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八話~誘拐事件~

 カズモリがこの世界に来てから一ヶ月が経った。


 初日でAランクの依頼をこなしてみせたカズモリは、Fランクからの飛び級でBランクにまで上り詰めた期待の新人としてギルド内では有名になりつつあった。


 毎日のように依頼を受けては成功させ、余った時間はリバイブの探索に費やした。

 町の外で魔物を討伐したり、窃盗事件の犯人を捕まえたり、引っ越しの手伝いまでさせられ、冒険者というより何でも屋になっているのではないかという疑念がカズモリには湧いてきていた。


 「ああもう! いい加減しつこいってば!」

 「おいハルカ! そこ右に曲がれ! その先は迷路みたいになってるからそこで奴らを撒くぞ!」


 が、現在のカズモリはそんな事を考えていられる状況ではなかった。


 「おい、応援はまだか! クソ、なんて逃げ足だアイツ等!」

 「あのガキだけは取り戻せ! 大事な商品だ、傷物になっちまったらボスに殺されるぞ!」


 路地裏を走り抜けるカズモリとハルカの背後からは、どう見ても悪事に手を染めてますよ的なオーラを漂わせている悪人面の男達が迫ってきていた。


 「ほら聞いたかハルカ!? 俺には後ろで物騒な会話が聞こえたような気がするんだが!?」

 「私にも聞こえたよ! カズこそあの人達を撒ける魔法とかないの!?」

 「え~と待ってくれ。今確認するからああぁあ危ないっ! ついに魔法まで使ってきたぞ!」


 カズモリは隣で並走するハルカを横目で見やり、連中の目的である自身が抱えている少女(・・・・・・・)に魔法が被弾していないことを確認した後に、どうしてこんなことになっちまったかなあ、とつい数時間前の出来事を思い返していた。












 「誘拐事件?」

 「うん、ここ最近スラム街付近で増えてるみたいなんだよね」


 朝方ギルドに顔を出したカズモリは、今日も今日とて厄介事の気配をハルカから感じ取っていた。


 あの依頼から一ヶ月、カズモリは毎日のようにギルドに来ては『厄介事=依頼』を受けるハルカに巻き込まれ、二人で人助けに尽力していた。


 初日の時点で理解していたつもりだったがやはり彼女はとんでもないお人好しのようで、重そうな荷物を抱えている老人や泣いている子供、とにかく困っている人を見かけるとお礼などの勘定は無しで手を差し伸べる人柄なのだ。

 またカズモリ自身としても、初日にハルカに手を差し伸べた経験があるおかげで余計に放っておけず、依頼者から礼を言われて悪い気はしなかったこともあり、今更自分が何を言ってもハルカのお人好しを変えるのは不可能だと感じていた。


 結果的にこの一ヶ月で二人が手を差し伸べた人数は百人を超えている。


 そうした人助けの合間に、カズモリはこの世界について『検索魔法』で独自に調べを進めていた。

 カズモリが真っ先に確認したのは、魔法というものがこの世界ではどういった存在なのかだった。

 その結果判明したのは、魔法とは万能の代物といっても全く過言ではないという事だった。


 魔法というものは基本的に、使用者自身の魔力を行使する魔法の性質に変換することで発動できるようになる。

 『火』の魔法なら魔力を『火』の性質に、『風』ならば『風』の性質に変換するといった具合だ。


 この性質の変換は、使用したい魔法の種類によって、そして本人にその魔法適正があるかどうかで難易度が大きく変わる。

 魔法適正の有無で変換できる魔力量が大きく変わるのだ。


 10の魔力量で発動できる魔法があったとして、適性がある人物ならば多くても3~5の魔力があれば発動に必要な魔力を作り出せる。

 対して全く適性が無ければ、必要魔力量が数倍から数十倍に跳ね上がる。

 簡単な魔法ならば差はそれほどでもないが、概念系や時空間系の魔法にもなれば選ばれた適性の人物しか発動できなくなってくる。


 一方、カズモリの『代償魔法』は根本的に性質が異なっている。

 この魔法は一言で表すならば『使用者の肉体を全ての性質の魔力に変換することが可能な魔法』だ。

 時空間系だろうと概念系であろうと、属性魔法の最上位であってもその性質へ変換が可能な魔法なのだ。


 この変換効率はカズモリ自身の魔力量が大きくなればなるほど上昇していく。

 試してみたところ、現在のカズモリならば両腕を捧げれば周囲と完全に断絶された空間を四方40メートルほどの範囲で展開する魔法を行使することが出来た。


 ちなみにこの魔法の行使に詠唱はしていない。

 というのも、実は魔法の行使に詠唱はそもそも必要なかったという事実が判明したからだ。


 調べたところ、魔法それぞれに名前があるのはその魔法を発見した人物が名付けたかららしい。

 本来魔法というものは『こんな事が出来ればいい』という使用者の思いを具現化する力であり、その現象を誰にでも起こせるように形式化したものが魔法の詠唱というものなのだ。

 魔法によって詠唱が横文字だったり詩的だったりするのは、名付け親の趣味だという事を理解したカズモリは開いた口が塞がらなかった。


 (まあでも、確かに分かりやすいよなあ……未だに詠唱には抵抗があるけども)


 自分の調査の結果を振り返りながらカズモリはハルカの話に耳を傾ける。


 今までの経験からカズモリは直感する。今この瞬間、最も大規模な厄介事が自らに降りかかろうとしているのだということを。


 「しかし穏やかじゃあないな、誘拐なんて」

 「うん、しかもスラム方面で起きた事件だから町の警備隊も腰が重いらしくて、全然取り合ってくれないみたい」


 聞くと、スラム街で起きている誘拐事件の被害者は既に二十人を超えており、その全てが子供らしい。

 集団家出ではなく誘拐と判明しているのも、物陰から無理やり連れていかれる子供を目撃している人が結構な人数いたからであった。


 (よくもまあこう厄介事に出くわすなぁハルカも……)

 「――ねえカズ、聞いてる?」

 「ああ聞いてるよ、どうせ助けに行こうって言うんだろう? 当てはあるのか?」


 カズモリがそう聞くと、「もちろんあるよ」と胸を張ってハルカは答えた。


 「ねえカズ、『追跡魔法』って使えるよね?」

 「『追跡魔法』? ええっと……ああ、使えるよ。でもこれって追跡する対象を強く思い浮かべるか、対象の持ち物がないと探せないんだろ?」

 「大丈夫。ちゃんと誘拐された子の私物はここに持っています」


 そう言ってハルカが取り出したのは可愛らしい水玉模様のハンカチだった。


 「これ、どうしたんだ?」

 「誘拐された子について聞き込みしてたらその内の一人と仲の良かった子供に話を聞くことが出来たの。その子は『遊び場にしてる路地裏に落ちてた』って言ってた。名前も書いてあるから間違いないらしいよ」


 カズモリがよく見てみると確かに隅の方に『エルナ』と丸い字で書いてある。


 「ああ、これなら大丈夫だと思う。今から探し始めるのか?」

 「カズが問題ないならそうしたいと思っていたけど」

 「こっちは依頼も受けてないし大丈夫だよ。じゃあ行くか」


 ギルドを出た二人は念の為に人気のない通りまで移動する。その後カズモリは『追跡魔法:トラッキング』を発動する。


 この魔法は込める魔力量に応じて対象までの距離や方角を使用者の五感に伝える魔法だ。

 現在カズモリの視界の先にはゲームのヒントを連想させる矢印が見えており、そのすぐ横には『1.6km』と対象までの距離が表示されている。


 ちなみに『トラッキング』は追跡魔法の中でも上級の魔法であり、その下位互換として足跡や匂いを頼りに追跡する魔法も存在している。


 「さて、面倒な事になる前にちゃっちゃと終わらせようか」

 「うん」


 二人はどうか子供達が無事でありますようにと祈りながら矢印に従って行動を始めた。

 





 「……ハルカ、まだ着いて来るぞ」

 「うん、やっぱり関係者だね」


 目標地点まで残り0.5km程の距離になったところでカズモリはハルカを呼ぶ。

 ハルカもそれで察したようで、二人は路地を曲がった直後にその姿を消した。


 その直後にフードで顔を隠した3人の男が同じ路地に入ってきた。


 「おい、二人はどこに行った?」

 「確かにここに入って行ったんだが……」

 「……っが!?」


 同じ道に入った筈の二人がいないことに困惑する3人だったが、最後尾の男性が突如として苦悶の声を上げてその場に倒れる。


 「!? おい、なんだ!」

 「まずい、誘い込まれた!」


 自分達が罠にかかったことを理解した一人がその場を離れようとするが、何かに躓いたように転ぶ。


 「ぐっ!」

 「まあまあ。この期に及んで逃げるのはナシでお願いしますよ、誘拐犯さん」

 「カズ、あんまり乱暴しちゃ駄目だからね」

 「了解してるよ。記憶を見るだけだから大丈夫だって」


 残った一人が唖然としていると、何もない空間から突然声が聞こえた。

 同時に、確かに誰もいなかった場所から、先程この路地に入って行ったカズモリとハルカがいつの間にか姿を現していた。


 カズモリは転ばせた男の上に跨り、その頭を右手で掴んでいる。

 ハルカは残った一人を背後から昏倒させ、怪我をさせないように地面に寝かせていた。


 「さてさて、何を知っていますやら」

 「対価は大丈夫なの?」

 「ああ、これくらいなら貧血にもならないよ」


 カズモリは自身が跨っている男が騒がないように『異常魔法:パラライズ』で体を麻痺させ、対象の覚えている出来事を自身の脳に焼き付ける『記憶魔法:メモリーコール』を使用した。


 「え~誘拐、誘拐っと…………あった」


 今回の誘拐事件に関係する記憶を中心に確認していたカズモリは決定的な場面を焼き付けることに成功した。


 いかにも性格の悪そうな面構えの中年男性が偉そうに喋っている。


 『次のガキが特定できたそうだ』

 『今度はどんな魔法適正なんで?』

 『今回は珍しい、重力魔法の適性があるらしい』

 『ハハッ そいつは高くつきそうですねぇ』

 『いつものことだが、気取られないようにしろよ。出荷日は3日後だ。それまでこの場所を隠し通せればいい』

 『ですが住民の中に追跡魔法の適性持ちがいたらどうしますか?』

 『心配はない。スラムの浮浪者共には適性がないことは調査済みだ。連中がギルドに依頼料を払うほど懐が温かいとは思えんしな。それに町の警備隊もスラムには近づくまい。もし仮に勘付くような愚か者がいれば、消してしまえばいいだけだ』

 『全くその通りですな』



 「これが……2日前か。猶予はあと1日、危なかったなあ」


 場面が変わり、先程カズモリとハルカが誘拐事件について話し合っている場面が映し出される。


 「まあギルドから着いて来てたのは分かっていたけど、冒険者が誘拐ねぇ」


 誘拐犯の目的が希少な魔法適正を持つ子供だという事が判明したところでカズモリは魔法を解いた。

 そのまま男を気絶させ、ハルカに自分が見た記憶の内容を説明しながら3人揃って路地の隅に縛り上げて放置する。


 「まあ、数時間は起きないだろうから大丈夫だろう」

 「行こう。早く助けてこんな酷い事は終わらせないと」

 「ああ、目的地までもう少しだ」


 二人は警戒を強めながら、子供達が囚われているであろう場所に向けて歩き出した。

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