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竜が歌うは恋の歌  閨に響くは俺の声  作者: 後ろ向きミーさん
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竜が歌うは恋の歌

次の日、自分に与えられた簡素な部屋で目が覚めた。


「・・夢・・?」


なんて幸せな夢だろう、途轍もない美女と夜を過ごすなんて・・。


自嘲気味に乾いた笑みを浮かべ、だるい体を起こすと、小指の先に金の髪が結ばれているのが目に飛び込んできた。


夢ではないのか・・俺はあの美しい人と・・。


体はさっぱりして、着衣に乱れも無い。

事後の世話をヒスイ殿がやってくれたのだろうか?


まさか彼女に抱きかかえられ、この部屋へ、戻ってきたのか?

何て事だ・・・穴があったら入りたいとはこの事か・・。


・・竜に選ばれなかった俺が、里を訪れる事は無い。

もう二度と会う事は出来ないだろう・・せめて最後に別れを告げたかったな。


金の髪をそっと包み、胸元に忍ばせた。



広場にて帰路の為の準備を整えているロアンの元へ、子息達が自分達の支度も疎かにニヤニヤしながらやって来る。


娶った竜の準備も、まだだろうに・・。

ロアンは深いため息をついた。


「昨晩は何処に雲隠れしていた?」


「娶れなかった者が宴席に出れるはずもないだろう。雲隠れも当然だな。」


相変わらずの嘲りに、真向反論したい所だが、まさか傾国の美女と野外で一晩中睦合っていたなど、口が裂けても言える筈がない。

昨晩の淫靡な肢体のさまが、ちらと頭を過っただけで、腹の下に熱が籠りそうになるのを必死で堪える。


「なっ!なんだ!その惚けた顔は!」


苦痛に歪む顔を期待していたのに、ロアンに浮かぶのは、明らかに閨事の後を滲ませた艶めいた顔。

日頃ない色気のあるロアンの表情に、子息達は動揺し、顔を赤らめた。



出立の時刻が近づき、里の者が見送りの為に集まっていたが、広場に居並ぶ竜達より一際大きく黄金色に輝く竜が上空から飛来し、騒然となった。


「おお!黄金色!あれは滅多に人前に現れない当代の龍王ですよ。」


その竜が、ロアンの前にふわりと舞い降りたのだ。


他の竜達は、黄金竜に恭順を示す様に、一斉に伏せ首を垂れる。


美しい翠色の瞳と目が合ったと思うと、その鼻先が、ロアンの目と鼻の先に近づいてくる。


「キュイーイイィ。キュイーイイィ。」


竜がロアンに向かって歌う。

これは竜の求愛の歌だ。


「えっ!俺をを選んでくれるの?俺竜騎士になれるの?」


そっと竜の鼻先に手を伸ばすロアン。

黄金の竜が嬉しそうに眼を細め、クルルと甘える声で鳴いた。


龍王を娶れるなんて、夢みたいだ!


「馬鹿な!ロアンの竜が王だと!」


「何か仕組んだのではないか?」


遠巻きに罵声を浴びせる子息達。


途端、側にいた己が娶った竜より容赦なく尾が振り落とさ、地面に叩きつけられた。

竜達は威嚇の声さえ上げ、荒ぶる様子で子息達を踏みつぶし、悲鳴があがる。


『我が夫に対する無礼は許さぬ!』


聞き覚えのある声だった。

黄金竜の姿が光と共に揺らぐと、そこに立っていたのは、ロアンを軽々と抱きかかえ、激昂しても美しさを損なわないヒスイだった。


「貴様達は身の程を弁える事を、理解できぬ様だな!己が娶った竜に、躾直して貰うが良い!」


「ヒスイ殿が・・龍王?」


「ロアン・・愛しい方。貴方は紛れもない『竜の愛し子』この龍王たる私の番なのですよ。」



竜達は『娶る』時、その人物の纏う色を見ている。

好ましい色を纏うもの選ぶのだ。


見合いを待つ竜達の前に現れたのは、小さな人族の騎士の中にあって、さらに一層小さな騎士。


竜達の目には、その騎士が金の光を纏い輝いているのが見て取れた。


金の光!

間違いない!この方は当代姫王様の愛し子様だ!


「待て!待て!いくら惹かれるとは言え、王の愛し子様を、我らが娶る事など出来る筈がないだろう!」


「姫様はいずこか?」


「おっ俺!姫王様に探してくる!」


「今日は火山の方では?姫様ぁ~!」


と恐慌をきたしたのが、娶りの儀の真相だった。



「さ・・ロアン様参りましょう。」


娶った竜と共に今から国へ帰路に就くはずなのに、ロアンを姫抱きに抱え直し胸に抱いたヒスイの足は里の方へ向けられていた。


「はえっ?何処へ?」


「勿論(ねや)ですよ。蜜月ですもの。」


頬を桜色に染め、零れんばかりの笑みを浮かべたヒスイが、事も無げに衝撃の一言を告げる。


「ま!まって!まって!閨って!」


「旦那様、可愛がって下さいましね。」


それから二人の蜜月は、ゆうに3か月以上続いたという。


時折、零れ聞こえるロアンの啼き声を耳にする里の竜達は 『姫様がお幸せそうで何よりだ』 と満足げに頷きあった。



こうして美しい龍王を娶ったロアンは、後に竜騎士の団長にまで上り詰めた。


その生涯で成し遂げた数々の偉業と、砂糖を塗した様に甘々で、周囲が呆れるほどの仲睦まじさは、末永く後世へと語り伝えられたと言う。


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