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永遠の誓い

幾月後……。

長く、あまりに長かった冬が終わろうとしていた。

国境を揺るがした戦鳴りは止み、焦土となった大地には、エドワードとカイルが共に撒いた種が、健気な芽を吹き始めている。


王都での夜会を経て、エドワードの武勲と統治の才は、もはや誰にも否定できないものとなっていた。王族を戦場で失い、旧態依然とした権力者たちも、民衆の圧倒的な支持と、カイルを筆頭とする「戦場を知る貴族たち」の連帯を前に、沈黙せざるを得なかったのだ。


そして今日。かつて二人が出会ったあの学び舎の、今は再建された美しい図書館で、ささやかな、けれど歴史に刻まれる儀式が行われようとしていた。


「……ソフィア。少し、目をつぶっていて」

懐かしい、けれど今は自信に満ちたエドワードの声。

ソフィアが静かに瞼を閉じると、ひんやりとした金属の感触が、ゆっくりと頭上に降りてきた。


「もう、いいよ」

目を開けたソフィアが鏡の中に見たのは、かつての質素なリボンではなく、繊細な銀細工で編まれた、白百合の王冠だった。それはエドワードが自らデザインし、かつて彼女が託した「銀の髪飾り」を、その中心に組み込んだものだ。


「似合っている。……あの日の図書館で君を見つけた時から、僕の目には、君がこうなる未来が見えていたのかもしれない」

「エドワード様……いえ、エドワード陛下」

ソフィアが微笑みながら、慣れない呼び名で彼を呼ぶと、エドワードは少しだけ困ったように眉を下げ、かつての少年の面影で笑った。


「その呼び方は、御前会議だけにしてくれ。……私はただの、君の騎士でいたいんだ」

窓の外には、中庭で兵たちの訓練を指揮するカイルの姿が見える。彼は時折、空を仰いでは、今は亡きカシウスに報告するように短く頷いていた。彼はエドワードの右腕として、この新しい国の「盾」となる道を選んだのだ。


エドワードはソフィアの手を取り、バルコニーへと歩み出た。

そこには、自分たちの新しい王と王妃を一目見ようと集まった、数えきれないほどの民衆の姿があった。


「ソフィア。僕が作りたかったのは、宝石で飾られた玉座じゃない。君が、そしてカイルやカシウス、大勢の騎士や兵士達が守りたかった人々が、明日を恐れずに眠れる場所だ」


エドワードはソフィアの腰を抱き寄せ、広大な領土を見渡した。

かつて温室で「世界中の花を集めてみせる」と誓った少年は、今、一国という名の広大な庭を、最愛の女性に捧げたのである。


「私、幸せですわ。……図書館のひだまりよりも、今のこの光の方が、ずっと温かくて」

ソフィアの瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちる。それは悲しみではなく、凍てついた季節がようやく溶け出した、喜びの雫。


名もなき下級貴族の少年と、慎ましき令嬢。

二人の物語は、ここで「伝説」という名の歴史へ変わる。

けれど、後世の歴史家がどれほど彼の覇道を称えようとも、彼にとっての真実はただ一つ。

すべては、あの日、隣に座った彼女の微笑みを守るためだった。と。




…………。





…………。





…………。




……ふっと、意識が浮上する。


頬に触れるのは、戦場の冷たい風でも、王都の硬い石畳でもない。最上級の絹のシーツと、隣から伝わってくる、穏やかで柔らかな体温。


エドワードはゆっくりと目を開けた。

窓の外はまだ日が僅かに残り、黄金色の光が輝いていた。水平線の向こう側には、新しい朝を迎える試、沈みゆく輝かしい太陽があった。淡い夕焼けの光が、室内へと差し込み始めた。


「……夢、か」

「どうなさったの、エドワード?」

隣で眠っていたソフィアが、衣擦れの音と共に身を起こした。解かれた髪が月の名残を映して銀色に輝き、彼女の瞳は今も変わらぬ慈愛を湛えて彼を見つめている。


「昔の夢を見ていたようだ。学園の図書館や……君に王国を捧げると誓った、あの温室の夢を」

「まあ。ふふ、懐かしいですわね。あの頃の貴方は、今よりもずっと青くて、危うくて……。でも、誰よりも真っ直ぐな瞳をしていましたわ」


ソフィアが愛おしそうに、エドワードの目尻に刻まれた年月の跡をなぞる。エドワードはその手を捕まえ、掌に深く口づけを落とした。

「今も変わらないよ。……この場所も、この平和も。すべては君の微笑みのためにあるのだから」

そんな静かな語らいを遮るように、寝室の厚い扉が控えめにノックされた。


「入れ」

エドワードが短く応じると、親衛隊の兵士が入室し、深々と頭を下げた。

「国王陛下、王妃様。夜分に失礼いたします。オリンピアより、エルゼ様とアルフォンス様が、今しがた戻られたとの報告が入りました」

その名を聞いた瞬間、ソフィアの顔がパッと華やいだ。


「まあ、あの二人が!……ねえエドワード、優勝したのかしら?」

「あの二人なら、やってくれたやもしれん。……いや、あのアグレッシブな二人のことだ。おそらく会場の記録を塗り替えるくらいのことはしてのけたはずだ」

「ンフフ♪ そうですわね。あの子たちの報告を聞くのが、今から楽しみですわ」


エドワードはフッと口角を上げると、兵士に向かって静かに命じた。

「今日はもう日が暮れる。彼らも長旅で疲れているだろう。公式の報告は明日、落ち着いてから聞くことにする。下がって良い」

「はっ。承知いたしました」

兵士が去り、再び寝室に二人きりの静寂が戻る。


エドワードは再びベッドに身を沈め、隣に寄り添うソフィアをその腕の中に引き寄せた。

「……エドワード?」

「明日になれば、また騒がしい日常が始まる。あの子たちの武勇伝を聞かされ、貴族らと政務を論じる日々だ。……だから、それまでは。もう少しだけ、君とこうしていたい」

「ええ……。喜んで、私の王様」

ソフィアが彼の胸に顔を埋めると、外では沈みゆく陽光が、王国の屋根を黄金色に染めていた。

かつて夢見たひだまりよりも、ずっと広く、ずっと輝かしい光だった。


〜 END 〜

紡いだ言葉の終着点。最後までお付き合いいただき、心から感謝を。

『ただ互いに憎み合っていただけなのに、周囲が勝手に溺愛だと勘違いし、愛の権化のように崇拝されました』のスピンオフとして、とても納得のいく形に収まりました。本編はコメディですが、同時に楽しんでもらうと、世界観がグッと広がると思います。

ではまた別の物語で、是非お会いしましょう!

















政務の疲れで再び寝てしまったエドワード。ソフィアがそっと、エドワードの頬に優しく手を触れる。

「ねえ、エドワード。……あの日、図書館で私を『見つけて』くれて、本当にありがとう」貴方がいなければ、私はただの枯れゆく花だったわ。でも今は、貴方が守ってくれたこの広い国そのものが、私の自慢の庭。

「おやすみなさい、私の愛しい王様♡」

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