第十二話 主人公補正ってすっごいんだと改めて思う
着ていた下着は脱いですぐ(頼み込んで)洗ってもらい、針子のメイドたちに晒された。
ちょっと羞恥プレイではあるが、下着開発のために恥は捨てよう。既にもう幾人かのメイドさんには素っ裸まで見られているのだから、諦めは早かった。
そして更に、毎日メイドにお世話をしてもらっている王女様。いざとなれば鎧を失ってでも戦いに向かう近衛兵団長は、協力という名で潔くスパンと衣服を脱ぎ捨てた。
アール殿下は、シュミーズの下にコルセット、膝まであるドロワーズ姿。
衣服を脱ぎ捨てても剣を携え、堂々たる立ち姿のマリン様は、短めのドロワーズと、なんと胸にはさらし。巻きつけ、押さえつけてもなお立派なお胸をお持ちだ。
ついでに鍛えられて引き締まった腹は見事に筋肉がついて割れているが、無駄のない肢体はそれでも女性らしく、カッコいい!!
マリンの背は、私よりも頭一つ分ほど高い。
……今のところ、城の中に勤めている人で明らかに子供と思われる者以外で、男も女も、自分よりも背が低い人と会っていない。
人種による平均身長、という言葉が頭をかすめていった。
短いシュミーズ、下は短いドロワーズという下着姿の状態でマリンと向き合うとは思わなかった。
「改めまして、近衛兵団長マリン様。四方しぐれと申します。ご協力感謝いたします」
マリンは音も立てず、猫科の獣を思わせるようなしなやかな肢体全体でこちらを向いてくれた。
「近衛兵団長マリン・ブラーリー・ルーでございます。稀人様」
ビリッとした緊張感があった。
……あれ?
それは職務中の騎士の険しさだったのかもしれない。
夏の砂浜のような金色の髪は鬢より襟足のほうが短いボブカット。水底のような濃い青に見える色の目。
マリンは元々目元が涼しげ…、正直に言おう、キリッとしていると鋭く見えるから印象はキツめ。
黙っていると高圧的に見える、気の強そうな女王様風の美女だ。
キリリと引き締めた冷ややかな表情は、テラアストライガの胸を叩いて笑っていた時とあまりにも違いすぎる。
あれは気を許した者に向ける彼女の本当の笑顔なのだろう。
はっ?! 今気づいた!!
私、稀人補正は掛かっているだろうけれど、主人公補正は掛かっていない!!
絶対掛かってない!!
だって今ここは「物語の中」じゃない。「物語が終わったあとの現実」だ。
となれば、誰もかもが私に好意を抱いてくれる、なんていう幻想は捨て去らなければいけない!!
人という生き物は、一目見たときにはなぜかどうしても相容れないと思ってしまう相手がいたり、今まで生きてきた中でどうしても性格の合わない者というのが存在するのだ。
それはもう、努力とかそういうものでどうにかなることではなく、お互い大人の対応を心がけるか、それが出来ないのであればどっちかが確実で適切な距離という名の絶縁を選ばなければやっていけない。
『大好きなゲームの中のみんなだから、みんなと仲良くなりたいなんて思い上がりも甚だしかった…っ!!』
考えを改める。
私は好きだと思っていても、向こうは好意など微塵も抱いてくれないことなんて当たり前。
敵意、悪意、嫌悪なんて無いということはちゃんと示して、大人の対応と接し方を目指そう。
うわぁん。
リメイクでの新規攻略キャラ、女性近衛兵団長マリン。
この涼やかな美女が、勝ち気に微笑んでくれるスチルはホント美麗なんです。
本人は猫科の猛獣のようにしなやかなのに、断然犬派な彼女。
子供の頃犬を飼っていた身としては、是非愛犬トークを繰り広げたかった……。
「さらしは、キツくありませんか?」
「気にしたことがありません」
「動いていると息が詰まったりしませんか?」
「鍛えておりますゆえ」
うう、めげないぞ。
「戦闘中にさらしがズレたり、巻きが甘くなって一瞬気を取られたりしませんか?」
「……、…集中を欠くことは死を招きます」
「鎧を着た状態でさらしを直すことが出来なくて苛立った経験は?」
「……、……」
マリンは黙ってしまい、返事をしなかった。
勝った!! 勝ったぞ!! 私は今絶対に勝利した!!
「マリン様以外の女性騎士の方もさらしをお使いだと思われますか?」
「十中八九、そうでしょう」
「ふむ!!」
確信を持って頷いた。
女性騎士の方たちに本格アスリート系スポーツブラを装着していただくことによって、基本行動、動作が向上するだろうイメージが湧く。
ペコリとマリンに頭を下げて、アールと筆頭メイド長のところに戻る。
マリンから得た貴重な意見を伝えて、針子に機能性下着を縫ってもらうのを先にすべきだと提案してみる。
アールはしっかりと意見に耳を傾けてくれた。
楽しい、いや充実した、女性のための改革会議となった。
登場キャラクターの名前
四方しぐれ
マリン・ブラーリー・ルー近衛兵団長
アールヴヘイム・ラナ・ヘリオス王女




