第7話 ロイのお家にて
荒れた家ばかりの通りに戻ってきた。するとロイが「こっちだ」とさっきのゲーム会場とは違う方へ歩き始めた。
「ねぇねぇ、僕わからないことがあるんだけど」
先を歩くロイに話しかけたらビクッっとされた。害虫でも見付けたのかな。
「な、何がわからないんだ?」
ロイの背中が妙に緊迫して見える。やっぱりそうだ。僕も害虫を見付けると似たような感じになっちゃうもん。
「さっきのお兄さんだよ。何で急に犬の話を始めたんだろ。犬いなかったよね、あそこ」
「……お坊っちゃんが過ぎるだろ」
すごく小さな声だったけど僕にはバッチリ聞こえた。ただそれがどういう意味かはよくわからなかった。
「犬ってのは俺のことだ」
「ええっ!? ロイって犬獣人だったの? どう見ても違うけど……変身魔法でも使ってる!?」
とっても驚いた。だってロイって犬の要素ゼロなんだもん。ケモミミも無いし尻尾も無い。犬獣人特有の懐っこさなんて皆無。本当かなぁ……。
「町の連中はスラムの住人を犬って呼んでるのさ」
「へぇ~、変なの」
本当はもっと理由とか聞きたかったけど、ロイの自嘲気味の笑みがそれ以上踏み込むのを躊躇わせた。そこからは沈黙が続いたよ。
「ここが俺の家だ」
「わぁ、とんでもないボロ屋だね。屋根ないよ?」
「地下室があんだよ」
またロイは笑った。けど、今度は自嘲じゃなくて友達に冗談言われて「うるせぇよ」って返すときみたいな笑みだった。
「明かりを付けるからそこで待っててくれ」
ロイはそう言って先に地下室へ降りていった。
僕は真っ暗闇でも別に明かり無しで見えるんだけど、待ってろって言うから待つことにした。物語の情報だけど友達の言うことは聞いておいた方がいいらしいからね。
少しして地下室に黄味がかった明りが灯った。思ったより明るそう。
「降りてきていいぞ」
ロイのお許しが出たから階段を降りていく。意外としっかりした作りの階段だ。
「うわぁ~、狭~い」
地下室は6m×6mの正方形だった。今にも壊れそうなベッドと水差しの置いてあるガタついたテーブルセット、それから光る石でできたランプがいくつかある。壁際に棚もある。
「スラムでこれは豪邸っていうんだよ」
「はぇ~、そうなんだ」
他人の部屋をジロジロ見るのは失礼だけど、今日から僕の家でもあるんだし別にいいよね。
「ここでロイと二人暮らしか~。ワクワクするね」
石のコップに水を注いでいたロイが困惑顔になった。
「は? え? なんで?」
「なんで? だって僕が家出してるって言ったら俺ん家に来いって言ってくれたじゃん」
「あ、それは……すまん!!」
ロイがガバッと床に座り込んだかと思うと額を床に擦り付けた。
「え……ここに住んじゃダメなの?」
「そ、そうじゃない! そうじゃなくて……」
そこからのロイの言葉は衝撃だった。なんと僕は売り飛ばされていたのだ。あのゲームだと思ってたのはオークションっていう買い物の方法で、一番多い金額を提示したヒトが商品を買えるらしい。
そして買われたらそのヒトの言いなりになって働かないといけないと言う。あ、あ、あっぶなぁ~。僕はもう二度と働かないって決めたのに……ん?
「え、あれ? じゃあ僕を買えるのは僕じゃない? だってオルゲルタ金貨8万枚って言ったんだよ?」
やっぱりあのオジサンたちはズルしてたんじゃないか。
「いや、商品は落札に参加できないんだ……ていうかお前、金貨8万枚も持ってるのか!?」
ロイが詰め寄ってきたけど、すぐにハッとなって一歩下がった。
「持ってるけど今は魔力不足で取り出せないんだよね」
「どういうことだ?」
僕は首を捻るロイに教えてあげた。デコイズっていう便利な偽物のコアに収納してるんだって。それでもロイはよくわかってなさそうに「はぁ……」とだけ返事をした。
「ちなみにロイはいくらで僕を売ったの?」
「っ!? それは……金貨100枚と銀貨50枚、あと銅貨30枚だ」
もんのすごく気まずそうなロイよりも、その金額が気になった。金貨って言ってもガルベール金貨だからとんでもない安値だよ? かなりショック。
「お前、どうやったか知らないが逃げ出してきたんだろ? 準備でき次第すぐに町を出るぞ」
「なんで?」
「そりゃ商品が逃げたらアイツら大損こくじゃないか。今頃死にもの狂いでお前を探してるはずだ」
よくわからないけど、非常に不味い状況らしい。でもロイがそう言うなら従っておこう。この町のことは僕より詳しいはずだもん。
「僕はいつでも大丈夫だよ」
「だろうな。俺は一人連れて行きたいやつがいるんだ。弟分を連れてくるから待っててくれ」
いれかけの水をイッキ飲みしたロイが出ていこうとする。
「あ……」
ちょっと嫌な予感がして、つい声が出てしまった。
「どうした?」
「連れてくるのは本当に弟分? あのオジサンたちじゃなくて? また売り飛ばされるのはちょっとなぁ……」
疑っちゃうのは仕方ないよね。
僕がじっとりした視線を送ると、ロイはさっきよりもっと謝ってくれて、本当の本当だから信じてくれって言った。
「じゃあ信じる。荷造りしながら待ってるから早く帰ってきてね」
ロイを見送った後、僕は部屋にあるものの中でロイが必要そうなものを集めていった。




