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勇者召還とゲーム・スタート

 私の名はアイリーン。世界最高の天才魔術師だ。


 いつもそう名乗っているが、私は改めて自分が天才だと自覚した。

 あの日彼が言った何気ない一言。

 そこから着想を得た私はたった三日で魔術を完成させた。


 参考になった言葉は『検索』。

 そして魔術の元になったのはこの屋敷。


 この屋敷に住む者は突然死を迎えるという不審死事件。

 ただしその被害にあう者はこの屋敷の所有していた一族の者。

 加えてその一族に仕えていた者に限られていた。


 この不思議な死は屋敷の構造が原因だった。

 構造と言ったが問題は屋敷の形だけではなく、屋敷内の魔道具の配置が重要だった。

 屋敷内の魔道具の配置から一定の魔力の流れが形成され、勝手に魔術が発動していたのだ。

 大雑把に言えば、屋敷全体で巨大な魔法陣を形成していたということだ。

 そしてその魔法陣を読み解いた結果、その魔術の効果が出るのはある一定期間以上をこの屋敷で過ごした者だけに効果が出るということが分かった。

 つまり魔術により『選別』されていたということになる。


 その選別の魔術を応用し、検索の魔術を構築。

 勇者検索の魔術を完成させた。




《十八歳男性 学生の場合》

『僕が勇者、ですか。非常に光栄なんですが僕に務まるでしょうか。いえ嫌なんじゃありません。ただ不安なんです。僕が失敗すればその世界の人達に迷惑がかかってしまいます。そんな大役と考えると……。それに僕は今までの人生でそう言った争いごとの経験も無く、特に不自由のない生活をしてきました。そんな僕がそちらの世界に行って果たして無事に務まるか、正直自信がありません。……ですがこうして声をかけていただいたということは務まる可能性がある、ということなのでしょうか? 僕にできることはただ精一杯頑張る、そんなことしかできません。そんな僕でも求められているのであれば……力になりたい。僕じゃ駄目かもしれません。途中で泣き言を言ってしまうかもしれません。逃げ出してしまうかもしれません。でも……少しでも力になりたいんです。こんな自信も持てない未熟な僕ではありますが……わずかでも可能性があるのなら。力に、なりたいです』



 少し頼りないような感じもあるけどまぁ許容範囲だろう。

 自分の欠点を自覚し自分に出来ることをやろうとする。

 物事に絶対はなく挫折するかもしれない恐れもあるが、それでも頑張ろうとする姿勢。

 年は若いがそれはむしろ成長の余地と取るべきだ。

 この勇者なら人間族も満足するだろう。


 召還は明日だ。

 間に合ってよかった。



 ――これでよかったのか?


 いいに決まっている。

 私はすべきことを果たした。


 ――私はこれでよかったのか?


 いいに決まっている。

 私の仕事は完璧だ。


 ――彼はのことはよかったのか?


 この世界はゲームだとさ。

 そんなのに任せたらどうなる事やら。


 ――本当に、これでよかったのか?


 うるさいな。

 よかったに決まってるだろ。


 ――その結果は、天才魔術師に相応しい結果か?


 そうだ。私は天才魔術師だ。

 いつだって最高の結果をもたらしてきた。


 ――魔術に関する仕事である以上、最高の結果でなければならない。


 私がすることは、そうでなければならないのだ。


 ――それは、絶対にだ。




◇◇◇




「勇者召還成功、おめでとうございます」


 もう何度目になるか分からない賛辞をもらう。


「それはいいから早く報酬ちょうだいよ。帰るから」


 早くよこせと手を出す私に、苦笑を向ける宰相。


「本当はゆっくりして頂きたかったのですが。アマンダも喜びますし」


 言いながら台車に乗せた報酬を運んでくる宰相。

 声に残念そうな色が浮かんでることになんとなく嬉しく思ってしまう。


「ですが本当にこれだけでよかったのですか? 他の物なら今からでもご用意しますよ?」


 宰相が持ってきたもの。

 本。

 集まった本は百五十二冊。

 この国のあらゆる本が欲しいと、仕事を受ける段階から宰相に伝えてあった。


「むしろ私がこんなに貰っていいのかって聞きたいけど。本の価値を理解した宰相には特に」


 この本は宰相が力を尽くして国中から探し出した本だ。

 恐らくこの国にはもうほとんど残っていないだろう。


「確かに痛手ですが本当に重要な本だけは写本を作りましたから問題ありません。それに全く無いところから本が生まれ、後世に語り継がれるようになるのです。功績としては十分すぎますよ」


 悪だくみを感じさせない爽やかスマイルで言いきる宰相。

 なるほど。最初に本というものの価値を認めた一族として後世の代まで語り継がれる功績を得る。

 宰相ならきっちりこなすだろうし、今後数代は安定ってことね。

 しかも勇者召還を成功させた代となればなおさらだね。


「お主もワルよのう」


「何ですかそれは」


「異世界の悪人ごっこ」


「悪人と言うところは否定しませんが……異世界では不思議な風習がある――」


ズドンッ!!


 突然何かが爆発するかのような音が響き、ついで悲鳴や怒声が聞こえ始めた。


「タイヨーかー。早速やってるなー」


「訓練場の方のようなので勇者様だと思いますが……大丈夫なのですか?」


「何が?」


「勇者、タイヨー・ヨシの能力についてです。魔術の使い方は教えてあると伺ってましたが、あの調子だと暴発でもしたような雰囲気なので」


「間違いなく暴発でしょ」


「…………」


 ジト目で見るな。


「教えてはあるけど初めて使うんだからしょうがないでしょ。向こうの世界は魔術が無いんだから」


「まぁそうですね。確か魂と体が馴染むまでひと月ほどでしたか、それまでに慣れてもらうしかありませんね」


「人間族の魔術じゃなく私の魔術の使い方で教えてあるから上達は早いと思うけど、まぁそれまでは暴発の一つや二つ――」


ゴガドンッ!!!!


「――十や二十くらい我慢してね」


「随分増やしましたね! しかも今の爆発は先ほどより規模が大きそうですが!」


「ダイジョーブダイジョーブ」


「こちらを見て言ってください」


「異世界では『信じる者は救われる』って素敵な言葉があるそうだよ」


「生温い目でそんな言葉を言わないでください……」


 がっくりうなだれる宰相。

 的確なアドバイスをしたはずなのに。解せぬ。


「でもホント大丈夫だって。タイヨーはゲーマーだから」


「ゲーマー、ですか?」


「ゲームをこよなく愛する人のことを指す。タイヨーはゲームに対する順応性が高いから」


「ゲームというのは……あちらの世界の遊戯の事ではなかったですか? それと何の関係が」


「タイヨーが言わせると勇者なんてゲームと変わらないんだってさ」


「それは、彼にとって勇者は遊びと変わらないということでは?」


「全然違う」


 結局私はいつも会話していた彼、『吉 太陽』を召還した。

 太陽は勇者の事をゲームと言った。

 それは彼が何よりも本気で向き合うものだということだ。

 ゲームを手に入れるために真面目に労働し、手に入れたゲームはとことんまでやりつくし、終わったゲームのことも忘れず大切に扱う。

 人生はゲームについてきたミニゲームと言い、ゲームに対してはどこまでも真摯に向き合い全てを費やす人。

 それが『吉 太陽』という人だ。


 そんな太陽だからこそ、勇者をゲームだと言った時には躊躇してしまった。

 太陽にとってゲームはクリアしたら終わりではない。

 そのゲームの中で出来る事、やりたいことが無くなるまで終わらないのだ。

 そんな太陽がこの世界に来たらどうなるか。

 魔王(仮)を倒して終わり? 絶対にありえない。

 魔王(仮)の件に片が付けばひとまず戦う理由は無くなるだろう。

 そんな太陽が何をするか。

 正直想像はつかないが、間違いなく妖精国と獣人国には行くだろう。

 特に獣人国は迷宮が多数ある。

 迷宮の話をした時の太陽の食いつきはすごかった。

 この話だけでご飯三杯いけるとさえ言っていた。正直引いた。


 とにかく太陽はそんな人だ。

 人間族だけでなく全種族に対して影響を与える人。

 それも間違いなく大きな影響を与えるだろう。

 人間族だけの問題ならどうでもよかったけど、太陽を召還するとなるとそうも言ってられなくなる。

 それが彼を召還することを躊躇した理由だった。


「彼にとってゲームというのは人生そのもの、いえ人生以上に真剣に向き合うものということですか。ゲームだからより良い結果を出そうと奮闘し、結果が悪くとも次改善しようとするから勇者という重圧に潰されることも無く、真剣に考えるからこそ間違えない。確かに素晴らしい人選と言えますね」


「もっと褒めていいよー」


「ですがアイリーン殿も気にする他種族への影響はいいんですか? 私としても他種族へ喧嘩を売るような真似はしてほしくないんですが」


 スルーすんな。


「喧嘩売るってことは無いって。そんなことしても太陽にとって面白くはならないんだから。それに」


 一旦言葉を区切ってしまった。

 いかんいかんつい顔がニヤけてしまう。

 これから来るであろう素敵な未来を考えるとどうしてもなー。

 まぁいいや、私の楽しみを少しだけ分けてあげよう。

 緩んだ顔のまま、宰相に残りの言葉を告げる。


「タイヨーが他種族に影響を与えた方が私にとっても面白くなる。あんなの放り込んだら絶対にどの種族も変化する。それも非常に大きくね。停滞よりも変化がある方が、面白いに決まってるでしょ?」


 私にとって、それが最高の結果をもたらすだろう。


「あなたと言う人は……はぁ。せめて我々にとってもいい結果であることを祈っていますよ」


 信じる者は救われるんですよねと、宰相はいつもの苦笑いをした。


「やってることは魔王を裏で操る真の悪のようですが」


 うっさいよ!


「では報酬の引き渡しもこれで完了ですね」


 本を全てアイテムボックスにしまい終え、そういえばと宰相へのお願いを口にする。


「あ、報酬とは別にお願いしたいことがあるんだけど」


「セリオのことですね。既に手配しました。今は当家に滞在しています。見送りできないことを残念がっていましたよ」


「さっすがー」


「ですが貴女の……村に関することまでは……」


 苦虫を噛み潰したような……いや悔しいのか。力及ばなかったことが。

 本当宰相ってば苦労人だなー。

 でもね。


「ああそれも大丈夫」


「大丈夫……って、一体どうしてですかっ。貴女の居た村は五十人の騎士に制圧され、貴女がおかしな真似をすれば住人は全員殺される。ですが勇者召還が終わった今、人質の価値は無くなったも同然。それなのにっ」


「だってもう人質助けたし。全員」


「助けたっ!!??」


 いぇーいっ。

やっと本気で宰相驚かせることができた。

 苦労したぜこのやろー。


「……貴女は連れてこられてから一度もこの国を出ていないはずです。それなのに一体どうやって……」


「どうやってって、あたしが誰だと思ってんのさ」


「……世界最高の、天才魔術師」


 呆然としたようなその言葉に、私は笑みで返事を返す。


 私がこの国に来たのは、私の事を知った宰相が私を丁重に連れてくるようにと騎士団に依頼したことが始まりだった。

 だがそこは人間至上主義の上に妖精族嫌いの騎士団長のする事。

 村にやってくるなり事前勧告も無いまま騎士団は剣を抜き、村を制圧した。

 正直この段階で返り討ちにするのは簡単だったけど、最悪国に迷惑かけることになるから大人しくした。

 私は村人を人質とされ、罪人同然で連れてこられた。

 連れてこられた私を見てようやく宰相が事に気付いたが後の祭り。

 ひとしきり謝罪した後村の事について尽力すると約束してくれてた。

 その後軽く力を見せ私の能力を確認してもらうと報酬も用意するから勇者召還をお願いしたいと言ってくれた。

 しかし約束してくれたとはいえ宰相には非常に難しい事だった。

 村を開放するように騎士団に要請すれば、制圧を解除すると妖精族の魔術で騎士団が殺されると言い張り、騎士団を危険にさらせないと言い張る。

 自分が直接行くことは難しく、部下を向かわせようにも村の場所はかなりの遠方。

 とても旅慣れない文官が行けるようなところではなかった。


 であれば私が魔術でどうにかすればいい。

 召還魔術を研究する傍らで救出用の魔術を研究していた。

 むしろこっちがメインだったのは言うまでもない。

 国王から時間を確保したのもその魔術を研究するためだった。

 もともと召還に関しては考えだけはあって、力とか無視してただ召還するだけの魔術なら五日で完成した。

 他は全てついでに作ったに過ぎない。

 最初は太陽を召還する気も無かったし、召還された勇者がどうなろうと知ったことでもなかったのだから。


 結局救出用の魔術が出来上がったのは召還前日。

 勇者検索の魔術を応用し、遠く離れた村の村人だけを選定。

 召還の研究の際に作り上げた転移の魔術と組み合わせ、この国から動くことなく、セリオ(無自覚な監視役)にも気づかれないまま選定した人だけを安全な地へ転送した。


 これが、私が勇者召還の研究をした本当の目的だった。


「じゃもう何も無いし、遠慮なく帰るねー」


 ようやく終わった疲れを取るように、伸びをしながら扉へ向かう私に声がかかる。


「アイリーン殿」


 無視して扉を開ける私に気にせず、続きの言葉が飛んできた。


「ありがとうございました」


 私は、そのまま扉を閉めた。




 さーって面倒ごとも片付いたことだし帰ろうかー。

 ってもう追手が出てきたよ。

 せめてもう少し待とうよー城から出た直後についてくるってバレバレにもほどがるでしょー。

 ていうかそんなに私悪いことした?

 むしろ勇者召還に成功した英雄でしょうに。

 妖精族だと何やっても悪ってか。

 それとも村のことで復讐されると思ってんのかな。

 気にするくらいなら最初からしなけりゃいーのに。

 そんな脳筋が騎士団長って宰相の苦労はまだまだ続くねー。

 セリオも宰相に匿ってもらって正解だったねこれ。

 さて転移の魔術を作ったことだしさっさと……いや待てよ。

 転移を使えばいつでも逃げれる。でもそれじゃ面白くないから転移は無しにして逃げてみよう。

 いやそれだけじゃ足りないなぁ……あっ。


 ゲームだ。


 タイヨーがやってたゲームにこんなのあった。

 一人の兵士が敵地に単独潜入、武器や装備は現地調達。

 そんな状況で基本は敵に見つからず隠密行動をしてミッションクリアを目指すんだっけ。

 確か最新作では武器や拠点も作れるとも言ってたし、よしそれを参考にしよう。


 アイテムボックスは使わない、武器、道具、お金はこれから調達したものだけを使用する。

 魔術は一日の使用回数を制限、使える強さも人間族……セリオが使える程度の魔術に。

 ミッションは追っ手を撒く、路銀を稼ぐ、市場で妖精国までの食料を手に入れる、あとセリオとアマンダ夫人とお茶を飲む。

 それが終わったら国外脱出。

 手段は問わないけど追っ手に見つかったら減点、こっちから危害を加えても減点。


 ルールはこんなところかなー。

 でもこう考えるとなかなか面白そうだなータイヨーがゲーマーになるのも分かるわ。

 タイヨーが勇者終わったら私もあっちの世界に行ってみようかな?


 さて追っ手は……四人か。

 これ以上増えそうにないしそろそろ始めようかな。

 さーてそれじゃ。




 ゲーム・スタート。



勇者候補=彼が召還されてたら人間族にだけ都合のいいテンプレ勇者になってたと思います。


吉=でっていう

太陽=サン

全国の吉さんごめんなさい。


セリオ=監視役を送り込もうとしてた騎士団長と魔術師団長を抑えるために宰相が送り込んだ無害な監視役。もちろん本人は知らない。途中で監視してない日もありますが報告書だけは上手くごまかしています。それくらいはできるので宰相に選ばれました。宰相に匿われているのは妖精族と接触した穢れた人間ということで排除されそうになったから。魔法陣技術を確立し排除できないとこまで成長しないと一生隔離。頑張れ。


宰相=アイちゃんのおかげで最近奥さんと上手くいってるらしい。爆ぜろ。


最新作=まだクリアしてません。



最後まで読んでくださってありがとうございました。

最初にオチを確認に来られた方は最初から読んでいただけると喜びます。

ありがとうございました。


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