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幼馴染達と行く異世界生活  作者: 篠宮ソラ
王の試練編
43/44

それぞれの目的

なろう大賞に応募しました!

応援よろしくお願いします!

「知らない天井……待ってください。なんか、私の目覚めたらベッドの上体験多くないですかね!?」


 眼を覚ましたのは淡い紫の髪のスレンダーな少女、柔らかなベッドから体を起こそうとした彼女、愛紗は最近のことを振り返りながら、何があったか記憶を思い出す。


「確か……試練で……闘法に目覚めて……あっ!証は!?証は何処に!?」


「ここだ、起きたようだな?」


 扉を開いて入って来たのは友哉に未来、リアナに力であった。金は現在次の作戦をクリアやシェリーと共に練っている。


「あー良かったぁ〜落としたかと思ってましたよ〜」


「怪我の具合はどう?脇腹の傷とかは治ってるはずだけど。」


 王の証である黒のカードを見せながら彼女が目を覚ましたことに安心する力と傷などの経過を観察する未来。


 更には美味しそうな匂いと暖かそうな湯気が立ち上るシチューを持った友哉がいた。リアナは彼らの一歩後ろに引いて立っている。


「ええ、体に問題は有りません。次の試練も問題なく行けますよ!」


「それは駄目。愛紗?貴方が気を失って帰って来た後、起きたのはいつだと思う?更に今、私たちが何処にいるか分かってる?」


「えっ、え〜と……さ、さあ?」


 物言いたげな目で射抜かれた愛紗は焦燥に駆られながら質問に質問で返す。


 そんな彼女に未来は目が笑っていない笑顔で彼女の質問に答えた。


「上下に揺られる感じから船の上だとは分かってはいると思うけど……愛紗、貴方丸2日は寝てたんだよ?」


「マジですか!?」


 飛び上がるほどに驚く彼女に未来は呆れたようで「もうっ!」と腰に手を当てながら彼女の額を人差し指で軽く弾く。


「そんな目覚めたばかりの体でよく次の試練をやろうと思ったね?まずは安静にすること!次の試練に参加しようと考えずにちゃんと体を休めれば最後の魔王謁見には連れて行ってあげるから。だから大人しくしてなさい。」


「……はーい」


 どう見ても不満ありげだが頬をぷくーっと膨らませるだけで文句を言うつもりはないようだ。


「だからこれでも食って生気を養え。シチューはこの世界にもあったからそれを改良して作り上げたクリームシチューだ。俺の真心をよく味わってくれ。」


「……うわぁ今の言葉で物凄い勢いで食欲が失せました。けど捨てるにはもったいない……」


「え、何?捨てるかどうか悩むレベル?オマエ、マジで俺の事病原菌か何かかと思ってね?」


「……ペスト菌」


「おい誰だ?今、ボソッとクマネズミを媒介とした感染病の名前出したやつ。俺は人類を脅かす存在なのか?」


「ところで話を変えるが「おい変えんな。まさか力か?なあ?なあ?」俺じゃない。ゴホンッ!で、だ、闘法を身につけたのは本当か?」


 ぎゃあぎゃあ喚き立てる友哉を無視して話を進める 力、一方で無視された友哉は部屋の隅でいじけていた。


「はい!名付けて『走破』!ありとあらゆる所を走ることが出来ます!垂直な壁でも空中でも多分水の上でも走れますよ!」


「良くやったな。」


どうだとばかりに自慢するような目で訴えかける彼女に力はおざなりながらも確かな気持ちを込めて答えを返す。


「愛紗…」


「?何ですか?リアナさん?」


 ひと通り闘法についての話をし終えると先程まで一歩引いていたリアナが前に出て来ると頭を下げた。


「ーーありがとう。そして無事に帰って来てくれて良かった。」


「リアナさん……」


 相変わらず鉄仮面で顔を隠している為に表情は読み取れない。しかし、あまり関係を持たなかった彼女から与えられたその言葉に彼らは一抹の感動を覚えた。



「と…カレン様が伝えておけと。」


「私の感動を返してくださいって…いったぁぁ!」


 だがしれっと付け加えた彼女の言葉に愛紗が叫んだせいで脇腹の痛みが再発したようでベッドの上で悶絶する彼女の為に部屋から出ることにした。


「んじゃまた飯食い終わった頃くらいに皿下げに来るからそれまで大人しくしてろよ?」


「何度も言うようだけどとにかく安静にね?」


「何か欲しいものがあったら気軽に申し付けてください。」


「じゃあな。」


「ちょ!ちょっと待ってください!」


 部屋の扉に手をかけたところで皮膚が裂かれそうな痛みから何とか復帰した愛紗が待ったをかける。


 そして動きを止め、こちらを向いた彼らに彼女は愛想笑いではなく、彼女本来の華やかな笑顔を浮かべて帰った時に言おうと思っていた言葉を口にする。


「ーーただいまっ!」


 彼女のその言葉に彼らは顔を見合わせると目で会話をし、彼女の無事を祝う言葉を返したのだ。


「「「「おかえり!」」」」


 そんな温かな言葉を。


 クリア陣営 黒1枚 白4枚


 *




「セバスよ、これは一体どういう事だ?」


「申し訳ありません。シュヴァイン様。」


「謝るだけならガキでも出来る!この埋め合わせをどうするのかと聞いているのだ!」


 豪勢な椅子に座り、女の尻を撫で回していたシュヴァインから手にしていたワイングラスが投げられ、跪いていたセバスの頭に衝突する。


 割れたグラスから赤いワインと破片によって切れた紅い血が彼の髪を伝って滴り落ち、小さな水溜まりを作り出す。


「私は気分が悪い!嫁の2、6、7、9、を寝室に呼んでおけ!」


 肩をふるわしながら鼻息を荒くし、寝室へと消えていく豚を見送った後、彼は頭に被せられたタオルで赤ワインを拭いながら立ち上がる。


「このタオルはクアレスか。助かる。」


「相変わらず酷いわね。あの豚は。」


「まあ仕方ないさ。俺たちの目的を達成する為の隠れ蓑として利用しているだけなんだからな。」


 海のような深い青髪を纏めた彼女の気遣いを受け取り、赤い髪とワインによって汚れた眼鏡を拭き取りながら豚には決して話せない会話を続ける。


「ナームはどうだ?次くらいには参加してもらわないといけないんだが?」


「昨日辺りに会心の彫像が出来たみたいだから、そろそろ参加すると思うわ。最も私からすれば吐き気がするけどね。」


「だからこそ利用しやすい。目的を果たしたら始末するさ。彼の様な異常犯罪者はこの国にとって邪魔にしかならない。」


「言えてるわ、けど、今回の結果酷すぎない?貴方が持って帰ってきた白のカード1枚だけなんでしょ?」


「ああ…途中でクリアと出会ってな。それを対処している間に横からスラムの奴らに掻っ攫われた。」


「彼らも手を抜けないわよ。特に『分裂』のラッシュ。『支援』のビーン、『忍耐』のペイシェに『共有』『伝達』のエルアル姉妹という少数精鋭のチームだから。」


「分かっているさ。それにクリアの所も粒揃いだ。黄金の錬金術師カレンに魔弾の射手リアナ、結界師シェリーに更におそらくだがあのアリスがいる。」


「まさかっ!?あのアリス!?未来の魔王の娘の!?」


「そう、行方不明のあのアリスだ。後は情報が手に入らない所からおそらく闘人が3人。どれも優れた使い手だ。」


「一筋縄ではいかないみたいね。」


「だが、壁が高いほど燃えるだろ?」


「かっこいいこと言っちゃって。それに免じてシュヴァインの機嫌はとってきてあげるわ。嫁達も私が連れてくるから貴方はもう休みなさい。」


「助かる。」


 会話を終え、踵を返して嫁達が逃げ出さない様に隔離されている部屋へと向かうクアレスを見送り、彼もまた自身の部屋へと戻るのだった。


 シュヴァイン陣営 黒1枚 白3枚

 *



「どうだ?首尾のほうは。」


「ぼちぼち、黒の証がないのがきついね。いっそのこと私達も誰かの下についた方がいいかも。」


「ダメよ、姉様。それだと途中で切り捨てられるわ。出来るならラッシュには王になって貰わないと。」


 ラッシュの拠点は小ぢんまりとしたテントだ。中には双子の姉妹が船を漕いでいる幼女をあやしているところであった。


「んみゅ?」


「ああ、起こしたか、済まない。」


「おじちゃん!」


「できたらお兄さんとよんでほしいがな。」


 寝ぼけ眼がラッシュの姿を捉えると一気に目が覚めたらしく、ぱあーっとした明るい笑顔で笑いかけた。


 ラッシュは彼女を鍛えあげた腕で持ち上げると頭を優しく撫でる。


「今日は何したんだ?ミーナ」


「今日はね〜エル姉ちゃんがおままごとしてくれたの!ミーナがお母さんでね!エル姉ちゃんが赤ちゃん!」


「そうかそうか。ビーンとペイシェが返って来てるからお馬さんでもやってもらうといい。テントを出たすぐの所で煙草をふかしているはずだ。」


「うん!わかった!」


 太陽に負けない程の彼女の明るさに思わず、ラッシュも口角を上げて微かに笑うと()()()()()()()()()()()()を連れて、テントから出て行った。


「可哀想に、異人の血を引いてるからって遊び半分で足を斬り落とされたのにあの子はどうして笑えるの?」


「姉様、姉様、あの女は私達には理解できないのです。そういう存在であると考えておきましょう。」


 ミーナは異人の血を引いた子である。

魚のような鱗に尾鰭を持ち、色素が薄い髪をした少女であるがその奇異な見た目のせいか、スラム街では卑下の対象として見られていたのだ。


 ラッシュ達との出会いは只の偶然、或いは天命と言うべきか。

 エインが居なくなってからスラム内の秩序の維持の為に自警団を組織したラッシュはエルアル姉妹が作り上げた黒い噂が漂う地域を巡回していた。


 その噂が流れた場所の1つに足を踏み入れたラッシュ、ビーン、ペイシェはそこで無残にも膝から下を斬られ血だまりに沈んだ彼女を見つけたのだ。


「あれ以来、ラッシュは変わったね。そうは思わない?アル?」


「分かります、姉様。ただの猿からゴリラにはなったかと。」


「それ…本人の前で言わないで上げてね。本人も気にしてるから。」


 そんな話をしているうちにラッシュがテント内部へと帰ってくる。2人は少し動き、体が大きい彼の座る場所を確保する。


「で、現状はどうだ?」


「正直に言って一手足りない。」


 それはたしかにラッシュも感じていた。それはまるで自分達の考えている作戦を見透かされているような感覚を味わっているからだ。


 自分の指示に従って動く彼らが平面的な世界を見ているならまるで立体的な世界から俯瞰的に観察されているような不気味な視線。


「証さえ手に入ればいい。そうすれば魔王謁見で俺たちの勝ちが決まる。」


「その為にあの子を拾ったからね。魔王が愛する異人のハーフだからこそ人嫌いの魔王からすれば彼女を選ぶに決まってる。」


「現に、前王より前はほとんどが異人、又は異人のハーフでしたから。その策はかなり高いと思います。」


「……ああ、そうだな。」


 だが確実ではない。

 だからこそ彼らは一手足りないと感じている。

 つまりは『魔王が必ず彼女を選ぶ』と言う一手。

こんな小さな子供を確実に王にする為の方法だ。


「大丈夫かしら?ラッシュ?あなた随分と疲れた顔をしているわよ。」


「心配はいらん。少し疲れただけだ。」


「なら休みなさい。貴方、根を詰めすぎよ。最後の試練まで持たないわ。ミーナは私達に任せて」


 無理やり背中を押されてテントの外へ出たラッシュが見たのは焚き火を囲い、黒パンを頬張りながら器用に魚を焼くペイシェと爆薬を作成するビーン。


 2人の間ではミーナが楽しそうにはしゃいでおり、ペイシェがビーンの邪魔をしないようにと焼き魚を彼女の鼻元に近づけている。


「エインよ、俺はお前が言っていたあの夢を叶えたい。」


 見上げた先には満点の星空。

 それはかつて、彼と夢を誓い合ったあの日のようで。


「たとえ隣にお前がいなくても俺はあの日の夢を追いかけ続ける。その為ならいくらでも後悔を引きずろう。俺1人に責任が掛かるならそれでいい。」


 あの日見た星が煌めく空に今は亡き彼を見て彼は拳を握り締める。


『俺!こんな国を変えたい!だから協力してくれ!ラッシュ!!』


「必ず、お前と夢見た国を作ってみせる。だから待っててくれ。エイン」


 星の輝きは本気で国を変えたいと思う青年に瞬きを散らすのだった。


 ラッシュ陣営 白5枚




あるテント内では2人の男が酒盛りをしていた。


「ワストが死んだか!!ざまあねえな!あの女の体はなかなか良かったが弱すぎるからな!」


「キャプテン〜あっしは可哀想だと思うんですが?」


「何言ってんだ!我が同胞よ!戦えるが役に立たない女と戦えないが役に立つ男、どちらが大事なんて決まっていることだろうよ!」


酒場で出されるようなきつく、質の悪い酒を彼は胃に流し込みながら豪快に笑う。


「お前のような男が海に落ちたなら俺は絶対に助けに行く。だがな、あの女が負けて海に落とされた時点で助ける気なんてこれっぽっちもなかったんだよ!」


灰色の髭を撫でながら、ワストの死を弔うこともなく、むしろいらなかったと暗喩するエドワード。


「なあ?お前もそう思わねえか?第3番隊隊長、アッシュよ!」


「へ、へい!その通りですね!」


それに対して、片目に眼帯をつけてビクビクと小動物のように震えるアッシュ。


「おい!エドワード!お前何してやがる!それは明日酒場に下ろす安酒だぞ!」


そこに飛び込んできたのは細く、貧弱な枯れ木のような体をした中年の男性。怒鳴り散らす男にエドワードは持っていた酒を飲み干すとガチャリと鉄で出来た筒を頭につけた。


「な、なんだ?それは?」


「今から死ぬ奴に教えても意味ねえだろうが。」


「馬鹿!やめろ!良いのか!俺が死んだら、誰がお前に私掠船の許可を出すと思っているんだ!お前が海上での権力が欲しいとか言うから協力してやってるんだろうが!」


エドワードは少し、思案すると黙って筒を懐にしまい、再び安酒を開ける。


「ふん!最初からそうすればいいんだ!お前らみたいな海のゴミがレーヴィンの支店長(カリナ不在時の代理)と同じ立場にあるわけないだろ!いいからお前らは俺に従っていればいいんだよ!」


「で?話はそれだけか?あん?」


鷹の目のようなきつい目で射抜かれた男、バーソロは睨むエドワードに怯えながらも舌打ちしながら答えた。


「なんなんだ今回の結果は!もっとまじめにやらないか!」


「はっ!なんだ文句言いに来ただけかよ、じゃあテメエがやれ。そういう態度だから仕事が出来ても人望がねえんだろ?」


的を得た正論に反論の言葉を喉に詰まらせたバーソロは露骨に話を変えにいく。


「そ、そういえばさっきの鉄の筒は何だ?武器のようだったが?」


「あれは魔弾の射手が使ってる武器の簡易版マスケット銃と言うらしい。ある奴から流されて来た代物だ。」


懐から黒光りする鉄の輝きを見せると悪どい笑顔を見せる。


「殺傷力はテメェで試してみるか?」


声に僅かな圧を込めたエドワードの脅しに腰を抜かしたバーソロはいも虫のように地べたを這いずりながらテントを出ていく。


「がははははははっ!!今の見たか!アッシュ!例えいくら権力があろうとも本物の暴力の前じゃあこんなもんだ!」


「けどキャプテンが欲しているのはその権力では?」


「ああ、だが考えてみろアッシュ。シュヴァインのように振りかざした権力は暴力とさして変わらない。逆にいやあ、強さで治めた闘人大陸の帝国は暴力を使った権力といえる。」


そこまで言うとかっぱらって来た安酒を全てをラッパ飲みし、喉が焼けるような熱さに胸焼けするようなきつさを全て堪能して彼は最後にこう言った。


「権力と暴力は表裏一体なんだよ。そのことだけはゆめゆめ忘れるな。」


「うす!」


そして彼らは酔いがまわるまで騒ぐのだった。


エドワード陣営 なし。





「報告をしに来ました。」


「ご苦労様、それでどうなりましたの?」


魔王の書斎へと訪れたテイルはつらつらと第2の試練で起きた出来事、および被害状況を語っていく。


魔王はそれを冷めた紅茶を飲みながらふかふかな椅子に座り、耳を傾けている。


「伝達役からの報告は以上となります。それでは失礼します。」


「待ちなさい。」


報告が終わり、一礼をしたテイルをラケスは呼び止める。その目には疑念の感情がありありと見て取れた。


「何でしょうか?魔王様?お茶のおかわりですか?」


「それは後で頼むわ。それよりもテイル?貴方(わたくし)に何か隠してますわよね?」


魔王の懐から1本の羽ペンがちらりと見えた。

即ち話さないなら魔法を使うことも厭わないと言っているのだ。


「さすが魔王様……非礼をお詫びします。」


「その罰は禁書の整理で済ませてあげますわ。正直に話せばもれなく罰は軽くなりますわよ?」


観念したかのように肩を竦めた少年にラケスは羽ペンをしまうと話すように若干の圧を加える。


「坑道内の人形達に刻まれていた術式が全て変えられておりました。原因を調べて見たところ、どうやら人形を作った時に刻まれていた非常用術式『創造者には敵対するな』が魔王様が書いた術式を塗りつぶしたようです。」


ガシャン!と第2の島の住民が献上したカップが割れた音が部屋に響く。


「何ですって……?」


「おそらく、非常用術式は作った本人であるアイリス様に敵対しないように書かれたものだと思いですがアイリス様がこの国を訪れた形跡は御座いません。ですから可能性があるとすれば魔導人形自体を創造したーー」


その一瞬、テイルは地獄を見た。


それはただの幻覚でしかない。

それはラケスによる憤怒の具現によるものだと。

ただそれを脳が理解しても出会った時に遺伝子まで刻まれた恐怖が全てを押しつぶす。


「うっ……ぷっ……」


胃の中が逆流する。

喉が焼ける。

体全てが口から吐き出されたのではないかと錯覚した所でラケスから発せられていた幻覚を見るほどの魔力は少し抑えられていた。


「つまり、貴方が言いたいのは……我が師がいるとでも?」


「か、可能性から推測するに……」


立てない。立って真っ直ぐ顔を見ることが出来ない。

今、彼女がどんな顔をしているのかすらも想像したくない。


「テイル?いくら貴方でも私に言っていいことと悪いことがありますわよね?」


優しげな声が四つん這いのテイルに振ってくるがテイルはやはり顔を上げられない。


「昔、貴方を死ぬ寸前まで追い詰めた事を忘れたならもう一度思いださせてあげましょうか?」


テイルは昔の記憶を思い出しかけ、更に吐いた。


「や、やめてください……」


「たしかに我が師なら出来るでしょう。我ら魔王に魔法の手ほどきをした『全能の魔術師』である彼なら間違いなく。ですがーー」


コツ、コツと足音が床を通じて近くなることが意識をギリギリの線で持ちこたえていたテイルにはわかった。


「彼は死んだ!!もういないっ!!あの憎き、未来の魔王に殺されたせいで!!」


足音が止まる。

それと同時にテイルの体が宙に浮かぶ。


「それでも貴方はそんな仮説を立てるのかしら!?」


髪を掴まれ、無理やり立たされたテイルの目に映るのは子供のように顔を歪めて泣く魔王の姿。


「はい……だってラケス様に言ったんですよね?必ず帰ると……その言葉を弟子の貴方が信じなくてどうするんですか。」


テイルは宝石のような涙を流す彼女にそう答える。彼女はその言葉に口を閉ざし、ただ小さく呟く。


「…………そう……ね。」


大粒の真珠のような涙が出て彼女の瞬きと共に弾き出される。次に目を開いた時には元の彼女に戻っていた。


「焦らなくても魔王謁見時に確認すれば済むことですわ。ですが仮に我が師であったならーー私は今までに与えられた全てを返すとしましょう。」


「遺産である''魔導騎士(マジックシュヴァリエ)"の1つ黒騎士もですか?」


「ええ……整備をしておきなさい。それを貴方の罰としておきます。」


テイルは乱れた服を整え直し、頭を下げた。


「心得ました、魔王ラケス様」

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