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裏切りと絆の夜会

カイルは、赤ワインの入ったグラスを、まるで毒薬でも見るかのような目で見つめている。

彼らは今、この夜会において「孤立した存在」だった。

王都に居座り、安全な場所で戦況を眺めていた貴族たちにとって、実際に戦場を塗り替えてきたエドワードと、無様に生き残ったカイルは、どちらも不気味で目障りな存在でしかなかった。


「見てください。あのエドワードとかいう成り上がり、カイル伯爵を脅して味方につけたらしいわよ」

「野蛮な者同士、お似合いですこと」

心ない囁きが、風のように会場を流れる。

ソフィアは、エドワードの腕にそっと手を添え、同時にカイルにも穏やかな視線を向けた。


「カイル様。貴方が戦地でエドワード様の背を守ってくださったこと、私は忘れておりませんわ。……貴方の流した涙も、失った部下への祈りも、この国の誰が知らなくとも、私たちが知っています」

ソフィアの静かな、けれど確かな肯定に、カイルは一瞬、呆然と目を見開いた。

そして、自嘲気味に笑い、グラスを置いた。


「……参ったな。君の隣にいるのが、こんな聖女じゃあ、僕は一生君に勝てそうにない」

その時、一団の貴族たちが二人を包囲するように近づいてきた。

エドワードを「簒奪者」として糾弾せんとする、保守派の重鎮たちだ。


「エドワード殿。君が辺境で勝手に敷いている『法』 あれは王命に背く越権行為だ。釈明を聞かせてもらおうか」

冷ややかな空気が場を支配した瞬間、カイルが一歩前へ出た。

かつての嫌味な口調ではない。それは、地獄を見てきた男の、重みのある言葉だった。


「越権行為? ……笑わせないでいただきたい。王命を待っていたら、今頃この会場の半分は盗賊に焼かれていたはずだ。僕がこの目で見てきた『現実』を、あなた方の退屈な法に当てはめようとしないでほしい」


エドワードとカイル。かつての宿敵が、今は一丸となり、国を、領民を、そして領主であるソフィアを守る盾として、腐敗した社交界に立ちはだかった。


ソフィアは、その二人の背中を見つめながら確信した。

学園でのあの日々は、もう、決して戻らない。けれど、失ったものの代わりに、私たちは誰にも壊せない『絆』を手に入れたのだと。


夜会の喧騒を背に、エドワードはソフィアの手を優しく、そして強く握り返した。

それは、これから始まる新しい国造りにおいて、カイルという唯一無二の理解者を得た、覇王の最初の勝利でもあった。

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