Case18 ラグの病?
「東区域部隊は船による海上戦の準備だ、被害を受けていない人魚、魚人を確認し部隊を再編せよ。陸上は北区域と南区域の部隊を向かわせる」
「わかりました。西区域の部隊は来ないのですね?」
軍団長は大きく頷く。
「西の区域が何やらきな臭いため招集せずに残しておく。腐れ病の工作をしたものが都市の中にいたら、中央区域部隊及び中央騎士団が対応する」
続いて軍団長はクロッサを見る。
「クロッサ殿には教会と連携し、治癒部隊を編成して頂きたい。さっき言った通り西も怪しいため予備隊の編成もお願いしたい」
「わかりました」
その後も軍団長は矢継ぎ早に指示を出し、全員をまとめ上げていく。
全ての指示が終わる頃には、外は真っ暗になっていた。
ーーー
「神の使徒、西獄動乱の聖者、大司教の養子」
本日はヤゴコロとラグが中央署の事務室に残り、他の隊員が出動していた。
そんな中、ヤゴコロが急に話し出した。
「……ロワルさんのことですか?」
神の使徒は部屋を訪ねた時に聞き、西獄動乱の聖者は救出の時に、大司教の養子だということはグランから直接聞いていた。
「ほい正解。上級治癒魔法が使え、その他にも結界魔法、時空魔法も使え、魔道具にも詳しく、多くの種族の生態を熟知していて、住民からの信頼も抜群だ」
ラグは急にロワルを褒め出したヤゴコロの意図が読めず、はてなが浮かんでいた。
「でも、心を病んでいて、身だしなみも最低限、顔はいつも死んでいるため良縁もなかった」
褒めたかと思えば急にヤゴコロはロワルを貶しだす。
「あの、ヤゴコロさん……?」
「しかし、最近顔色もよく背筋も伸びてきた」
ここまできてラグは、なんとなくヤゴコロが言わんとしていることがわかった。
「ロワル、最近モテてるよ」
ラグに電気魔法を食らったような衝撃が走った。
「う、嘘ですよね? だって今までそんな話し……」
ヤゴコロは目をつぶって首を横に振る。
「今までも無かったわけじゃないんだよ? ただ近寄りがたかったってだけで」
ロワルはラグが入った1ヶ月前と比べると表情は多少柔らかく、生気が出てきた。
顔もクロッサの存在に霞んではいるが、悪くはない。
「ヤゴコロさん、まさかもうすでにそんなお話が……?」
「食事に誘われたりしているみたいだね、全て一蹴してるみたいだけど」
「……ヤゴコロさん、ありがとうございます」
ガラガラと中央署のドアが開き、出動していたロワルたちが最後の一件を終えて帰ってきた。
「ロワルさん、お疲れ様でした。あの……また夕食とかどうですか?」
いきなり誘って断られないか不安になりながらもラグはロワルをご飯に誘った。
誰も表情に出してはいないが、男性の班員は羨ましそうにし、女性の班員は色めきだっている。
「ちょうどよかった、俺からも誘おうと思ってたんだ。白狼の巣でいいか?」
まさかあのロワルが?という声とそんな簡単に白狼の巣に?という声で事務室がざわめきだす。
周囲の反応にラグは顔を赤くし、走って逃げ出しそうになっていた。
「はい、美味しかったのでまた白狼の巣で……」
ラグがそう言うと、ロワルは少しだけ微笑んだ。
「わかった、予約しておくよ」
ロワルは手早く帰りの支度をし、事務室を後にする。
「ロワルって……仕事以外で笑うんだね?」
珍しいものを見たと、ヤゴコロは引き攣った笑いを浮かべた。
ーーー
後日、ラグとロワルは白狼の巣を訪れた。
相変わらず店は繁盛しており、普通に入ることはできないほど予約が殺到している。
「ロワルさん、いらっしゃいませ。色々大変だったようですね」
ロワル達が個室に入ると、律儀にまたヴァンが部屋へ挨拶に来た。
「なんとか、みんなに助けてもらい無事に復帰しました。ヴァンさんはお元気そうで」
「ええ、まだまだ働けますよ。それでは本日もごゆっくりお過ごしください」
一礼をし、ヴァンは去って行く。
ほどなくして料理が運ばれてきた。
「ラグ、あまり私服を見る機会はないが……よく似合っているよ、その服」
ロワルの言葉にラグは頬が熱くなるのを感じた。
前回の食事の後、あまりにも服がなかったためヤゴコロや他の女性班員達と服を買いに行っていた。
今日着てきたのは以前なら着ることのなかった、レースが使われた紺色のワンピースだ。
「今日はありがとうございます、最近食事のお誘いが多いと聞いて私も断られるんじゃないかと……」
「ああ、最近なぜかやたらと誘われてな。というか、ラグの誘いを断るわけないじゃないか」
ロワルは呆れたような表情をし、そしてすぐに真剣なものへと切り替えた。
「ありがとう、ラグのおかげで多くの人へ目を向けることができた。それにフロール家での一件もだ。俺にできることがあれば言って欲しい」
「でしたらすぐ叶えて欲しいお願いがあります! ……ロワルさんの過去を教えてください。生まれた時から今までの全てを」
勢いよく、そして真摯な眼差しがロワルの目を見つめる。
ロワルはその目を見つめ返し頷く。
「わかった、ただ、俺のかなり未熟な時代の話もあるから、口外はしないでくれよ?」
「も、もちろんです!」
何度も頷くラグを見て、少し笑いながらロワルは過去を思い出し話し始める。




