第11話 不良司祭にお願いを
僕の予想では10分。これを越えると逃げる難易度が跳ね上がる気がする。ロイの口ぶりからこのオークションハウスって良くない場所って感じがしたからね。
ヒトと魔物の違いはあれどダンジョンでもそうだったように、こういう所はゴロツキをたくさん抱えてるってのがセオリーだもん。仮にこの会場から脱出できても町からの脱出が大変だよきっと。
「それでお話とは?」
オジサンたちが出ていってから半呼吸置いてコロン司祭が僕の正面にあるソファにドカッと座って口を開いた。
普通、お忍びとはいえ王族に発言を促すのは究極にマナー違反なんだけど僕はただのゴーレムだからね。対等って感じもするし、気にせずコロン司祭に答える。
それにこのヒトには正体をバラしておいた方が良い気がするんだ。
「あのね、時間がないから単刀直入に言うね。後でいっぱいお金を稼がせてあげるから、僕と友達になって僕らが逃げるの手伝ってくれない?」
「……」
コロン司祭の眉間がピクッと動いた。
「僕、本当は王子じゃないんだ。でもお金は本当に持ってるよ。この世のすべてを買えるってほどじゃないけど、それなりにね。ただ、わけあって今すぐには用意できないってだけで」
「断る」
きっぱり拒否されたけど、すぐに大声を出してオジサンたちを呼ばないあたり交渉の余地ありだ。
「コロン司祭はお金大好きでしょ? さっきの稼ぐ話とは別にオルゲルタ金貨8万枚もあげるよ。足りなかったらその倍でもいいし」
デコイズにはお金の他にアルコルトルアからかっぱらってきた魔武具とかがいくつかある。それをあげてもいい。
本当はさ、もっと盗ってこれたはずなんだ。
だけどあの型落ちクソゴーレムがチクリやがったから……一緒に外の世界を見て回ろうねって約束もしてたのに。
だいたいさ、OSカスゴーレムもあの時、脱走後の話をしながら一緒に盗みを働いてたんだ。やっぱり生き人形シリーズ、特にリリカタイプを基にしてるものはどれも信用しちゃいけないね。
「……」
思い出して少しイラついてたら、コロン司祭が顎に手を当てて考え始めた。
待ってもいいけど残り時間を考えると、もうひと押ししといた方がよさそうだ。
「僕、フラテリス教の偉いヒトがやってる後ろ暗い商売を知ってるよ。それ潰したくない?」
基本的に外の魔物には近くにいるヒト種の悪事情報なんかが勝手に流れ込んでくるらしくて、そういうことにやたらと詳しい。元々、訳もなくヒト種に殺意を抱く本能があるのに、そういうこともあって心の底からヒト種が嫌なものも多い。悪口もすごいよ。10秒も聞いてられない。
だもんでフラテリス教のお偉方のほとんどが子どもの誘拐と売買を生業にしてることは、外から来た魔物たちがよく話していたから僕も知っている。拠点がどこでお得意さんは誰とかもね。
ちなみにコロン司祭みたいな将来有望そうな子は、フラテリス大陸にある3つの聖火山、フラテム、ヴォルキリオ、スファメリス、の山中にあるフラテリス聖職者学院に送られる。
まあ将来有望ってのは三つの意味があるんだけど、そのどれも持ってたコロン司祭の学生時代は、だいぶ不幸だっただろうね。なんせ邪悪が蠢くスファメリスに送られたみたいだから。
「お前、鑑定のスキル持ちか?」
コロン司祭が僕の目を真っ直ぐ見てきた。睨むとは少し違うけど、そういう雰囲気も感じられる。
「ううん。鑑定スキルは持ってないよ。ただ解析装置がついてるんだ。それもとびっきり良いやつ。僕、超超超優秀なゴーレムだからね」
「っ!? お前、魔物なのかよ……」
天を仰ぐような仕草をしつつ、コロン司祭がスッと懐に手を入れたのを見逃さなかった。攻撃してこないように、僕の安全性を主張せねば。
「厳密には魔物と全然違うよ。本能にヒト種を殺すプログラムとかされてないからね。ダンジョン産のゴーレムだもん。しかもダンジョン整備専用の。だから安心安全だよ」
「だから、の意味はわからねぇが、その話が本当なら確かに大金が稼げそうだ。ちなみにどこにあるダンジョンだ? 名前は?」
ニヤッと笑ったコロン司祭は悪いことを考えていそうだ。でも協力してくれるなら今は別にそれでもいい。
「場所かぁ。元ご主人様たちが住んでるのは、ウルユルト群島国にあるフェグナリア島だよ。出入口は世界中に点在してるけどね。名前は不滅のアルコルトルアってとこ。知ってる?」
アルコルトルアの名を出した途端、コロン司祭が立ち上がった。ものすごくワナワナしてるけどどうしたんだろう。
「お、おまっ……ふ、不滅のアルコルトルア!?」
「そうだよ。まあでも逃げ出してきたから、もう関係ないけどね」
「神出鬼没、幻のダンジョンと言われてるあのボロ稼ぎ確定のアルコルトルアか!?」
え、外ではそんな風に言われてるの?
出入口がしょっちゅう変わるから神出鬼没は間違いないとおもう。でもボロ稼ぎ……?
う~ん、確かにくそアルファドが作っては捨てまくるアイテムなんかのせいでダンジョンはいっつも散らかってたし、ぼけアドイードが見境なく生やしては放置する植物が大量に野生化してるし、縄張り争いとかの殺し合いで色んな魔物の死体が転がってたりはするけど、ちゃんと僕が片付けてたし……そういや、最近は深部の散らかり具合が異常すぎて、浅部はリリカ7号とかにお願いしてたな。さてはアイツらサボってやがったな。
「オススメはしないけど、行きたいならいっつも開いてる出入口の場所を教えてあげるよ。友達になら、だけどね」
「いいだろう。協力してやるし、お友達とやらになってやるよ」
なんだ。そんなことでよかったのか。
元々アルコルトルアの秘密を拡散するつもりでいたから、ちょっと驚いた。
で、コロン司祭、協力してくれたのはいいんだけど、脱出中も終始欲望でギラギラになった目を向けてくるからちょっと怖かったよ。




