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「とにかく。今回じゃなくて、今年度あと3回行われる合同演習。残りも多分、生徒会役員でチームを組むことになる。それをお前は不参加にしとけ」
カルロが棚にファイルをしまいながらエリアナを向く。
「今更配置換えするのもクラウディオの仕事を増やすだけだしな。今回は森に入るか入らないか辺りで大人しく草摘んどけ」
なるほど、たしかに。フィオリーナを今回不参加にするのはやめておこう。
「お前さ、フィオリーナの能力解放の切っ掛けが何か、覚えてるのか?」
カルロがエリアナのそばに立ち、怪訝な顔でエリアナを覗き込んできた。
「フィオリーナが継母に嵌められて魔物に襲われる、でしょ?」
「お前はそれを黙って見ていられるか?」
無理だな。
「⋯カルロは?」
「俺はあいつには是非とも聖女の能力に目覚めてもらわないと困るからな」
それはつまり?黙って見ているの?見ていないの?
「あたしだって、フィオリーナに聖女になって欲しいよ」
あんなに可愛くて一生懸命で素直で可愛いフィオリーナが聖女だなんて、この世の奇跡、国の至宝、人類の希望、ああ、あたしの語彙では到底言い表せない!
「だけど他に方法があるんじゃないか、あるならその方が良いんじゃないか、わざわざ危険な目に遭わせる必要なんてないんじゃないか、そう思ってるだろう?」
カルロが真面目な顔でおかしなことを言う。
何を言ってるんだ。そんなのは当たり前じゃないか。
「それは、⋯だってそうでしょう?他にもっと安全な方法があるならその方が⋯」
「ねえよ。下手すりゃ死ぬほどの危険だからこそ、聖女の能力に目覚めるんだ」
カルロがきっぱりと言う。
そうなのだろう。カルロが言うのなら、きっとそうなんだろう。
だけど、だからって⋯
「でも」
「しつこいぞ。とにかくお前は次回からチームを外れろ。良いな」
そう言うとカルロがエリアナから離れる。
ああ。これが「黙って見てられるか」と聞かれた理由か。
「じゃあ黙って見てるから、それなら良いでしょ?」
縋るようにカルロの背中に問う。
「駄目だ」
「何でよ!?」
意味が分からない。
「お前を危険に近付けたくない」
ますます意味が分からない。
「フィオリーナが危険な目に遭うのを黙って見ていられるあんたが?嘘を吐くならもっと上手に吐きなよ」
怒りたいのか泣きたいのか自分でも分からないエリアナに、カルロが向き直る。
そして冷たい表情で淡々と告げた。
「あんまり聞き分けが悪いようなら、今度の対決で勝って王命でお前を閉じ込めておいても良いんだぞ」
何それ。
「閉じ込める、って⋯」
え。聞き間違い?
フィオリーナを守るために保護するとか、そう言う意味だった?そうだよね、きっと。
「そうだな、フィオリーナの聖女の能力が目覚めるまで、王城の一室で幽閉しておいてもらおうか。元々お前は領地にこもる予定だったんだろ?だったら良いよな?」
何それ。こわい。
たしかに、あたしはカルロと関わらないために領地にこもる予定だった。
だけど、なんか違う。
領地に自らこもるのと幽閉じゃ、全然違う。
あたしでも分かる。
何より、こわい。カルロの目が。
何でそんな、⋯⋯そんな⋯?
「怒ってるの?それとも悲しんでる?」
エリアナがカルロの顔をじっと見つめる。
「怒ってる。決まってるだろ」
「そう、だよね。そう、思うんだけど。だけど、カルロの、目が⋯」
「俺の目?」
カルロが眉を顰める。
「そう、カルロの目が。怒ってるんだけど、その、辛そうにも、見える」
辛い?怯えてる?何に?⋯⋯もしかして⋯
「あたしのせい、だよね?」
カルロの反応を探るように、ゆっくりとエリアナが言葉を紡ぐ。
「思い出してしまう、とか?⋯⋯思い出して、⋯怖く、なるんじゃない⋯?」
そうだよ、どうして思い至らなかったのか。
あたしはバカだ。本当に、どうしようもない大バカだ。
黒川は前世で「殺された」んだ⋯
「それで、⋯魔物と、戦えなくなってしまったんじゃない?」
今度はエリアナが辛そうな顔をする。
「⋯は?」
カルロが意味が分からないと言った顔をする。
誤魔化そうとしているのか、自覚がないのか。
「だから、あたしと会ったことで、殺された時の記憶が鮮明に戻って、それで魔物と戦うのが怖くなったんでしょ?」
あたしと前世の話をしたことで殺された時の感覚がトラウマ級に蘇って、魔物討伐に影響が出てしまったとなれば、騎士として致命的、あたしを恨んでも恨みきれないはず。
「ごめん、本当にごめんなさふぐっ」
「んな訳ねえだろ。見とけ、クラウディオに圧勝してお前を幽閉してやるからな」
「⋯⋯⋯うん。怒ってるね?」
カルロの顔が目がどう見ても怒ってる。
悲しさも辛さもどこへやら。純度100%の怒りの目。
分かんないけど、魔物と戦うのは大丈夫ってことかな?
それなら良いけど。大丈夫?本当に?
「エリーに最近のカルロの剣術はどうなのかと聞かれたよ」
カルロに怒られたエリアナは早々に書類整理を終わらせて帰ってしまった。
その帰り際に、丁度生徒会室に戻ってきたクラウディオと出くわしたらしい。
「戦いの最中に身体が固まることや具合が悪くなることはないか、とね。いやはやカルロにトラウマがあったとは気付いてやれなくて申し訳なかった」
しんみりした顔を作ってみせるクラウディオにカルロが半目で返す。
「本当にそう思って聞いてるなら上司失格だな」
「あはは、そんなものがないと確信してるから言ってるんだよ。カルロの剣捌きを見たらエリーも安心するんじゃないかい?今度見学に連れて行こうか?惚れ直すかも知れないよ?」
面白がるクラウディオを面倒臭そうにカルロはあしらう。
「あいつに鍛錬風景なんて見せてみろ。怪我の心配をされて鬱陶しくなるだけだ、やめとけ」
「確かに。エリーは自分の事は酷く疎かなのに他人の事にはやたら気を揉む印象があるよね」
「俺からすれば、お前が言うな、って感じだけどな」
クラウディオももっと自分の事に頓着するべきだと、常日頃カルロが進言しているのだが、なかなか聞き入れてもらえない。
それどころかすぐに話題をすり替えて誤魔化そうとする始末。
「おや、ヤキモチかい?」
「そう言う意味じゃねえ。分かってんだろ?お前の仕事を無理矢理奪い取っても構わないんだぞ、俺は」
「どうしてだろうね、エリーを庇うと私まで怒られている気がするよ」
眉を下げるクラウディオにカルロが呆れたように溜め息を吐く。
「似た者同士なんだろう」
「だからカルロに愛されているのかな、光栄だね」
「やっぱり全然似てねえ。あいつは天然でお前は計算だ。この腹黒王子」
カルロが吐き捨てる様に言うのをクラウディオは楽しくて仕方ないと言った笑顔で返す。
「カルロに褒められると素直に嬉しいよ」
「言ってろ」
この後クラウディオはカルロに書類の束を取り上げられ、無理矢理帰宅の途につかされる。




