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楽しいピクニック

熱を出して寝込んでいました…。

更新が遅くてすみません。

「わぁっ……、綺麗…」


 少し歩いて辿り着いたそこに、湖があった。そこだけ拓けていて、木々の隙間から陽の光が差し込み、湖面がキラキラと輝いている。周りには雑草と共に野花もちらほら咲いていて、思わずルーナリアは笑みをこぼした。


「森の中にこんなところがあるなんて…」


 さっきまで歩いてきた所には、雑草はあれど、野花はちっとも咲いていなかった。ここには色とりどりとまでは言えないけれど、赤や黄色、白の小さい花が咲いている。木々の隙間から差し込む光のおかげで、森の中の鬱蒼とした雰囲気はなく、リスや小鳥などの小さな生き物が顔を出してくれそうな明るさがあった。


「気に入ったか?」

「はい、とっても」


 微笑みを浮かべながら隣にやってきたウィルフレドに、ルーナリアは笑顔を返す。自然と胸の前で組まれていた手に、さらにぎゅっと力を込めて。


「それなら良かったよ」

「連れてきてくださってありがとうございます、殿下」

「礼には及ばないよ」

「少し周りを見て歩いてもいいですか?」

「もちろん。僕も一緒してもいいかい?」

「許可などいりませんよ。どうぞ」


 苦笑しながら、ルーナリアはウィルフレドと歩き出した。


「俺達はこの辺りで昼食の準備をしておくよ。ゆっくり歩いてくるといい」

「頼んだよ」

「…ありがとうございます」


 レイアードの申し出に、申し訳ないから手伝うと駆け寄りたかったルーナリアだが、ウィルフレドに腰に手を回され、レイアードにはなんだか真剣な表情で頷かれ、マルクランには笑顔で手を振られ、さすがに空気を読んだ。喉元まで出かけていた言葉を飲み込み、引きつった笑顔で礼を返した。

 本来ならば、お貴族様に昼食の準備をさせるなどあってはならないのである。レイアードに食後の紅茶を淹れてもらうことは既に定着しつつあるが、それも初めはものすごく抵抗した。しかし、ルーナリアではレイアード程美味しくお茶を淹れることはできないし、高級な茶器を扱うことも恐ろしい。お貴族様に庶民レベルの茶器で、安い茶葉の紅茶を出すわけにもいかず、おとなしくレイアードのお茶にありついているのだ。

 しかし、あからさますぎるほどあからさまな態度を取られてしまうと、それに従わなければならないような気持ちになるのである。ちらりと横を見れば、上機嫌なウィルフレド。ルーナリアはなんとも複雑な気持ちになった。


「とりあえず殿下、私は逃げたりしませんから、この手を離してください」


 ゆっくり歩きながらウィルフレドを見上げ、ルーナリアは腰に回された手を指差した。


「別に逃げないように捕まえているわけじゃないよ」

「では離してください」

「どうしてだい?」


 分かっているだろうに、ウィルフレドはキョトンとした顔でルーナリアを見る。腰に手を回すのは当然のことだとでも言わんばかりに。


「どうしてもこうしてもありません。恥ずかしいからやめてください。それに歩きにくいです」

「いいじゃないか。景色を見て回るのに急ぐことはないんだから」

「近すぎるんです。落ち着いて湖を眺められません」

「そう?これくらい普通だよ」

「私は庶民ですよ。こういうエスコートは慣れていません」

「じゃあ僕で慣れたらいいよ」

「そういう問題じゃありません。私で遊ぶのはやめてください」

「ふぅ」


 これ以上はルーナリアの機嫌を損ねそうだと、ウィルフレドは渋々腰に回した手を離した。慣れないところから手が離れ、ルーナリアはほっと息を吐く。お貴族様のエスコートは接触が多くて困るのだ。

 気を取り直してゆっくり歩きながら辺りに目をやる。隣を歩くウィルフレドが湖ではなくルーナリアを見ていることは、気づかないふりをすることにした。


「ここは人の手が入っていないのですね」

「ん?ああ、そうだね。学園の貴族達はこういうところはあまり興味がないらしくてね。僕たちくらいしか来ないから、手付かずのままにしてあるんだ」

「お貴族様はこういうところは好きではないのですか?」

「彼らは自邸の庭園だったり、別荘の整備された湖の方が好ましいようでね。こういった自然のままを好むものは少ないんだよ」


 苦笑しながらウィルフレドは言う。ルーナリアの口から思わず、勿体無いという言葉が溢れでた。


「殿下は違うのですね?」

「そうだね。手入れされた庭園もいいけれど、こういった自然のままのところの方が落ち着くんだ。国民や臣下の求める王子殿下で居続けるのは、時に息苦しくなることもあるからさ」


 それが僕の務めだから、仕方がないんだけどねと、ウィルフレドは笑う。立場ある者として生まれ、それを全うすべく努力をすることは当然のことなのだ。


「私の知っている殿下は、いたずら好きの、おふざけがお好きな方、ですけどね」


 その言葉は慰めか、皮肉か。ルーナリアはふふっと笑った。


「そんなこと言われると、リアを抱きしめたくなるじゃないか」


 ウィルフレドが両手を広げるとほぼ同時に、ルーナリアは素早く体ひとつ分以上横に避けた。


「謹んで遠慮申し上げます。そしてお調子者も追加します!」


 警戒しつつも不敬にならない程度に視線を鋭くし、ルーナリアはウィルフレドを見上げた。ウィルフレドにはそれが子猫が毛を逆立てて威嚇している様にしか見えず、思わず笑ってしまう。


「ははっ。僕のことをそんな風に言うのはリアだけだよ」

「私の前ではいつもそうではないですか」


 ついついルーナリアは口を尖らせた。からかわれるのは不満なのである。


「リアの前だと安心してしまうんだよ。つい素に戻ってしまう」

「そんなこと知りません」


 これ以上からかわれるのはごめんだと言わんばかりに、ルーナリアはウィルフレドから離れて歩を進めた。ここには湖を見に来たのである。ウィルフレドにお戯れにされるために来たわけではない。

 さほどプンプンとはしていなかったけれど、そういう雰囲気を背中に出しておいた。後ろでウィルフレドが笑っているのは見なくても分かったから。


「はぁ…綺麗…」


 ぎゅむ、ぎゅむと雑草を踏みながら、湖に近づく。草を踏む感覚も久し振りだ。学園に入って以来、雑草の生えたところを歩く事なんてほとんどなかった。裏庭には多少はあるけれど、程よく手入れがされていて、短く生え揃っているのだ。靴が隠れそうになるほどの草なんて久し振りで、ルーナリアはうっとりとした。そこから湖の湖面がキラキラと輝いて見えるのだから、嬉しさが溢れてしまう。


「でも…なんだか不思議な感覚がする…ような…?」


 湖に近づくにつれて、肌がピリピリするような感じがして、ルーナリアは首を傾げた。以前にも感じたことがあったような…なかったような…。


「リア?どうかしたのか?」


 違和感を感じて立ち止まったルーナリアに、笑いをしまったウィルフレドが声をかけた。しかし、振り返りウィルフレドに応えようとしたルーナリアの足に、何かが絡みついた。


「きゃあぁぁっ」







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