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脱走ゴーレムは働きたくない!  作者: 173号機


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第54話 可哀想なユック

▼26.09.20誤字修正

▼26.10.18誤字修正

 ユックの居場所は思ったとおり町一番の高級な宿だった。しかも最上階のすうぃ〜となお部屋。

 ただ、ビックリしたことに、相部屋でもなければ他に僕の部屋を取ってくれてるわけでもなかった。お陰で門前払いされちゃったよ。なんて酷いんだユック。ほとぼりが冷めるまで町に滞在しようって言ったのはユックなのに。

 というわけで、窓から突撃だよ。僕にかかれば壁を数十メートルよじ登るなんて朝飯前だからね。


「ユックユックユック〜!!!」


 ばこんっと窓を開け放って中に入ると、真っ裸のユックが驚愕の表情で僕を見た。


「なっ、ばっ、なんでここが――!?」

「ふふんっ、僕はユックのことなら何でもお見通しだよ」


 一瞬「んぁっ」っと辛そうな声を出してベッドから飛び降りたユックは、高そうなバスローブを羽織ってから食卓テーブルに置いてあったガラスの水差し投げつけてくる。

 ちゃんと割れないようにキャッチしてベッドサイドにある小さなテーブルに置いたよ。だって絶対高級品だもんこれ。こねこね機を使って直したとしても、まったく同じにはならないからね。


「ねぇねぇ、聞いてよユック!」

「あ゛あ゛?」


 ユックは不良これに極まるって感じで睨みつけてくる。けど無視無視。無視しちゃうよ。早く褒めてほしいんだもん。


「僕ね、フラテリス教のイケナイお店見つけちゃった! 僕の知ってるのとは別のだよ! すごいでしょ!」

「だからなんだってんだ。そんなんで邪魔しやがったのか?」


 あれ……なんか思ってた反応と違う。


「ちゃんと偵察もすませたんだよ?」

「知らねぇよ……チッ」


 舌打ちだ! え、舌打ちされたよ! なんで!?


「あ、あのぅ……」

「君は黙ってて」

「す、すみません……」


 さっきまでユックが跨ってた若い優男がベッドの上で所在なさげに声を出したけど、そんなことはどうでもいい。僕は僕の手柄を褒めてほしいんだから。


「オリヴァーを威嚇すんじゃねぇよ」

「威嚇なんかしてないよ」

「嘘つけ」

「嘘じゃないよ」

「じゃあその顔はなんなんだ」

「褒められ待ちの顔だよ」

「チッ……そんな褒められ待ち顔があるかよボケ」


 ま、また舌打ち。しかも悪口まで。ガーン。


「酷いよユック。自分は疑似繁殖行為で気持ちよくなってたのに、ひぃこら言いながら偵察した僕にそんな態度とるなんて。だいたい、欲求不満なら僕が腕突っ込んでヒィヒィ言わせてあげるって言ったじゃんか」

「う、腕っ!?」


 オリヴァーとやらは腕と聞いてユックを凝視。ドン引きかと思いきや、興味津々な眼差しをユックに向けてる。さすがユックが引っ掛けてたきた男なだけある。そのユックは真っ赤な顔で「頼んでねぇ!」って怒鳴って今度はコップを投げてきた。だけど、どこか否定しきれていない感じが透けて見える。

 僕たちは強固な真の友情で結ばれた仲なんだから、全然遠慮することないのに。それに僕、すんごい速く腕を動かせるから、天国見せてあげられると思うんだけどなぁ。


「ていうかさ、ユックが性病に罹ったら僕まで性病になっちゃうんだよ。毎日健康管理してる僕の努力がぱあになっちゃうじゃん」

「健康管理だぁ?」

「そうだよ。食べ物も吟味してるし、毎晩寝てるときに全身隅々までチェックしてるんだから。起こさないよう丁寧に優しくじっくりとね」

「余計なことを……」

「あ、そういえば聞こうと思ってたんだけどさ、ユックってロイたちと違ってお尻の穴が妙に縦長だよね。なんで? 個体差って言うには違いすぎるっていうか――わっ!」


 ユックが掴みかかってきた。なんか知らないけどすごく怒ってる。聞いちゃいけないことだったのかな。


「てめぇ、わざとやってんのか? ご自慢の解析で調べりゃいいことだろうがよ、あ゛?」

「だってそこだけとんでもないプロテクトがかかってるんだもん。相当な量の魔力を使わなきゃ解析できないんだから聞いた方が節約になっていいでしょ」

「……チッ」


 むぅ、また舌打ち。これで三回目だ。親友に対する態度じゃないや。


「ねぇ、ユックは僕のこと大好きだよね?」

「はぁ?」

「大好きだよね?」

「気持ち悪ぃな」

「大好きだよねっ!!!」

「……イコルアがそう思うならそうじゃねぇの?」

「むぅ! 二回足りないよ。それじゃあ朱色の羊を飼ったって許されないよ!」

「なんの話だ!」


 なんてことだ。ユックはあの有名な世界を巻き込んだ大精霊たちの大喧嘩話を知らないなんて……三回大好きって言って朱色の羊を飼ってお世話したら仲直りってやつ。たった八千年前のことなのになぁ。司祭だってのに教養がないなぁもう。


「あ、あのぅ……」


 黙っててって言ったのに、またオリヴァーが割って入ってきた。


「お二人は恋仲なんですか? オレ修羅場に巻き込まれてます? ユークリアはシングルだって聞いてたんですけど……」


 ユークリア? 誰? なんて思ってたらユックが慌てた様子でオリヴァーに近付いて話しかけた。小声で「恋仲じゃねぇ」とか「あいつはただのツレだ」とか言ってる。全部聞こえてるんだからね。


「ただのツレじゃないもん! 唯一無二の全世界で最も尊い関係だもん!」

「面倒臭ぇからお前は黙ってろ! だいたいロイとオルだっているだろうが! なにが唯一無二だ!」

「皆まとめて唯一無二なの! あとメネスも!」


 僕がユックの胸元を掴んでガクガク揺さぶってると、何故かオリヴァーが興奮しだした。

 そんでゴクリって喉を鳴らしたかと思うとベッドから飛び降りて土下座してきた。


「どうかオレも皆さんの仲に加えてください! オレ複数でするのが夢なんです!」


 ……なに言ってるんだろう。

 いきなり友達になりたいって言われても困るよ。そりゃあ友達が増えるのは嬉しいけど、今のとこオリヴァーについて知ってるのは拗れた性癖だけ。それで仲良くなりたいって無理があるよ。

 それに屋台のお姉さんと従魔にも友達は選んだ方がいいって言われたばっかりだし。


「オリヴァーの想像してるような仲じゃねぇから」


 ユックが僕のことを一生付いて回る負債だとか、我儘ニートとか散々な悪口を言ってオリヴァーを説得しようとしてる。だけどオリヴァーは引き下がらない。

 だから僕はオリヴァーを解析して弱みを探ることにした。相手の弱みを握るのは交渉事の基本だって記憶の中(・・・・)のユックもロイも言ってたから……ね…………うわぁ。


「ねぇ、ユック。もしかしてそのヒトにお菓子もらった?」


 ユックは僕を無視してオリヴァー、もとい本名シムに悪口を言い続けてる。


「……そっか。もらったんだね」


 解析の結果、ユックはお菓子を美味しそうに平らげたとわかった。可哀想に。


「ユック、聞いて」

「あ゛?」


 ユックの肩を叩くと睨まれた。でも平気。今日のユックには酷いと思うことが多かったけど、シムのお菓子を食べたとわかった今じゃ、とっても寛大な気持ちで接してあげられる。


「あのね、僕はシムと友達になってあげてもいいかなって思ってるよ」


 もちろん嘘だよ。僕の大事なユックに酷いことしたんだ。こんなスカ野郎はオークの集落で便所番でもしてればいいんだ。


「だけどロイたちの意見も聞いた方がいいと思うんだよね。だからさっさとフラテリス教のお店をどうにかして大学に戻ろ?」

「今戻ったら面倒臭ぇだろうが」

「じゃあこっちに来てもらお。シム、フルマトリローナ魔法大学に行ってロイとオルを呼んできて。あとできればメネスも」


 いきなり本名で呼ばれて目を丸くしたシムだけど、夢の多人数疑似繁殖行為ができると解釈したようで、ロイたちの特徴も聞かずにそれはもう嬉しそうな顔で部屋から出ていった。


「可哀想なユック。すぐに内臓こねこねしてあげるからね」

「お、おい。なんでそれを割るんだ……?」


 僕は水差しを割って作ったガラスの破片で、たじろぐユックのお腹をかっ捌くことにした。

ーーーオリヴァーの解析結果ーーー


【名 前】シム・ロ・トカス

【種族名】スカラキュバス

【出生地】旧セイアッド帝国領フェグナリア海域ルファド塔

【出身地】ドゥマトラ大陸南東部ファラオリ王国レフィ地方

【職 業】甘味行商人,封拳士,非合法揉みほぐし師

【性 別】男

【年 齢】20

【レベル】15

【体 格】〖身長〗189cm〖体重〗73kg

【能力値】

 〖体〗B〖攻〗F〖守〗E〖速〗D〖精〗C〖魔〗D

【属性一覧】

 水,愛,夢

【魔法一覧】

 〖下級〗水〖中級〗ー〖上級〗ー

【スキル一覧】

 〖固有〗シークレットスライム

 〖種族〗吸精,播種,淫欲粒,STI無効,フンコロドルチェ

 〖習得〗封拳,素敵な小部屋,違法もみもみ

     ハイパーリフレッシュ

【特記事項】

 フンコロガシとインキュバスの混血。何をトチ狂ったのか寿命間近のインキュバスがその命と引き換えにフンコロガシを孕ませた結果生まれた異形種。見た目はやや気弱そうながらもヒトに擬態したインキュバスそのもの。ヒト種に対して殺意が沸かないため一応ヒト種に分類される。四歳の冬、高位の貴族に拾われ養子となるが、インキュバス特有の致命的な計算能力を引き継いでいたせいで成人を期に跡継ぎから外された。元手不要の甘味専門行商人を生業にしているが、前述の理由から莫大な借金をこさえてしまった。そのことが養父にバレしないようオリヴァーと名乗っている。しかしだからこそ借金に歯止めがかからくなっているもよう。性別関係なくあらゆる種と子を成せる。純血のインキュバスも舌を巻くテクニシャン。健康。

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