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感謝と香辛料

読んでいただきありがとうございます

ヒューランはザザンに比べてごちゃごちゃしていない外観をしている。建物と建物の間隔も詰まっていないし、緑が目立つ。行き交う人も、すれ違う度に挨拶をしてくれるし、なんだろうか。とても暖かい。


故に、宿がある場所もとても聞きやすく、迷う事なく辿り着いた。眼前に構える宿の看板には【月夜の宿】と書かれている。教えてくれた人によると、屋上でご飯を食べれるらしい。


「いらっしゃい」


少しふくよかな女性が笑顔を向ける。なんだろうか、とても安心できる雰囲気だ。


「部屋は余ってますか?」

「たんまり余ってるさ!あんた達は、旅の方かい?」

「一応……まあ、そうですね」


チラリと、親子をみれば少し身を竦めているようにも見えた。とは言え、此処で二人の事を話す必要はないだろう。


「そうかいそうかい。そらまた珍しいねぇ」

「そうなんですか?」

「昔は良く来てくれたんだけどねぇ。っと、食事はどうする?」

「この二人と食事の時間とか別に出来ますか?」


流石に同じ時間を過ごすとなると、気を使うだろう。ただでさえ、宿泊代を出すと言っただけで涙ぐむぐらいなのだから。と言うか、今まさに真横で困惑を隠せない様子を浮かべてる。


「ん?いいのかい?」

「はい。で、聞いた話なんですが、貸切屋上でご飯が食べれるんですか?」

「うちの数少ない名物だからねぇ」

「じゃあ、こっちの二人にはそれをお願いします」


家族の思い出に少しでもなれば嬉しい限りだ。ヤクモ自身が、父との思い出が大してないない為か、この二人にはそんな思いをして欲しくないと、素直にそう思った。


ましてや、数時間前にあんな嫌な思いをしたのだ。少しは気を休めて欲しい。


視線を感じ、女性の足元を見れば足にしがみつきながら男の子が見ていた。ヤクモは親指を立て、ニンマリと笑ってみせる。


「あんた達はどうすんだい?」

「俺たちは色んな話を聞きたいので、普通ので大丈夫です」

「そうか、旅の方だものね。ここにゃ、旅の方こそ少ないが行商人とかは、食事だけでもしにくる。きっといい情報が手に入るさ」

「だといいんですけどね」


受付を終えて、部屋へ案内をしてもらって休む間もなくヤクモとリュカは部屋を出た。


「あ、あの!!」


後ろからの呼び止めに振り返れば、女性と子供が立っている。


「私は、ミシュエル=サイリアと言います。この子は──」

「リドガー=サイリアです!」


ぺこりと頭を下げる二人。


「貴方様方の名前を。名前を教えてください」

「俺はヤクモ。ヤクモ=アルクルです」

「わっちはリュカじゃ」

「この御恩は絶対に忘れません」

「ません!」

「いやいやいやいや!!頭を上げてください、ミシュエルさんにリドガー君!俺達がしたくて勝手にやった事ですから!」

「……本当に助かりました」と、頭を上げてミシュエルは言う。


「いいんですよ、本当。じゃあ、俺達は外を見てきます。ミシュエルさん達はゆっくり休んでてください」

「そうじゃぞ!」


再び頭を下げる二人に頭を下げてから、二人は外へと出る。此処で気がついたのは、なにやらリュカが思い悩む表情を浮かべてるという事だ。


ヤクモは隣を歩きながらも訊ねる。


「どうしたの?」

「いんやぁ……サイリアじゃったか?どっかで聞いた名じゃなあと思ってのぅ」と、眉間に皺を寄せ、顎を指の腹で撫で付けて言った。


さながら、名探偵が推理の際に見せる表情が如く険しい表情だ。


「アヴァロンとかじゃないの?」

「ぐぬぬ……かもしれぬな」


旅をしていれば、名を聞く機会なんかいくらでもある。うる覚え程度の印象なら、大した出会いでもなかったのだろう。と、解を出したリュカは、出店で出されてるご飯を指さし涎を垂らす。


いや、本当に大した印象じゃなかったのだろうな、この切り替えの速さは。


短い溜息と同時に少し肩を落とす。


「まてまて。食事は宿で」

「だってのぅ……嗅いでみぃ?この香ばしい匂いを!香辛料と焼けた肉の~」

「おう!?じょーちゃん、中々見る目あるじゃねえか!これは、ボアの肉を秘伝のタレに漬け込んで焼いてんだぜ。どうだい?食べるかい?」

「ボアとは!キノコを主食としてる為か、全く臭みがないと有名な!?」


いや、食べた事ありませんとか言いたげな反応だが、絶対に食べた事あるだろ。絶対に。


「ミシュエル達に薬草等を買わなくちゃならない」云々、言って断ろうとしたが、目を輝かせるリュカを目の前に言葉は喉から出るはずもなく──


「くはぁぁあ!美味(びみ)じゃあ!!」

「そらあ、良かったよ」

「うみゃうみゃ!で、この後は何処で食べ」

「ねぇよ!いやね、俺の使ってるこの刀──これを鑑定して欲しいから、防具屋に行こうかと思って」


もしかしたら数字の意味が分かるかもしれない。まずは理解をしないと、再び【亜種】とよばれる魔獣に出会った時に上手く立ち回れない。あの時の事を思い出し、ヤクモは柄を強く握る。


方やリュカは、ヤクモの考えなど当然、露知らずに声を踊らせ弾ませていた。


「うひゃあ!なんじゃなんじゃ、この甘美な香りは!!飲み物か!?飲み物なのか!?」

「あら、可愛いお嬢ちゃんね。そうよ!これは果物ジュース。油っこい物を食べた後に飲めば口の中は爽やか、スッキリよ!!」

「ほうほう!丁度さっき、あっこでボアの串焼きを食べてきた所じゃ!」

「あら!それなら丁度いいわね!」

「そうじゃろそうじゃろ!!」と、リュカは再び目を輝かせる。


「だぁ!分かった分かった!!一つ下さい」

「むふふ」


むふふじゃねぇよ。と、内心思いながら。それでも、美味しそうに飲む表情を見て、心が和んだのも事実だった。


「ありがとうなのじゃ、少年!」

「いいよ、別に。美味しいなら良かったよ」


それからというもの、寄り道に寄り道を重ね。つまりは、振り回されたヤクモは、和む等と思った事を撤回しつつも道具屋へとやってきた。


非常に古びた建物なだけあって、長年営んでいる事が伺える。扉は立て付けが悪いのか、引けば甲高い音が響く。店内には、回復薬や解毒薬・布切れや雑貨などが並んでいて、品揃えは豊富のようだ。


ただ少し埃臭い。


品を見ながらそんな事を思っていると、嗄れた声がヤクモ達を出迎えた。


「いらっしゃい」

「あの、この刀を鑑定して欲しいのですが──」

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