第3話 名前で呼んで?
2話を少し改稿しました。
2022年12月1日19時半 以前に読んだ方は読みなおししていただけるとより楽しめます。
お手数おかけして申し訳ございません。。。
目の前にいるこの若い公爵に自分は食べられるのだと、そう人生の終わりを覚悟したフィーネだったが、返ってきたのは甘い言葉とそして優しいぬくもり。
思わず自分の頬に添えられた温かい手に両手を重ねてしまう。
「──っ!」
フィーネはそのまま涙が止まらなくなり、その雫が二人の手を濡らす。
「なんででしょう……どうしてか涙が止まりません」
「フィーネ……」
感情極まった彼女を、今度はオスヴァルトが力強く抱きしめる。
「私は君を虐げたりしない」
「……」
「君のことを大事にするから」
「エルツェ……公爵……」
そのフィーネの絞り出したようなか弱い言葉に、オスヴァルトはある願いで返した。
「これからは毎日名前で呼んで?」
「え……?」
「オスヴァルト」
そう耳元で囁かれたフィーネはさっきよりももっと体が熱くなる。
少しの間二人は無言で馬車の揺れに身を任せていたが、か細い声で彼女が呟いた。
「オ、オスヴァルト様……」
「──っ!」
思いのほか彼女の名前呼びは強力な武器になったようで、オスヴァルトは彼女を抱きしめながらびくりと身体をはねさせる。
そして顔を少し赤らめて目を泳がせたが、彼女にはその様子は見えていない──
やがて、少し落ち着いたのを見計らって彼女を解放すると、変わらず優しい表情で彼女を見つめる。
「君は今日から私の妻になるんだよ。それでもいい?」
「はい……」
「本当に?」
「……はい。よろしくお願いします」
フィーネは馬車の揺れで身体がこけそうになりながらも、目の前に座るオスヴァルトに深く礼をする。
狭い馬車の中でお辞儀する彼女の頭は、オスヴァルトの膝につくのではないかというところまで深く下げられていて彼は慌てて彼女の肩を抱き起こす。
「そんな私に礼を尽くさなくても大丈夫。気軽に接してほしい」
「ですが……」
その様子にオスヴァルトは頭をかき、唇を少し噛みながら悔しそうな表情を浮かべる。
「まだ気づかない?」
「え……?」
フィーネはその言葉を聞いてはっとした。
(もしかして、知らない間にご不快な思いをさせていたのでは……!? もしかして涙を流したから? 目の前で女がめそめそなんてしてたら困りますよね?! いえ、もしかしてさっきの礼がうまくできてなかったから、怒ってらっしゃる?! どうしましょう……)
なんとも目をぱちくりさせながら顔を上下左右に細かに動かして、慌てた様子を見せるフィーネにオスヴァルトはフッと笑って口元に手を添えた。
「相変わらず変わらないね、フィーネは」
「え……?」
そう言ってオスヴァルトはそっと髪の毛をかきあげると、そこに太陽の光が入り込み彼を輝かせた。
「君にはオスヴァルトより『オズ』といったほうがわかるかな」
「…………」
少しフィーネは考えこむが、突然彼女の中に電流が走ったように目の前にいる彼と「彼」が合致した。
「──っ!!!!」
フィーネは記憶の中にいたある少年のことを思い出した──
ここまで読んでくださりありがとうございます!
【一言コーナー】
吸血鬼好きなんですよ。
ええ、とっても。禁断な感じがそそられる・・・。
このお話は私の「好き」がふんだんに盛り込まれております。
皆さんに引かれなければいいなと思いながら書いてます(笑)
主人公の名前はぱっと浮かびました。
オスヴァルトはオズワルドをドイツ語読みしたお名前。