努力は報われる
「……鑑定ね。あいよ」
刀をカウンターに置くと、老爺の左目が若干青光りを帯びる。
【鑑定スキル】
商人のほぼ全員が保有しているスキルで、様々な物をD~SSにクラス分け出来るものだ。これを基準に、値段を交渉したりする為、何かと重宝されている。
ヤクモが老爺を見つめ暫くすると──
「ふうむ」と、口を開いた。
「至って普通の刀だね。一応、紙に記すかい?」
「え、っと。お願いします」
普通の刀って、つまりは普通のだよな。普通でしかないんだよな。ならあの威力は──切れ味は。
老爺が紙に手を翳すとチリチリと音を立てながら、文字が紙を焦がしながら浮かび上がる。ヤクモは、文字を目で追いつつ、俄に信じ難い事実を受け止めきれずにいた。
「ほれ」
紙には──
【刀】
・耐久D-
・斬れ味B
と記されていた。どれもが本当に普通だ。刀の欠点である耐久力もまったく普通。ほかの刀よりも秀でてる物は何一つない。それこそ、名を馳せてる刀匠が打った刀の方が断然、ランクが高いのではないか。そう思えるぐらいに普通だ。
「まあこれじゃあ、硬いものを数回絶てば、刃こぼれを起こして使えなくなるわな」と、老爺は刀の腹を見ながら言う。
反論をしたかったが、記されたパラメータなら言っている事は正しい。
「じいさん、ひとつよいかの?」
「なんだね?」
「この少年が持った状態で一つ、鑑定してくれぬか?」
「構わんが……何も変わらないと思うぞ?」
そう平坦に言った老爺の顔が分かりやすく変わったのは、鑑定を終えた直後の事だった。
紙には──
【迅刀】
耐久B+
斬れ味A+
と、記されていた。刀の名前も変わっていれば、刀のパラメータが飛躍的に向上していた。【斬れ味A+】これは、銅製の鎧なら持ち手次第では両断出来る斬れ味を誇る。
「持ち手でパラメータが上がるなんて武器、ワシは今まで出会った事がないぞ」
「やはりな」
腑に落ちたかのように、リュカは短く頷いた。
「やはりなって?何か分かったの?」
「少年は、スキルで刃こぼれしない。と、だけ言ったじゃろ?」
「うん」
「じいさん、これは武器の能力なんかじゃないんじゃ。これこそが、少年のスキルなんじゃよ」
まじまじとリュカは、ヤクモを見つめる。
「そう言えば、あの時──亜種と戦ってる最中、声が聞こえたんだ」
あの日の苦戦を思い出し、ヤクモは話を続けた。神の声が聞こえた事。スキルが進化した事により、峰に数字が浮き上がるようになった事。それら全てを話終えると、リュカはヤクモに訊ねた。
「スキルの名はなんて言うんじゃ?」
「錬聖と言っていた」
「錬聖……じゃと?まさか“聖”を名を持つスキルを──」
リュカはヤクモの話を聞くと、スキルの分析を始めた。
「少年の持つスキルは、間違いなくカルマさんの【剣聖】に並ぶ強力なものじゃ」
「そんな事が」
「少年のスキルは、使い込めば使い込むだけ武器の力が増してゆく。つまり、進化していくんじゃ」
「武器が……進化?」
「そうじゃ。剣聖が一振で至る最強の一撃であるなら。錬聖は、鍛錬で至る最強の一刀じゃ」
──鍛錬で至る最強。その言葉を聞いて、ヤクモは身震いを禁じ得ない。高鳴る鼓動。沸き立つ高揚感。
──努力は報われる。
「つまり、俺自身も強くなれば、この刀は強力になるって事だよね?」
「そうじゃな」
リュカはカウンターに並べられた紙を触りながら、相槌を打つ。
「少年が使う限り、その刀はスキルによって朽ちる事のない刀じゃ。少年次第で、刀はどの武器よりも強くなる」
「分かった。俺自身もより一層、鍛錬に励むよ。それこそ、武技を取得したり」
「の、前に。少年には一つ、スキルを習得して欲しいんじゃが」
「スキルを?」
「うぬ。スキルには主に【伝承】と【潜在】の二つに分かれているのは、知っておるじゃろ?」
【伝承】
武技や魔法といった、人から人に伝えられるスキル。
【潜在】
生まれつき持っているもの。魔力や闘気もまた、潜在的なものである。
ヤクモの父は良く努力で差を縮める事が出来るのを【伝承】。努力でより一層の大差を付けることが出来るのを【潜在】と言っていた。
父の言葉を思い出しながら、ヤクモは頷いた。
「分かるよ」
「ならば、このじいさんから鑑定のスキルを教えてもらうんじゃ!!」
八重歯を覗かせて、ニンマリとリュカは笑う。
「ほへ?」と、老爺が間抜けな表情をする中で、リュカは人差し指をヤクモの胸に当てて言う。
「これからも少年の武器はつよくなる。可能性を秘めたスキル──錬聖をもっと知る為に鑑定スキルは必須じゃろて」
「確かに」と、ヤクモは頷く。
刀も迅刀と名を変えていたって事は、使い方一つで今後も変化があるかもしれない。丁度いい事に、金貨なら多少はある。
「おじさん。一つお願いしてもいいでしょうか?」
「ん?ああ、構いやしないよ。ただ一つお願いがある」
「お願い、ですか?」
「伝承をするお代は要らないから、道具か防具を買ってってくれないかな?聞いた話によると、君のスキルは劣化を防ぐ上に、パラメータも向上していくんだろ?なら、是非使ってやって欲しい」
「……分かりました。では、お願いします」




