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バイオウド!  作者: 咲作桜裂柵炸狂羅(さくさくさくさくさくさくら)


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向かう。

 「これより、合格者の発表を始めます。名前が呼ばれた方も、呼ばれなかった方も、合格者発表が終了するまで、どうかその場で待機していてください。お手数おかけしますが、どうぞよろしくお願いします」


 丁寧な口調をしたスーツの壮年男性が、所狭しと会場に並べられた椅子に、余すことなく座っている僕たち受験者に声をかける。


 いよいよ発表だ、ドキドキする。

この結果次第で、自分の二年間の努力が報われるかどうかが決まる。

膝の上で握りしめている拳に、じ〜っとりと汗が滲んだ。


 うぅ……! 手を洗いに行きたい……!!

なんならお腹痛い気もしてきた……あぁもう! 朝はもっと余裕を持って出てくるべきだった!


「えー……受験番号 六十九番。“灘 常穏”(なだ とこやす)」


 早速最初の合格者が発表された。


 最初は六十九ば……え?????

六十九番!????

一番からすっっっっっごい飛んだ……!!


 ……あれ? もしかして一番から順番に合格者を発表して行く……みたいな仕組みじゃない?

そうだとしたらいつ自分が呼ばれるのかドキドキしながら待たなきゃなんだけど……。


「なお、今回は番号の小さい順に、合格者を発表しています。どうかご了承下さい」


 え。

じゃ、じゃあ一から六十八までの人たちは……み、みんな……。


 ひ、ひぇ……。

といれいきた〜〜い…………。


「続きまして、受験番号……」


 なんか自信無くなってきた……。

手びちゃびちゃだし、足ガックガクすぎて逆に動かなくなっちゃったし……。

この会場にいる人たちの中には、二年どころじゃない努力してきてる人もいっぱいいるだろうし……。


 だってさ、無理だよ。

この会場だいたい千人くらいいるんだよ!??

そのうち六十八人はもう不合格なんだよ!??

僕より前の方に座ってる人たち!


 帰ろう……。

帰って“そうぞくの森”の続きしよう……。


「百十六番。泉埜いずみや せい


 呼ばれた。


 ………………………………。


 …………………………………………?????


 ……あれ……?

僕は…………呼ばれた……よね……???


 ……なんだろう……、あんまり……実感が湧かない……。


「続いて受験番号、四百一番。ひいらぎ 手掴てづか


 あ、あぁーーーーーーーーーーっ!!

実感湧いてきたアアアアアアアッ!!!


 僕の後ろ三百人くらい飛んだ!??


 怖あああああああああっ!??


「続いて、八百五番。天存あまと 未来みらい


 よよよよよよよよ四百飛んだ……!


 僕の耳壊れたの?


「そして、八百十七番、守人もりひと いくさ


 ほっ……。

今度はそんなに飛ばなかった……よかっ……。


「以上五名が、今回の合格者となります」


 え?


 え?


 え?


 what?


 Wa……ええええええええええ?


 ごごご、五人ッッッ!??


 千人中っ、五人ッッッ!????


「それでは、これより合格者五名は別室への移動となりますので、お立ちください」


 後ろで重い扉が開く音がする。


 いや立てない↑!?

立てるわけないでしょこの人数の内五人なんて!

どんな目立つと思ってる!?


 左右の人たちにはもうバレてるとしても!

そんな簡単に……。


 でも……立たないと……申し訳……ないよなぁ……。


 ……………………ええい! ままよ!


 すくっ……。


 じっ……!!


 ひぇ〜!? ワンテンポ遅れたからめっちゃ視線感じるぅ〜!

悪目立ちした〜〜!!

特に後方からの視線やばい〜ッ!!!

僕より前の人たちは振り向いてきてないからわかんないけど後方からの視線の圧やんばぁ〜……!


「ご起立頂いた皆様には、まず会場後方にある出入り口を出ていただき、その後は会場を出てすぐ右側に待機している男性職員の指示に従い移動して頂きます」


 え? よりにもよってこっから九百人くらいの横通り過ぎて後ろの出入り口まで行かないとイケナイの……?


 オワッタ……。


 もう、漏らそかなここで。


「それでは皆さん、拍手でお見送りください」


 パチパチパチパチパチパチパチパチ……。


 拍手の一音一音が発砲音に聞こえる幻聴ががが……。


 ぴぇ〜〜みんなこっち見てるぅ〜〜!


 声一つ聞こえてこない、そりゃそうだよな、みんな落胆の真っ最中、失意の真っ只中だよなぁ……。


 てくてくてくてく……。


 と、遠い……! 五年くらいに感じる……!


 ここは万里の長城ですか?


あーもう緊張しすぎて変なことばっかり考えちゃうよ、良くないね〜これね〜、こんなのが受かっちゃったんですけぁ〜?

流石の僕も涙が出そうですよ。


 いや喜んでおかないと受からなかった他の人に申し訳ないし喜ばないといけないんだろうけど今ちょっとそんな気持ちじゃないって言うかそれどころじゃ無いっていうか……ダメだなんか僕今ちょっとめんどくさいぞ。


「おめでとうございます」


「えっ?!! あっ! どっどうもっ!!」


 びっくりしたぁ! ぼーっとしてたらいつの間にか出入り口だったぁ!


 僕から見て出入り口の右側の扉の方に立った職員さんが、頑丈そうな大きいドアを開けながら笑顔でおめでとうを言ってくれた。

僕の慌てっぷりが予想外だったのか職員さんは僕に謝罪の言葉を述べる。


「急に話しかけてしまい申し訳ございません。驚かせてしまいましたね」


「いいい! いえっ! そんなっ!!! こちらこそ集中していなくてっすみませんっ!」


 こんな滑稽な反応した僕をフォローするために頭下げて謝罪!?

本当に申し訳なさすぎる……。

完璧に集中してなかった僕が悪いのに……。

こんな世界間違ってるよ……闇堕ちしそうだ……。


「おめでとうございます」


「ありがとうございます」


 む? 向こう側からも賛辞の声が……。


 あ! 僕より前に呼ばれた人だ!

緊張しすぎて見てなかった……。

余裕無くて……。


 ……うわぁ〜〜色しっろ〜〜まつ毛バシバシやし。

髪も眉毛もまつ毛も真っ白の純白やん綺麗ぇ〜。

ショートカットも似合ってるぅ〜〜こーれは儚げイケメンですね間違いない。


 って言うか近くで見たら身長たっかぁ。

百九十くらいありそ〜。

僕が百六十九とか百六十八とかだから……最低でも二十センチくらい違う……。


 ……ここまで違うともう別の生き物だろ、もう若干怖くはあるよこれ。


 あれ? そいえばあと三人いない?

正気に戻るまで見てなかった、っていうかもう外出ちゃったなめっちゃ番号離れてたし。


 ホンマ大丈夫スかこんなやつ合格して。


「よろしく」


 出入り口ですれ違い側にイケメン君……確かなだ 常穏とこやすさん? に声をかけられた。


「あ、はい……」


 声風鈴? 何? 声風鈴かと思った。


 チリーンって。


 透き通るとか言うレベルじゃねっぞ。

オラ怖い。


 僕たち二人が会場から出ると、扉がまた閉められた。


 会場を出ると、そこには小さな空間が広がっている。


この会場は直接外に建てられている独立した建物じゃなく、大きな建物の中に作られた一室みたいな感じの会場だ。

だから会場を出てもすぐ外じゃなく通路と会場を繋ぐ小さな空間のある室内に出る。


 しかも会場は地下に作られてる、すごい。


「全員揃いましたね。それでは皆様、この度は合格おめでとうございます。担当の白石しろいし りゅうと申します。これからは同僚としてよろしくお願いします」


 出て一拍置いて、白髪の混じった髪に柔らかな雰囲気を纏った、スーツ姿の優しそうな壮年の男性が僕達に声をかけてきた。


「え!?? あのし、白石しろいし りゅうさん!??」


 合格者の中の一人が、白石しろいしさんの名前を聞いて、突然驚きの声を上げた。


 僕が知らない合格者のうちの一人、えーっと……なださんと泉埜いずみやくん以外の人だから……。

ひいらぎ天存あまと守人もりひとさんの誰かか。


 誰だろう。


 ん〜胸に貼ってある番号のやつ見ればわかるけど……女の子の胸意図的に見るのはちょっと流石にねぇ……。


 あんまりジロジロとは見てないけど〜……パッと見は……褐色の短髪黒髪女の子だ。


 みーんなスーツだから体型とかはよくわかんないけど……少なくとも身長は僕よりちょっと……ほんのちょっとだけね、ほんの少しだけ、高い。


 その彼女が、壮年の男性の名前に驚きを隠せず声を出したみたいだ。


 わかるよ、その気持ち。

僕もビビった時声出そうになるもん、なんなら今のもビビった。


 でも僕は声は出さなかった、だから今回は僕の勝ち、これで身長戦含めてイーブン。

まだ大きくなるかもしれないし。


「え! 凄い! 初めて見ました! 書面でしか見た事なかったので!」


 ぼくも初めて見た。


 白石しろいし りゅうハイエスト(highest)。


 バイオウド対策センター、通称バター。

バイオウドと呼ばれる食人生物の対策のため設立された、捜査、戦闘専門の武装組織、その職員。


 そしてバターの職員には、ロウエスト( lowest)、ロウワー(lower)、ロウ(low)、ハイ(high)、ハイヤー(higher)、ハイエスト(highest)と言った六段階の階級があり、当然lowestから highestに近づくほど高い。


 その中で白石しろいし りゅうは、最上位のhighest。

過去含め、ハイエストの称号を持つ者は国内で五十名しかおらず、現状生存しているハイエストと呼ばれる人物は三十七名しかいない。


 海外支部にも一応いはするらしいのだが、それを含めても百名を超えないそうだ。


 彼らはその仕事の性質上機密性が高く、情報量の少ない書面に目立たず名前だけが載っているという事がほとんどであった。

メディアなどの表舞台にはほとんど出ず、動画や写真すらも欠片ほどしか出回っていない。


 人々の称賛を受けずとも仕事を全うする様は、まさにハイエストの名に相応しい。


 でもこんなところに受けにくる僕たちくらいになると、絶対知ってるような人。


 そんな人が、今目の前にいる。

そりゃあ興奮しますわね。


「ご存じいただきありがとうございます。あなたは……天存あまと 未来みらいさんですね? お会いできて光栄です」


 物腰柔らかだ、謙虚だし。

強い人ってみんなこう、僕憧れちゃう。


「いえ! そんな! こちらこそ、白石しろいしさんの下で働けるなんて感無量です!」


 褐色の女の子……天存あまとさんは、すごく明るくていい子そうだな……人の身長とか気にしなそうだし……。


 負け……か……。


 ……あっ、はしゃぎすぎて他の合格者の足踏んだ。


 ……めっちゃ怒られてる……。


 同点……か……。


 怒ってるのは……おでこを出したハンサムショートの女性……受験番号が八百十七番だから……。


 守人もりひと いくささんか。

最後に呼ばれた人だ。


 厳格そっ、あんまりふざけるタイプじゃなさそっ。

天存あまとさん、めちゃくちゃ落ち着くように怒られてる。


 あぁ、天存あまとさん守人もりひとさんに謝ってる……。

守人もりひとさんも白石しろいしさんに謝ってる……。

天存あまとさんも白石しろいしさんに謝ってる……。


 ……僕も謝っといたほうがいいかな?

……やめとこ、怖いし。


「みなさん落ち着きましたね。それでは私の後ろについてきてください。これから移動を開始します」


 白石しろいしさんの言葉を皮切りに、みんな自然と一列になって移動し始める。

僕は気を遣った結果一番後ろになった。

ま、こういう列は一番後ろが一番気楽だから嬉しい。


 ……あれ? それってもしかして僕が気を遣われてる側ってことか?


 幸先不安だ……正直僕まだ修学旅行気分だし……。

気ぃ引き締めとかないと……今日からここで働くんだから……。


 ……パワハラとかあるのかな……。

……そりゃあるか……戦闘組織だし……。


 通路を出て、いろんな部屋横切って改めて見てもおっきい場所だなぁ、人もいっぱいいる。


 立ってる場所も都会の中心地近くだしそりゃおっきいかぁ!

こんな建物建てられるなんて大工さんは偉大だね。


 そう考えると都会に立ってるおっきい建物は全部あれ人の手で作ってるのか。

すご

「ぶへぇ!」


 余計なことを考えてたせいで前を歩いていた女の子が立ち止まって屈んでいたことに気付かずぶつかってしまった。


「すっすみません急に立ち止まっちゃって……!」


「いえそんな! ぶつかった僕が悪いんです! むしろぶつかってしまって本当に申し訳ない……」


 百五十センチあるか無いかくらいの身長をした、そばかすメガネの黒髪ツインテール女の子。

自信無さげな目をしてる。

消去法的に、この人がひいらぎ 手掴てづかさんかな?


「いえ、そんな……自分なんかぶつかられて当然の人間なんです……すみません……。それに、メモ帳落としてしまった私が悪いんです……すみません……」


 ぶつかられたのに謝ってる……。

伏し目がちだし目泳いでるしオロオロしてるし……。


 同類……ってやつか……。

気が合いそうだ。


 よし! まずはこの子から友達になろう!


「本当にごめんね? ぶつかっちゃって……。僕泉埜いずみや せい! これからよろしくね!」


「え……あっ……え? は……はい……」


 てくてくてくてく……。


 シーン……。


 距離の詰め方ミスったなこれ。

急にフレンドリーすぎたな。

やったわこれ。


「あ、あの……」


「はっはい!」


 わ……! 気ぃ使って話しかけてくれた……!

ええ人や……!


「そ、その……その長い髪……綺麗、ですね……。その……地毛……ですか……?」


「はい、地毛です! 綺麗ですか!?」


「薄めのベージュ……? ですか……? はい、綺麗です……。地毛……ですか……すごい、ですね……」


「嬉しいです! ありがとうございます!」


 薄いベージュの長髪、昔女みたいで気持ち悪いと友達に切られたり引きちぎられたりしたけど、なんとかまた生えてきてくれた。

毛根強くてよかったなぁ、会話のネタにもなったし。


 頑張って伸ばしてるんだし、褒められるのはとっても嬉しい。

いい人だ、もう好きかも。


手掴てづかさんこそ綺麗な髪じゃないですかぁ! ツインテールも、似合ってますよっ!」


「ど、どうも……」


 手掴てづかさんは照れくさそうにニヘッと笑ってくれたが、何度も僕に向かって小さくお辞儀をしながらゆっくりと前を向いてしまった。


 ……………………。


 てくてくてくてく……。


 シーン……。


 ……………………会話終わった……。


 あかんわ俺もう。

俺もうあかん。

コミュニケーション能力が。


 もう大人しく後ろに着いて行こ……。


 てくてくてくてく。


 …………そういえば、結構歩いてるけどどこに向かってくんだろう?

地下から登る階段こっちだっけ?


 ……分かんないや! 緊張しながら来たし!


 来る時もめっちゃ迷って受付みたいな人に場所聞いてる人いたからその人についてきただけだし!


 あれ? そういえばさっきまでちょくちょくいた職員さんたち全然見なくなったな……。


 ……ちょっと怖くなってきた……。


 何か手違いでもあったのかなぁ?

でも、白石しろいしさんは何も言わずに先導してるし……。


 …………よくわかんねぇや!

ぼくしぃ〜らね!


「すみません、少しいいですか?」


 急に静寂を破ったのは、天存あまとさんを怒ってた女の人。


 守人もりひとさんが、静かに先導を続けている白石しろいしさんに声をかける。


「私たちは、今どこへ向かっているのでしょうか?」


 僕も聞きたい。


 他の人たちも気になっていたのか、黙ってその質問の行方を見守っている。


「……え〜。これから、この建物を出て、ある場所へと移動してもらいます」


「その……ある場所……とは?」


「それについては、機密情報ですので、到着してから別の者がすることになっています。すみませんが、お待ちください」


 もっと怖くなってきた!


 機密情報? 話せない事? ちょっと真顔になっちゃうな。


 質問した守人もりひとさんも、少し怪訝な表情をしてる。


「ご安心ください。機密情報とは言っても、おそらく皆様のご要望と異なる結果となることには、おそらくならないと思いますので」


 申し訳無さそうな優しい声で、白石しろいしさんは僕たちにそう告げる。


 僕たちのご要望……?

自分のはわかるけど、みんなのはどんなのだろう?

それって合格に関係あった事なのかな?


 だとすると……僕たちみんな同じようなご要望だったのかな?


 よぉし! 仲良くなったら聞いて

「みふぁー!」


 またぶつかった……。

学習をしろよ僕……。


「すみませんっ……」


 ひいらぎさんが、小さく振り返ってとっても小さい声で謝ってきた。


 僕が悪いのにぃ……! 謝らないでぇ……!


「こちらこそすみません……!」


 小さい声で、できるだけ短く謝る。

本当はもっと長く謝りたいけど……!

さっきの空気感もあってあんまり声出せないし……!


 ……あれ? でもなんで立ち止まったんだろう?

さっきはメモ帳落としたって言ってたけど……。


 ……ん? 今度はみんな止まってる……。

なんだろう?


「それでは皆様には、この扉から出ていた後、車に乗り移動していただきます」


 ? 扉?

そんなのなくない?


 白石しろいしさんのいる方を見ても、見えるのは通路の端っこの白い壁だけ。


 ゾリゾリ……ガチョッ……。


 鍵が刺さる音と……回る音……?


 ガチャ……ズズズズリズリズリズリザリザリ……。


 ! 何にもなかった白い壁に扉眩しっ!!


 ……ほんとに外に通じてる……引き戸だ……!

目ぇいった……まっっぶし……っ!


 でも全然開いてない、半開きすらしてない。


「この扉は一握りの者……私を含めごく少数のものしか知りません。そして、侵入妨害のため狭くしか開かないので挟まれないよう気をつけて進んでください」


 あ、なーるほど……。


 白石しろいしさんが開いている扉を、一人ずつ一人ずつ、扉に気をつけて外へ出て行く。


 僕の番。


 思ったより圧迫感があるなぁ……およ? そっか! この扉! 鍵穴もドアノブも扉に埋まってたんだ!


 開く分のスペースも出てきてる。


 鍵の音が聞こえてきてから出てきたし、そういうふうに作られてるんだろうな。


 すごぉい、どんだけきれいにびったり合うように作られてるんだろ〜!


 プロは違うなぁ〜。


 最後に白石しろいしさんが外に出てきて、扉が閉まる。

閉まる扉をチラッと見たけど、ドアノブも鍵穴ももう見えなくなってる。


 もう白い壁にしか見えない。

びったびたじゃあん。


「それではこちらの車にお乗りください」


 目の前には、ちょっと車通りの少ない普通の通路。そしてこちら側の道路脇に、何の変哲もない普通の車二台止めてある。


「前の車には、なださん、泉埜いずみやさん、そして私が乗車します」


「はい」「はい!」


 僕前の車か、赤い車だ。

僕赤好き。


「後ろの車には、ひいらぎさん、天存あまとさん、守人もりひとさんに乗車していただきます」


「はい」「はい!」「はい……」


 後ろのは水色いな。

水色も好き。


 どこ行くんだろ、結局は何もわかんないや。


 ? ん? あれ? そういえば僕たち階段登ってないからまだ地下なんじゃないの?

外じゃん、なんで?


 気になって、振り返って上を見てみる。


 あ! あ〜〜!


 なるほどねぇ! 最初から一階を高いところに立ててるのかぁ!


 じゃあ地下一階が実質一階みたいなものなのか、へー。


 あー、それで外に出れるのね、へー。

この扉知らないと気付かなかった〜!


 って!


 あっ! やべっ。

車に乗るの忘れてた、もうみんな乗り込んでる。


「シートベルトを忘れないように」


 後ろの席に乗った僕となださんに、白石しろいしさんがそう言う。


 シートベルト……久しぶりだなぁ……。

いつ以来だろ……。


 バスとかではいつも立ってたし、電車にはベルトないからなぁ〜。

懐かし〜。


「それでは、運転よろしくお願いします。安全運転で、よろしくお願いしますね」


 僕たちシートベルトをつけたのを見て、助手席に座った白石しろいしさんが隣の運転手さんにそう告げる。


 最初から乗っていた運転手さんはその言葉に笑顔で頷くと、道路の安全を確認し、車を発進させた。


 発進してすぐの場所にトンネルがある。


暗くて狭いところは好き。


明るいところは好きだけど、目がクラクラしちゃう。


トンネルの中にも明かりはあるけど、それは見えないのを見えるようにしてくれる光だ。


 昔高い場所にあった小さな窓から、月の光が僕を優しく照らしてくれたのを覚えている。

狭くて暗い部屋の中、銀色の軽いお皿の中に自分の姿だけが反射してた。


 共働きの優しい父と母に預けられた保育園で、僕は初めて、自分の顔をはっきりと見た。

父と母にそっくりな顔、どちらかというと母親似かな?


 冷たい壁に背をつけて、毎日そればかり眺めていた。


 パンツ一丁で。


 えへへっ。


 今考えるとちょっと恥ずかしいかな。


 ……もうすぐ、トンネルを抜ける。

どこに向かうのだろうか。


 ……眠たい……。


 そういえば昨日は詰め込みでほとんど寝ていない……。


 眠ってしまおうか……。


 ダメダメ……人がいるから安心しちゃってるんだ……。


 よくないよくない……。

景色だって見たいのに……。


 あぁ……、せっかくの思い出なのに……。


 こんな事なら……寝とけば……。


 ……………………………………………………。


 ────────────────。


 綺麗に清掃された白い施設の中、目にハイライトの宿っていないショートカットの真面目そうなスーツの女性が、電話をかけている。


残陽のこりびさん、もうすぐ到着する筈です」


 どうやら電話は、残陽のこりびという名前をした者と繋がっているらしい。


「あぁ、わかってる──」


 残陽のこりびは、シャワーを浴びながら、自身の身体についた血を洗い流しながら答える。


「いま…………。」






「向かう。」

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