remember
***
「これが円満解決ってやつ?」
心晴が私にたずねる。
心晴は学校指定のリュックのひもを、手で持っている。
『円満解決』とは、昨日のことだろう。昨日の、私と心晴と宵乃と美香の、4人で話した時の話だ。
「うん、きっとね」
私は学校の方向を見ながら言う。私の顔が朝日に照らされた。
そんな私を横から見ていた心晴は、「なんか晴れやかだね。やっぱ円満解決!不戦勝!」と笑う。
「………不戦勝…?まあいいや、あ、今日このこと穂花にも話すね。いい…?」
デリケートな問題だから、一応聞いておこうと思った。
でもなんとなく、心晴に許可を取って『背中を押して』もらわないと、穂花に話せないような気もしてしまっている。
「穂花ちゃんね、全然いいよ!穂花ちゃんも心配してくれてたんだよね」
「うん、そう。っていうか穂花は美香とも関わりがあって……」
言いかけて、私は気づく。
こんなこと、穂花は他人にベラベラ話してほしくないよね。
さっき『デリケートな問題』と思ったばっかなのに。危ない…。
穂花、ごめんね……!
***
「あ、千奈おはよ!」
教室に入ると、穂花が先に準備をしている場面が目に入った。窓を開けていたらしい。やっぱり穂花は優等生だ。コミュニケーションは苦手なのかもしれないけど、やっぱり穂花の背中が全てを物語っている。
すると、穂花の後ろから誰かがひょいと顔をだす。
「……千奈、おはよう」
「……美香!!」
美香だった。お互い距離を置いていた2人が、再びここで交わった。良かった。
「……千奈、うちら、あのあと2人で話したんだよね」
「宵乃と美香で?解散したあと?」
私はつい質問攻めをしてしまう。そんな私を、穂花が「もう質問しすぎ!」とたしなめる。
「そ、うちと宵乃でね。で、宵乃は関わる友達を考え直すって。中には縁を切る子もいるってさ。うちも友達は考え直すよ。やっぱり関わりづらいって子もいたしさ」
美香は横目でチラチラと穂花を見ながら言った。やっぱり穂花のことが気になるらしい。
「……縁を切る、か。宵乃も前を向きだしたね。良かった……」
小6のとき、宵乃は美香以外の子ともつるんでいた。そんな子とは縁を切るのだろうか、と考えがよぎる。
そんなことを考えていたら、美香が何か言いたげにしていることに気がつかなかった。
「……あのさ、千奈が良かったら、これから学校で仲良く……」
「はぁ!?な、仲良くしたくないなんて一度も言ったことないよ!もう美香は友達、仲良くしよ!」
つい、私の琴線に触れて、美香の言葉を遮ってしまった。美香はぎょっとした表情をする。でもなぜか嬉しそうに笑う。
「………うん、ありがと、千奈。穂花も、ありがと」
美香は恥ずかしそうに視線を逸らしながら言葉を紡いだ。
一つ一つの言葉に魂を込めて、気持ちが伝わるように祈りを込めながら。
きっと、美香も。
きっと、今度は。
***
「あ、千奈!」
放課後、校門を出ると、校門のすぐ横にいる誰かに声をかけられた。聞いたことのある声だった。
誰だろう、とキョロキョロと左右を見ると、目が合った。
「宵乃!と……心晴!」
「3人で帰ろ!!」
私達はお互いの顔を見合って、笑い合った。
懐かしい記憶がたくさん戻ってくる。
リメンバー。英語の単語だったっけ。意味は「思い出す」と「覚えている」。
覚えていたい、この記憶。
この3人で、これから作る記憶のこと。
悩みなんて尽きない中学2年生なんだから、喧嘩をすることもあるかもしれない。悩むこともあるかもしれない。
でも、私達なら大丈夫。
2年間、怒りの感情を温め続けた私は、その感情さえ忘れてしまうほど今が楽しいと感じる。
やっぱり身勝手だよね、人間って。
好きなように行動できるから、やっぱり難しい。間違えてしまうこともあるし、正しい行動がいつもできるわけなんてない。
だからこそ、私達は学び、反省し、実践する。
そんな過程で、成長していたらいいなと思う。
今回は、良い方向に転がっていった。
良かった。でも、やっぱり世の中にはそうはいかないこともある。そんな壁にぶつかってしまった時に、どうするかということが大事なんだよね。
「ね、宵乃、話聞かせて!」
今までのことも、未来への希望も。
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