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悪役令嬢に転生した私が、最高の当て馬になろうと努力したら、溺愛されたみたいです  作者: あろえ
第三部

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第104話:黒田、アルヴィに気持ちを伝える

 周囲が暗くなり、寮の門限が閉まる頃、浴衣に着替えた私はコッソリと抜け出していた。


「悪いことをしているみたいね」


「悪いことをしていますからね」


 浴衣姿のアルヴィと一緒に。


 どうしても今日中に気持ちを伝えなければならないわけではないが、時間が経てば、黒田の決意は曖昧になってくる。


 明日でもいい、そんな逃げ道を作るわけにはいかない。ずっと黒田の傍にいてくれたアルヴィだからこそ、ちゃんと伝えたい気持ちも強かった。


「昨日まで実家に帰省していた影響で、もう夏休みが終わろうとしているのよ。夏が始まる前は、こんなに忙しくなると思っていなかったわ」


「僕も似たようなものですよ。父の手伝いばかりしていましたので、夏休みの方が忙しいくらいでした」


「じゃあ、ちょうどいいわね。私たちには夏の思い出が必要よ」


 わざわざ浴衣姿で寮を抜け出してきているのは、一緒に手持ち花火をするためである。


 本当は実家に帰られなかったルビアとするつもりで買っておいたのだけれど、今回ばかりは許してもらおう。アルヴィとの特別な夏の思い出を作るために。


「バレないようにやらなきゃね」


「怒られたくはありませんからね。コッソリとやりましょう」


 学園の敷地内じゃないと危険なので、寮にも近い場所であり、休憩スペースとして作られた憩いの場にやってきた。


 さすがに寮の門限が過ぎているので、誰もいない。しかし、花火は目立つ可能性が高いため、端っこに移動して準備をする。


 緊急時用の水を用意し、ろうそくに火を付ければ準備万端なのだが……、妙にアルヴィの視線を感じる。


「もしかして、アルヴィは初めて花火をするの?」


「そうですね。フラスティン領には足を運んだことがないので、花火の経験はありません。聞いた話では、空に打ち上がる鮮やかな火魔法らしいですね」


「うーん、間違ってはいないわ。でも、これは少し違う種類よ。手で持って楽しむタイプなの」


 軽いカルチャーショックを起こしながらも、先に見本として、手持ち花火に火を灯す。


 その瞬間、鮮やかな光が周囲を照らしたので、アルヴィと一緒にしゃかんで体を寄せ合った。


 バレてはいけないという背徳感が楽しいと思うと同時に、自然な形で距離を縮められて嬉しい。


「こんな感じよ」


「とても綺麗ですね……」


 さすがに初見だと、花火よりもクロエ様の方が綺麗ですね、とは言ってくれないのね。まあ、言われても困るけれど。


「アルヴィもやってみて。楽しいわよ」


「わかりました。少し緊張しますね」


 花火に火が付いた瞬間、ビクッと驚いたアルヴィが可愛くて、私は少し笑ってしまった。


 初めての花火に夢中になり、純粋に楽しむアルヴィと夏の思い出が作れることを、素直に嬉しく思う。大袈裟かもしれないが、この素敵な笑顔に何度も救われ、今日まで生きてこれたのだ。


 アルヴィが笑っていると、私はとても幸せな気持ちになるから。


 そのまま花火を続けていると、二人だけということもあり、徐々に良い雰囲気に包まれる。


 気持ちを伝えるなら、今しかないと思うほどに。


「アルヴィと一緒にいると落ち着くわね。なんとなく自然体でいられる気がするの」


 直接伝えることはできないが、自然体というのは、素の黒田でいられるという意味である。心優しいアルヴィは、いち早く黒田の存在に気づき、好きだと言ってくれた。


 それがとても嬉しくて、ついついアルヴィの前だと気が緩んでしまう。


「……お役に立てているのであれば、光栄に思いますよ。治療師の活動もされているクロエ様は、いつも多忙でしょうから」


「どうしたの? 二人きりなんだし、かしこまらなくてもいいじゃない」


「急にそういう話をされると、なんと答えていいのかわからなくて。実を言うと、一か月ぶりにお会いして、少し緊張しています」


 自分の気持ちを伝えようとする私の方が緊張していただろう。でも、久しぶりにアルヴィと話していたら、知らないうちに落ち着いていたのだ。


 そのため、少しからかうくらいの余裕はある。


「この前、一緒にケーキを食べたこと、思い出しちゃった?」


 夏休みに入る前、暴走した黒田がアルヴィとイチャイチャしながらケーキを食べるイベントをこなしていた。


 とても甘い時間を過ごしたものの、黒田が高熱を出すほど興奮してしまったが。


 でも、可愛いと思ってくれていたと、ルビアから聞いている。その事もあって、緊張しているのかもしれない。


 花火の明かりで照らされたアルヴィが、むずがゆそうな笑みを浮かべているので、少なくとも意識はしているだろう。


 いつもだったら、私がそういう表情をしていたのかな。弟系のアルヴィが照れる姿は、もっとからかいたくなるくらいには可愛い。


 でもそうしないのは、アルヴィがジッと見つめてきたからだ。


「僕にとってクロエ様は、雲の上のような存在です。一緒にいられるだけでも幸せですよ」


 そんなことはない、と否定するのは簡単なこと。でも、私が聖女に推薦されるくらいの実績があると考えれば、あながち間違いとは言えない。


 そのため、行動で示そうと思った私は、アルヴィに軽くもたれた。


 雲の上にはいない。アルヴィの隣にいる私をもっと見ていてほしいと思いながら。


「私にとってアルヴィは、隣にいるべき存在よ。一緒にいてくれなきゃ困るわ」


 思い返せば、体育館倉庫で良い雰囲気になっても、カフェで良い雰囲気になっても、なんだかんだでうまくいかなかった。


 優柔不断な黒田の心を表すかのように、絶対に邪魔が入っていた。


 でも……、今日は何があっても伝えるんだ。誰が何を言おうとも、どうやって邪魔してこようとも、アルヴィに気持ちを伝えると決めてきた。


 手持ち花火が燃え尽き、周囲が暗くなっても、今日の私は逃げない。ジッとアルヴィの目を見つめて、自分の素直な気持ちをぶつける。


「ごめんね、今まで言えなくて。ずっと……好きだったわ。これからも、ずっと好きでいると思う」


 ルビアの略奪愛が怖かった。恋愛経験がなくて怖かった。自分勝手な私を本当に受け入れてくれるのかわからなくて、怖かった。


 どんなことがあったとしても、アルヴィは私を受けて入れてくれる、そう思っていたのに……ううん、そうわかっていたのに、勇気が出せなかった。


「しっかりしているクロエ様も、少し抜けているクロエ様も、僕はどちらも好きですよ」


 初めて異性で好きと言ってくれたアルヴィは、私にとって特別な存在だったから。違ったらどうしようと考え始めると、怖気づいて逃げていた。


 でも、それも今日で終わり。だって、私は幸せになりたい。アルヴィを幸せにしたいの。


「初めてはアルヴィって決めてたの。私のファーストキス、もらってくれる?」


 見つめ合うアルヴィの顔が近づいてきて、私は自然と目を閉じた。


 この言葉では表現できない幸せを、アルヴィと一緒に感じたいと思いながら。





 ――――――FIN――――――

【あとがき】


最後までお読みいただき、ありがとうございました!!


当初は一万文字未満の短編小説だったのですが、二十四万文字まで膨れ上がるとは……。


最初から終わり方は決まっていたので、無事に終えられてホッとした気持ちでいっぱいです。


もう少し暴走する黒田を書いていたかったのですが、小説の終わり方を考えると、ここがベストかなと。


最後は糖分マシマシのハッピーエンドで終われてよかったと思っています。


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