第3話「五百人の中から――大型新人オーディションと、美紅の特別授業」
「社長! オーディション応募、締め切りました!」
朝一番、秘書兼副マネージャーの高瀬奈々子が社長室へ飛び込んできた。
「今年は何人?」
私はパソコンから視線を上げる。
「五百二十七人です」
「……過去最高?」
「はい。事務所設立以来、最多です」
思わず椅子の背もたれに身体を預ける。
設立から二年。
M’s Create Entertainmentは、業界内でもかなり知名度を持つ事務所になっていた。
理由は明確だった。
――篠原美紅。
彼女の存在だ。
結婚、出産を経ても第一線で活躍し続けるトップモデル兼女優。
さらに、
「新人を大切に育てる事務所」
という評判も、徐々に広まっていた。
「今年も大変そうだね」
いつの間にか社長室へ入ってきていた美紅が笑う。
「他人事みたいに言わないで」
「でも、私も審査員でしょ?」
「もちろん」
「頑張ります」
美紅は笑顔で敬礼した。
◇◇◇
オーディション当日。
会場となった大型スタジオには、全国から集まった少女たちが緊張した面持ちで座っていた。
年齢は十三歳から二十二歳まで。
一次審査を通過した百名である。
「みんな若いなぁ……」
美紅が小さく呟く。
「私たちも昔はこうだったんだよ」
「そうですね」
審査が始まる。
歌。
演技。
自己PR。
ダンス。
一人ひとりが夢を懸けて挑戦していく。
そして瑞稀の目を引いたのは、次の十人だった。
⸻
天ヶ瀬綺星17歳
明るく人懐っこい性格。圧倒的な笑顔を持つ。
皇凰院紗玻18歳
名家出身。独特な存在感を放つ。
神代瑠璃寧16歳
透明感のある歌声が特徴。
東雲月詠音17歳
演技経験はないが表現力が抜群。
九重結羽乃18歳
バレエ経験者。スタイルも良い。
天羽咲琉愛15歳
最年少ながら堂々とした受け答え。
白銀柚羽璃19歳
クールな美貌を持つ大学生。
月城星乃叶20歳
モデル志望。カメラ映えする。
西園寺羽瑠妃18歳
表情作りが非常に上手い。
桜宮詩珠希17歳
人を惹きつける独特なオーラを持つ。
⸻
「今年、レベル高いね」
美紅が資料を見ながら呟く。
「うん」
「特に月詠音ちゃんと綺星ちゃんはいい」
「私もそう思う」
審査員席には、
社長の瑞稀。
篠原美紅。
副マネージャー高瀬奈々子。
元キャスティング担当の水瀬祐介。
そして特別審査員として、大手テレビ局プロデューサーの城崎誠一も参加していた。
「篠原さん」
城崎プロデューサーが話しかける。
「はい」
「新人時代の自分を思い出しますか?」
美紅は少し考えた。
「思い出しますね」
「でも」
「この子たちは私よりずっとしっかりしてます」
会場から笑いが起こる。
◇◇◇
オーディション終了後。
最終審査に進む十五名が決定した。
その日の夕方。
瑞稀は美紅へ頼みごとをしていた。
「美紅」
「ん?」
「最終審査組に、特別レッスンしてくれない?」
「私が?」
「うん」
「トップで活躍している人の話を聞く機会なんて、滅多にないから」
美紅は快く引き受けた。
翌日。
事務所レッスンルーム。
最終審査に残った十五人が緊張した面持ちで座っていた。
そこへ美紅が入ってくる。
「よろしくお願いします」
全員が一斉に立ち上がる。
「そんなに緊張しなくていいよ」
美紅は優しく笑った。
「今日は、私が新人だった頃の話をします」
少女たちは真剣に耳を傾ける。
「私は最初から順調だったわけじゃない」
「失敗もした」
「泣いたこともある」
「辞めたいと思ったこともある」
驚く新人たち。
「でも」
「続けてきて良かったと思ってる」
「どうしてですか?」
天ヶ瀬綺星が質問した。
「大切な人たちと出会えたから」
美紅は微笑む。
「仕事仲間」
「家族」
「ファン」
「そして、今の自分」
「全部、この仕事が繋いでくれた」
十五人は真剣に聞いていた。
その後。
演技指導。
ウォーキング。
カメラテスト。
約三時間に及ぶ特別レッスンが行われた。
終了後。
天羽咲琉愛が美紅へ駆け寄る。
「篠原さん!」
「どうしたの?」
「私、絶対この事務所に入りたいです!」
「ありがとう」
「でもね」
美紅は優しく微笑む。
「入ることがゴールじゃないよ」
「スタートだから」
「はい!」
そのやり取りを社長室のモニター越しに見ていた私は、思わず笑ってしまった。
「本当に成長したなぁ」
昔。
誰よりも不器用だった女の子は、今では誰かの憧れになっていた。
そして私は思う。
この事務所なら。
この仲間たちなら。
きっと、また新しい夢を育てていける。
五百二十七人の夢。
その中から始まる新しい物語を、私はこれからも見守り続けていくのだった。
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