったのか?見えるはずだろう。」
「小林くん、鷹だって弱点はあるんだよ。あの人がずっとうつむいてたから、顔が見えない。顔が見えないなら、認識できないでしょう。」
「おっ、確かに。」
まあ確か、かみきりみたいにずっとうつむいてたしな。今はちょっと心配になってきた。本当に大丈夫か、あいつ。まだ屋上にいるのか?馬鹿なことだけはするなよ。
「ただの谷口だ。」そう言って、俺は夏目を通り過ぎて歩き出した。
「おっ、谷口くんか。なんかすごく小さく見えたけど?暑さで溶けちゃったのかな?」夏目は俺の後ろをつきながら言った。
「まあ、今はちょっと落ち込んでるんだ。」
「え、落ち込んでる?あの谷口くんが?どうやって?」
俺は夏目に谷口の状況を説明した。彼女は真剣に聞きながら、ところどころでうなずいていた。
「それは……驚きだね。」夏目はそう言った。「だって、田中さんと谷口くんって中学生の時から付き合ってたんでしょ。しかも、すごく仲良さそうだったし。なのに、なんで田中さんが浮気するの?信じられない。」
「そう、でもそれが事実なんだ。水が深いところには河童もいるって言うだろ。」
「え?それってどこのことわざ?聞いたことないけど。」
「さっき適当に作ったんだ。」そう言いながら、黒いコーヒーをすする。苦い。これは人生の味だ。
「ふーん、そういうことね。比喩的に言うなら、『仲良さそうに見えても、裏では何があるかわからない』ってこと?そんな感じ?」
「まあ、そういうものみたいかな。珍しく頭が回ってるじゃないか。」
「ほほほ。これはモジモジ牛乳のおかげだね。」
夏目は──校舎の壁よりも平らな──胸を張って誇らしげに、そして長くストローを吸った。楽しそうだな。たかりの金は味が違うもんだな。
「まあ、表面が普通だからって、隠れてることがないとは限らないってことだよね。」って、夏目はストローをくわえたまま話し続けた。「肉眼じゃ見えないし、心のことは特にね。あの赤い臓器って、急に形が変わったり、理由もなく揺れたりするんだよ。で、霧の中の船みたいに、進むべき方向も、航海する意味も見失うんだ。うわ、うちってなんか詩的!にゃははは!」
夏目は自分に拍手を送り、歓声を上げた。NPD怪物め。
その後、俺たちは俺の教室に到着した。あいにく、まだ席に戻れそうになかった。隣の席のクラスメートが将棋に夢中になっていたからだ――ただの友好試合と呼ぶにはあまりに白熱しすぎていた。ただ、なぜ俺の机を使ってるのかはわからない。聞くのも面倒だったから、俺は廊下の壁に寄りかかって、終わるのを待つことにした。一方、隣の夏目は、さっきの続きを話し始めた。
「で、谷口くんはどう反応したの?愛しの彼女が浮気した後。」
俺はコーヒーを一口すすると、問い返した。「どう思う?」
「うーん。暴れる?ふぇーずつーに入って、必殺技を使う準備でもしてるの?」
「まあ、そこまではしないけど。」
でも、俺のスマホを異世界に飛ばしかけたけどな。
「要するに、失恋したってことさ。」
「へっ?ミドリカワ中のマタドール牛でも失恋するの?なんか意外。」
「や、するだろ。鬼じゃあるまいし。」
それだから彼女ができたんだ。心が優しいからな。
「それに、谷口がただ俺たちみたいに高校生だ。高校生の心がどれだけ強いと思ってるんだ?泣くことの一つや二つはある。」
「別に谷口くんの気持ちがわかってないわけじゃないよ。ただ、あのヤンキーが悲しそうな顔してるのが想像できない。だって、弱い顔を一度も見せたことないし。その落ち込んだ顔の写真とかないの?」
「俺は何を思ってるんだよ。」
「カメラのモンスター。小林くんは、違法な瞬間を写真に撮る癖があるでしょ。」
「いつも写真撮るじゃないんだよ。」
「前田先輩がいるときは別だけど」
「窓から落とすぞ。」
「おおっ!将軍殿、どうか焦りませぬでござる!」
夏目が横に飛びのいて、柔道の構えを取った。まるで赤い熊が支配を試みているみたいだ。あいにく、あのチビの体じゃただの笑いものにしかならないけどな。
「まあ、好きな人に裏切られるのは、簡単に受け入れられることじゃないよね。お気の毒に。」そう言って、夏目はゆっくりとまた俺の隣に寄りかかった。「でも、そういう悲劇には必ず原因があるはずでしょ?だって、突然起こるわけないし。」
「大抵はな。」
「でしょ。じゃあ、原因は何?」
俺は肩をすくめて、正直に言った。「知らん。」
「え?知らないの?」
「あいにく、な。」
「えええ?田中さんの浮気を暴いたのは小林くんでしょ。原因はなんで知らないの?役立たず。」夏目はそう言いながら、ほぼ空の牛乳パックを俺の顔に押し付けてきた。
「人の恩人によくそれを言うな。」
「俺は証拠を集めるための調査をしただけだ。」そう言って、夏目の額を人差し指で押しやった。「田中が浮気した理由は、俺のじょぶですく範囲外だ。だからそこまでは調べてない。」
「へえ、じょぶですく。日本語を使えよ、この野郎。」
夏目は俺の手を払いのけながら、一気にイチゴ牛乳を吸い切った。パックが空になると、彼女はまたモノローグを始めた。
「まあ、でも納得できるよ。人の頭の中を推測するのは簡単なことじゃないだね。ほぼ不可能だ。脳みそをハッキングできるような能力があれば別だけどね。」
「さよ。」
「推測することはできる。でも結局、真実は本人から直接確認するしかない。それも、相手が正直に話してくれればだがな。」
「夏目はそう言いながら、口にくわえたストローで俺の教室を指した。」
「もし人間の心が読めたら、あの子が異変にならないでしょう。」
俺は夏目が指した方へ顔を向けた。教室の隅、そこだけは少し静かな世界が広がっていた。一番後ろの席に一人の少女が座っている。彼女は白鳥のようにうつむき、塗られていない壁のように妙な表情。像みたいに固まったの体。明らかに女子高生が読むには分厚すぎる本が、彼女の机の上で大きく開かれている。他の生徒たちが楽しそうに話し合う中、彼女は一人静かにいることを選んでいた。まるで世界はその分厚い本のページの中にだけ存在しているように。
「本当に何なのよ、あの子は?自分が一番いい時期にいるって気づいてないの?女子高生でいられるのは、たった三年間しかないんだよ。」
「留年すれば四年にできるよ。」
「小林くん、うち、真剣に話してるんだけど。」
なんだよ急に。いつもはお前が一番真面目じゃないのに。
「申し訳ございません。お続けてください、奥さん。」
「お嬢さんだよ、この無礼者。」
夏目がストローを突きつけてきた。そんな危険な武器を向けられては、俺も手を上げて降参するしかなかった。
「だからね、せっかくの貴重な時間をなんで本を読むだけで過ごすのだ?それってすごくもったいないでしょう?本を読む以外にもできること、たくさんあるのに。」
「例えば?」
「えっと…いろいろ。友達を作るとか、部活に入るとか、大会に出るとか、恋愛するとか、他にもたくさんあるしょ。」
「恋愛か。彼氏もできたことない人がよく言うよ。」
「小林くん、家に鏡がないの?」
俺はうつむくことしかできなかった。返す言葉もなかった。
「少なくともうちは告白してた。一方、小林くんは前田先輩を遠くから見つめて、こっそり写真を撮ることしかできなかった。このストーカーめ。」
彼女はもう一度、容赦なく現実で刺してきた。心臓が強くなかったら、恥ずかしさで死んでいたかもしれない。
「まあ、でも恋愛とかあの子にはちょっと重すぎたかもしれないけどね。」
夏目は、自分が俺に与えた傷なんて気にもせず、そのまま続けた。
「あんな氷みたいな態度じゃ、彼氏ができるどころか、近づくことさえ難しいよ。しかも彼女の名前って、『夕陽』みたいな意味なんでしょ? 本来なら温かさとか優しさを感じさせる名前なのに、星ひとつない夜より暗いなんて。マジで? 矛盾だそれ。」
「名前が何だというの?」
「名前は人の象徴だよ。例えば、うちみたいに。うちは夏みたいに明るいでしょ。」
「そうかもな。あとうざい。」
「ひどい!こんなにかわいい女の子がうざいわけないでしょ!」
夏目が俺の肩を掴んで、大声で叫んだ。うざい上に、うるさい。
夏目の自己愛にこれ以上付き合う気もなく、俺は会話の主役の方へと視線を戻した。あの白鳥みたいな少女はまだ椅子に座ったまま、黙って本を読んでいる。名前は東雲光。さっき夏目が言った通り、彼女は明るい名前を持っている——まるで暁の明かりのように。しかし、みんなが知る限り、彼女の性格はその温かさを全く反映していない。
俺と夏目と東雲とは一年の時に同じクラスだった。三人で隣の席になったこともある。夏目は重症の外交的だ。話題がある限り、あいつはぺらぺらしゃべり続ける。一方、東雲は強迫的な内向的だ。人間関係や高校生活には興味がない。かといって、彼女が全てに無関心なわけじゃない。東雲はちゃんと話すこともある、ま、必要最低限の量だけだが。
そんな大差の矛盾があるんだから、東雲は明らかに夏目の話し相手としては不適格だ。二人はまるで資本家と共産主義者、吸血鬼と日差し、自民党と立憲民主党のように、全く仲良くなれない。
「なんか、昔読んだマンガを思い出したよ。」夏目がまた隣でさえずった。「ヒロインが東雲さんそっくりなんだ:無口で、不思議で、非社交的で。で、最終的に主人公が『偶然』彼女の正体を暴く。なんと彼女は別の星から来た宇宙人だった!」
もう一つのどうでもいい情報を、彼女は真剣に伝えてきた。そして、まるで天からの啓示でも受けたかのように、目を輝かせ始めた。
「もしかして、東雲さんって本当に宇宙人じゃない?」
理性的な考慮を一切せずに、夏目は過激な告発を平然と投げかけた。その声は演説家のように大きかったが、幸いにも周囲の雑音に紛れていた。それを聞いたのは俺だけだった。これは、ある意味で呪いのようなものだ。
俺はその狂った推測に、ただ無表情で応じるしかなかった。どう反応すればいいのかわからん。一方、夏目は止められない熱意で、陰謀論を続けていた。
「まあ、だいたいこうなんだよ:何らかの技術的な問題で、東雲さんの宇宙船が太陽系に迷い込んで、最終的に地球に不時着したんだ。宇宙船は大破していて、東雲さんはどこにも行けず、救助隊が来るまでしばらく地球に留まらざるを得なかった。ところが、救助はいつまで経っても来ない。だから彼女は自分で宇宙船を修理する方法を探すしかなくなった。でも、修理をするためには、まず地球の技術や素材を理解しなきゃいけないでしょう。だから、地球の文明を学ぶために彼女は女子高生に扮しているんだよ!」
夏目はまたしても叫び声でモノローグを締めくくった。あんな短時間で物語を即興で作り上げる人間を、俺は見たことがない。こいつの創作能力は確かに賞賛に値する。
「でも、明らかにその計画はうまくいっているわけじゃない。文化や生活習慣、とりわけ言語の壁が、彼女が環境に馴染むことを難しくしていた。だから東雲さんはあまり話さないんだ。まだうちらの言葉を完全に覚えていないから。異星人に囲まれて一人でいるのも、どう振る舞えばいいか迷っちゃうだろ?だから彼女はみんなとの接触を避けてるんだ。それに、ずっと本を読んでるじゃない?きっと日本語の練習のためだ。絶対そうだよ!」
あたかもAIが書いたかのような筋書きを語り終えると、夏目は両手で俺の腕を掴んだ。彼女の笑顔は、雨上がりの虹のように広がった。不安になるほど甘い笑顔だ。まるで画期的な発見をした科学者のように見えた。それは、おそらく試験段階を通過すべきではない何かだった。
「どう思う、小林くん?十分ありえる話でしょ!」
興奮のあまりか、それともわざとなのか、夏目は俺の耳元で叫んだ。彼女の手は、空き缶を襲う嵐のように、俺の体を揺さぶり始めた。
「これ、21世紀最大の発見になるかもしれないんだよ!もし本当だったら、うちらはフェルミのパラドックスを解いた最初の人類として歴史に名を残せるんだよ!すごかない?!」
「おい……」
このちびが重症のSFマニアだってことは知ってるだんが。でも、いくらなんでも興奮しすぎじゃないか?同級生を宇宙人呼ばわりするなんて、あまりにもひどい誹謗中傷だ。名誉毀損で刑法230条1項に引っかかるぞ。思考警察を呼んで連れて行ってもらおうか?それとも、窓から放り投げるか?後者の方が現実的かも。
「戻って、夏目。お前の脳みそは日差しの下で長く遊びすぎて溶けたと思う。話が飛躍しすぎて、もう笑うことすらできない。」
「ちょっと、冗談じゃなくて仮説を立ててるんだよ!」
仮説じゃなく、妄想だ。
「悪いけど、それじゃカール・セーガンの信奉者っていうより、末期の中二病患者にしか聞こえないだけだ。それに、どこの宇宙人が地球まで来て、わざわざ女子高生になるんだよ。ほかにいくらでもやることがあるだろ。会社員とか、科学者とか、それとも超小型アーマーをまとったロボットハンターとかさ。」
「最後のはT-800だよ。あれは宇宙人じゃなくて、未来から来たターミネーターのよ。」
「よく知ってるな。恐ろしい子だ。」
「えへへ。うち、六歳の頃からシュワちゃんの大ファンなんだ!」
なるほど。どうやら、こいつの狂気の源泉がわかった気がする。まず、どんな親が子供にあんな年齢でターミネーターを観せるんだ?その結果がこれだ——長年ハリウッドの毒を摂取し続けたせいで、妄想癖が治らなくなった。
「まあ、でも、東雲さんのその不思議な特徴は全部、うちの仮説に当てはまるでしょ?」夏目はまだ止まらずに続けた。「もし彼女が本当に宇宙人なら、すごくない?彼女と仲良くなれば、土星に無料で旅行できるかもしれないのよ。小林くんも宇宙船で銀河を旅してみたくない?絶対楽しいぞ!」
そういうことを考えられるのは、お前みたいな冒険心を持った人間だけかもな。俺はというと、恐怖で縮み上がるんだ。日本を離れることすらまだ想像できない。地球から7億4600万マイルも離れるなんて、絶対無理だわ。
「そんな真剣に考えるな。東雲はただの普通の内向的な女子だ。」そう言って、俺は人差し指で夏目のでこを押しのけた。「日本にはあいつみたいな人間がたくさんいる。善良な社会の一員として、俺たちにはあいつの距離感を尊重する義務がある。東雲には静かに一人の時間を楽しませておけばいい。俺たちも俺たちの日常を送ればいい。あいつ、誰にも迷惑をかけてないし。」
そうして、この無駄話が終わり。もちろん、夏目はまだ自分の意見を押し通そうとしていた。残念ながら、チャイムの音があいつを遮った。
「この話はまた今度にしよう。あ、牛乳ありがとうね。放課後に返すから。それでは、また会おう、将軍〜!」そう言って、夏目は走り出した。わずか数秒のことなのに、あいつはもう視界から消えていた。
ちょうどその時、クラスメートの二人も将棋を終えたところだった。誰が勝ったのか聞くと、「まだ終わってない」と返された。二人は急いで盤と駒を片付け、それぞれの席に戻っていった。その後、ようやく俺は自分の席に座ることができた。
間もなくして、数学教師の松本先生が教室に入ってきた。その圧倒的な威圧感が一瞬で教室を満たす。生徒たちは一斉に姿勢を正し、前を向いて耳を澄ませる。あくびをする者も、私語をする者も、ましてや居眠りする者など一人もいない。そしてあの“異変”――東雲ひかりでさえ、本を閉じて授業に意識を向けていた。
彼女は背筋を伸ばし、前を見据え、黒板に書かれた公式を全てノートに書き写していた。問題を解くように言われれば、素直に従う。まさに模範的な生徒の姿だ。誰にでも真似できるものではない。ましてや、数学が苦手な俺にはなおさらだ。
東雲ひかりのそんな姿を見て、俺は夏目のさっきの仮説を改めて考え直していた。
もしかしたら、あいつは本当に宇宙人なのかもしれない。知的生命体――いや、天才たちの惑星から来た存在だ。平均的なIQしか持たない俺たちとは、あまりにも遠い場所にいる存在。
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