第12話 友達は隠し事をしないものだよ
僕たちは無事オークション会場を脱出した。今は改めてロイの家の隠し通路を通って坑道に向かっている。
「で、なんでゼルカト山の坑道なんだよ」
コロンが不満たらたらなのは、教会の馬車を使って遠くの町へ行けばいい、との主張を僕が退けたからだ。
なぜならコロンが大暴れしたから。
協力を頼んだのは僕だよ。けどまさか会場に放火するなんて思わないでしょ。
しかも異変に気付いて駆け込んできたオジサンたちに笑顔で聖火魔法をばんばんぶっ放つし、それでも意識を失わなかったヒトには折り畳み式の聖杖でぶん殴ってたりもしてた。
おまけにオジサンたちが身に付けてた服やら装飾品やらをできる限り剥ぎ取っていくようロイたちに指示もしてた。
お陰で誰も怪我せずに脱出できたし、ロイは服がたくさん手に入ったって喜んでたけど、普通に逃げるより騒ぎが大きくなっちゃった気がする。
「だって誰かさんのせいですごい騒ぎになってるんだよ。そうなったらここから逃げた方がいいってロイが言ってたんだもん。ね、ロイ?」
急に話を振られたからかロイが困った顔をしている。ちょっと怒っているようにも見える。オルはロイの後ろに隠れて警戒心マックスって感じだ。
「お前、イコルア……なんだよな? ガキみたいだけどよ……」
ふぁ? ああ、そういうことか。
僕がコルキスフレームのままだから混乱してるんだね。そういえば伝えてなかったよ。てへへ。
「僕ね、ルトルフレームとコルキスフレームっていう2つの姿になれるんだ」
「違げぇ! いや、違わねぇんだけど……こっちにも聞こえてたんだよ。お前、魔物なんだろ? 俺たちをどうしたいんだ! ちゃんと説明しろ!」
混乱じゃなかった。ロイも警戒してたんだ。今さらながらそれが伝わってくる。
でもさ、説明ったって僕たちもう友達同士だよ。何がそんなに不安なんだろう。きちんと対等になれたし真の友情で結ばれた親友……あ、連結してないんだ。友達とはしなきゃなのにすっかり忘れてた。そりゃ不安になるわけだ。
「ごめんごめん。うっかりしてた。すぐ連結するね。コロンも一緒に」
言い終わると同時に2人と手を繋ぐ。2人はサッと手を引っ込めようとしたけど逃がさなかったよ。
それで、手を繋いだらすぐ強制連結を発動する。ロイはコロンの魔法で治療してもらったし、コロンも解析で健康だってわかってるからね。友達になってくれるって約束してたし躊躇う理由がないもん。
「うっ……」
「ぐ、なんだ、これ……」
一気に精神力が減った2人は目眩を感じたっぽい。ロイは片膝をついてしまったし、コロンは目頭を押さえている。でもごめんだけど続けるよ。大事なことだからね。
「……よし、これでステータスの仮連結は完了だよ。じゃあこれから記憶も連結するから、それで不安を解消してね。僕の全部がわかるはずだよ」
今度は頭痛を感じたようだ。仕方ないよね。僕ってヒト種に比べて長生きさんだから、その分流れ込む記憶の量も多くなっちゃうんだ。
もちろんロイとコロンの記憶も僕に流れ込んでくる。ただ、僕のメモリは20年とちょっとくらいの記憶量を処理してショートするようなやわなものじゃない。どっこも痛くならなかった。でもそれじゃ対等とは言えないな。後で2人に目眩と頭痛が起きることしてもらわなきゃだね。
「あ、へぇ……わぁ、こんなことまで!? えぇ!?」
2人ともまだちょっぴりしか生きてないのに、その人生は想像以上の過酷さだった。解析では出てこなかった情報もたっくさんある。ほぇ……ロイもコロンもちょっと変わった性癖なんだねぇ。僕には性欲とかないからなんか新鮮。
ふぁ……ヒト種ってそんな頻繁に自慰するんだぁ。へぇ~。不っ思議~。
「お、おい嘘だろ……」
「俺たちのプライバシーが侵害されている」
前者がロイで後者がコロンの発言。今この瞬間も感情や記憶が互いに筒抜けだからそういうのが嫌だったみたい。
プライバシー侵害だなんて心外だな。友達同士で隠し事は許されないんだよ。そのせいで破綻した友情を僕はいっぱい知ってるもん。色んな時代の物語でたっくさん勉強したんだからね。
「……ふぁっ!?」
ついさっきの記憶が流れてきて衝撃の事実がわかった。僕のお願い中にコロンが考えてたことだ。悪いこと考えてるなぁとは思ってたけど、まさかロイと似たようなことだったなんて。
「コロンってば僕のこと討伐してパーツを売り捌くつもりだったの!? 酷いよ!」
「酷いのはてめぇだろ! 辞書でもなんでもいいから友達を根本から勉強し直せ! てめぇの友達感はトチ狂いすぎなんだよ!!」
「そんなことないよ!」
僕がそう言っても記憶や感情が筒抜けなのはどうしても許せないと2人は顔を真っ赤にして反論してくる。まるで元ご主人様やリリカ7号たちのようだ。
でも嫌だっていうのを強制するのはダメだよね。それは友情じゃないもん。悲しいけど記憶と感情の連結はカットしよう……。
「と、とんでもねぇヤツと関わっちまった」
「同感だ。金のためとはいえ安易に返事するんじゃなかったぜ……」
2人とも頭を抱えている。それがとても辛い。知らないうちに涙が溢れそうになってて、僕はグッと堪える。
「ロイもユックも僕と友達になって後悔してるの?」
胸の奥がざわざわしてきた。返事次第では僕の悲しみが爆発しちゃうかもしれない。
「「こ、後悔はしてない!!」」
2人は大慌てで否定した。
なんだ。それならよかった。2人とも友達とかいなさそうだから、きっと初めての友情に戸惑ってたのかも。
安心するのと同時に胸のざわざわが収まっていった。
「ていうかてめぇ、なにどさくさに紛れて俺のことユック呼びしてんだ、あ゛あ゛?」
ほっこりしてたらユックが掴みかかってきた。コルキスフレームの僕は8歳の少年姿だから、軽々と持ち上げられちゃった。胸元が絞まってちょっと苦しい。
「僕も嫌なこと我慢してるもん! 記憶と感情の連結カットしたげたもん!」
コロンはユックって呼ばれると学院時代を思い出すみたいで嫌だってのは、記憶を連結したから理解している。でも……記憶と感情の連結カットは僕の我慢の上に成り立っている。僕だけ我慢なんて不公平でしょ。そんなの友情じゃないやい。
「なんだてめぇメンヘラ司祭みてぇなこと言いやがって!」
ユックが掴んだ胸元をガクガクしてくる。
僕はパッとルトルフレームに変わってユックをハグして動きを止めた。
「うぉっ!? 急にでかくなりやがって――」
ユックの方がまだ少し背が高いけど、ステータスを仮連結した今、腕力は僕の方が上だからね。暴れたってほどけないよ~だ。
「ちょっと待て! それじゃあ俺も何か我慢を強いられるのか!?」
今度はロイが肩を揺さぶってきた。
「ロイには毎日お風呂に入るか水浴びするか体を綺麗に拭いてもらうからね! あと歯磨きも!!」
ロイが不潔でいるのは理由があった。モテ防止のためだ。大勢のヒトとはちょっぴり違う性癖を持つロイは、ヒトに言い寄られるのが苦痛だったらしい。
最初は数日起きに体を拭いたりしてたっぽいけど、いつしかそれすらも面倒臭くなって止めた。それに汚い方が相手に喜ばれると気付いたってのもある。
「そ、そんな……」
「心配しないで! 僕の方がロイよりずっと格好いいからね。僕と一緒ならロイはモテないよ。ユックもそう思うでしょ」
「知るか!!」
「あ、兄貴の方が格好いいに決まってるだろボケ!!」
ずっと黙っていたオルが足を蹴ってきた。
むぅ、これで4回目だ。オルはまだ自分の立場を理解してないみたいだね。どうしてくれようか。
「止めろオル! イコルアは優しい。けどそれは友達だけにだ。お前はまだ友達認定されてない。ただじゃ済まないぞ!」
ロイはそう言いながらオルを抱き寄せた。そんな必死の形相にならなくても……。
「僕は友達の兄弟にだって優しいよ。オルをちょっと叱ろうと思っただけだよ。ロイは大袈裟だな~」
「そのちょっとでどれだけの魔物の頭をカチ割ってきたんだ!? イコルアの記憶にはやたらと魔物を殴ってる場面が多かったぞ!」
「えっとね、826,615,830,060,176,421体かな」
僕は超が何個もつく優秀なゴーレムだからね。ちゃんとお仕置きした魔物の数は覚えてるよ。
「「「こわっ……」」」
3人がドン引きしてる。
え~、なんでぇ~???




