友人とは
少し…詰まっております…。
「本当にあいつらはしょうもない。ガキだな」
「同い年ではありませんか」
ウィルフレドとマルクランがしばらく小競り合いをしていたため、ルーナリアの隣にはレイアードが並んで歩いていた。
ため息交じりのレイアードに、ルーナリアはくすくすと笑ってみせた。前の二人とは少し距離があるため何を話しているかは聞こえないが、ウィルフレドがマルクランを叱っているのは雰囲気で分かる。
「レイアード様のお立場では、落ち着いた雰囲気になられるのは仕方ありませんね」
「目付けのようなこともしないといけないのでね。マルの目付役まで引き受けたつもりはないのだが」
「皆さん仲良しで羨ましいです」
頭痛の種と言わんばかりに、こめかみ辺りを揉むレイアードに、ルーナリアはただただ笑顔を返す。その顔が、レイアードには何処か寂しそうに見えた。
「リアには親しい者はいないのか?」
「私に友人なんていませんよ」
「学園ではなくて、入る前の話だ」
「…外にも、親しい人はいません。父と、エルザくらいです」
「……ずっと…か?」
「そうですね。でも、それでいいんです。私がそれでいいと思っているので」
まさか、と顔色を変えたレイアードから目をそらし、ルーナリアはまっすぐ前を見て言った。
そこに悲しみはなく、侘しさはなく、後悔もない。
「憐れむ事はありませんよ。お貴族様にとっては、周りと交友を深める事は重要な事だと思います。誰を味方に引き入れて、誰を手駒とするか、誰に付き従うかを見極める事も必要でしょう。一人でいる事はマイナスになるのでしょうし、人の中で生きる事が、お貴族様に課せられた使命の様なものなのですよね。ですが、山で生きる私には、そういうものは不要だったのですよ。誰の顔色を伺う必要もありませんし、誰に媚びる必要もない。山には動物もいるし、大好きな家族がいる。それだけで十分だったんです。友人がいなくても、寂しいと思ったことはありません。必要だと思ったこともありません。私には父がいましたから。父さえいてくれれば、それだけで良かったんです」
「君は…本当にフォルマの事が好きなんだな」
ルーナリアの横顔が眩しく見えた。一点の曇りもない瞳が、まっすぐ前を見据えながら、ここにはいない人を見ているようにみえた。
「もちろんです。父は私のヒーローですから」
とびきりの笑顔で言い切ったルーナリアに、レイアードは思わず苦笑した。お前の好敵手は誰よりも最強だなと、ウィルフレドを憂いて。
額に手を当て、空を仰ぎたくもなったが、ルーナリアに不思議がられるだろうと思いやめた。代わりに、ふと湧いた疑問を投げかけてみる。
「リアは、俺たちと一緒にいることはどう思っているんだ?」
「どういう事ですか?」
レイアードの言葉にルーナリアは首を傾げる。
「君は友人を必要としていなかった。でも、ウィルをはじめとした俺達三人は、リアと友人になったつもりでいる。本来ならば、俺た達はリアが顔色を伺わなければならないような身分だ。そんな俺達と一緒にいるのは…嫌なんじゃないかと思ってな」
「……本当の事を言って、いいんですか?」
どこか申し訳なさそうに言うレイアードに、ルーナリアは少し視線をさ迷わせた後、試すような、茶化すような笑顔を返した。レイアードがコホンと軽く咳払いをし是と伝えると、ルーナリアは、では遠慮なく、と口を開く。
「友人になって欲しいって言われなかったら、絶対になってないです。レイアード様が言うように、顔色を伺わなければならないようなご身分の方ですもん。それも、1人は王族ですし」
もうそろそろ言い争いは終わる頃だろう、前を歩く二人を見る。もうウィルフレドは声を荒げることはなく、マルクランと軽く言葉を交わしていた。
「でも、私が失礼な事を言っても誰も怒らないし、ずっと神経を張り詰めていないといけないような状況ではないので、嫌ではないです」
「そうか…」
「いろいろ面倒ごとに巻き込まれている感じはしますけど、危険な事を除けば、結構楽しいなぁと感じることもあります。友人っていうのも、悪くないかな…と今は思っています」
「それならば…良かった」
ほっと胸をなでおろし、レイアードは笑った。
主が心を寄せる人ではあるけれど、自分自身ルーナリアを気に入っていたので、嫌がられていないことに純粋にほっとしていた。
「私もバカではないので、いざとなれば父の威を借りてしまえばなんとかなることは分かっています。父の手を煩わせたくないので、余程でない限りするつもりはありませんが」
庶民であるはずの父の権力の大きさは、だいたい理解している。国王陛下とも友人だというのだから、ルーナリアが思っていた以上に力はあるのだろう。けれど、その力を頼ったことは、ほとんどない。あったなら、ルーナリアの学園での立場はもっと高いものになっていただろう。
「皆様が、私に権力を持って対峙してこない限り、私も父の権力を頼ることはないと思います。その上で成り立つ友人関係ならば…、きっと楽しいでしょうね」
「ふっ…、そうだな」
顔を見合わせて、笑った。
探り探りの、権力故の強制のようでそうではない、どこか不思議な関係。それをどう動かしていくかは自分次第。互い次第。そのバランスすら楽しむもののように思えてくるから笑えてしまう。
「まずはピクニックを楽しみましょう。…学外演習でしたっけ?」
「多分どっちもだ」
互いに少し肩が軽くなったのを感じていた。交わす笑顔も、今までより少し柔らかくなる。
「リアー!もうすぐ湖だよ!早くおいでよ!」
とっくに言い争いが終わっていたらしい前を歩いていた二人から、マルクランのはしゃぐ声が届く。隣ではウィルフレドが穏やかな顔をして立ち止まっていた。
「今行きます」




