ハンマーハウス
トントン、トン。
ただ廊下を歩く音だけが耳の中へと響き渡って行く。
そして追手は……猫屋敷蓮一郎はと言うと、誰も居ない事を確認すると共に「はぁ……」と溜め息を吐いた後、僕達に気付いていないのか、そうでないのか分からないが、
「ふむ、隠れたか、それか逃げたか。どちらにしても私、ねこやしきれんいちろうとは戦いたくないんだと……そう言う事ですか。ひがのけん、かがみあき、しらやまかえで、そしてさいじょうひめか。4人を見つけ出すような、探索の魔法を持っていない事が残念で仕方がありません。今回は諦めます。
しかしいちじくじゅういち先輩のためにも、あなた達は倒させていただきます。別に殺すような事は致しませんが、それでも倒したと言う《結果》だけはいただきます。それでは、居るかどうか分かりませぬが、失礼いたします」
猫屋敷さんはそう言って、帰って行ってしまった。
……本当に気付いているのか、いや気付いていないと思いたいものである。
とにかく僕達はここにいつまでも居るとそのうち本当に猫屋敷さんに見つかると思って、とりあえずどこかに集まる事を考える。
「そうね……。どこかに移動した方が良いかもですね。では、どこにしましょうか? 一番良いのは、この4人の中の誰かの家を使うと言うのが一番良いと思うんですが」
と、生徒会長の西城姫花さんがそう話しかけて来る。
……とまぁ、そんな事をこの生徒会長が言っているが、誰も手を挙げない。
(まぁ、僕は人を家にあげたくない)
僕は読書家だ、それも筋金入りのタイプの。
部屋の中は読みかけ、もしくは既に読んだ本ばかりで足の踏み場がほとんどなく、少なくとも4人も招けるほど広くはない。
「うち、も、広く、ない」
「知ってる」
まぁ、この異能特区で大きな家を持っているなんてのは最初から少ない。
そもそもここは元々ある街を異能者用に作り変えて異能者と一般人が接触出来にくくするために作られた一種の隔離地域であり、初めからこの隔離地域はさして大きくはなく、大きな建物はあまりない。
と言うか、そう言った作業を行う人達自体が少なく、超能力者でなおかつ何かの作業に従事している人間なんて少ないのである。
それも異能特区はここだけではなく、他にもこの徳島県彼方市の異能特区や北海道の戦場市を含む異能特区の8都市があるので、全部の地域に技術者を行き渡せるのは不可能である。
(まっ……最近だととある天才が作ったとされる人型ロボットのおかげで、その技術者不足問題に関してはなんとなくなっているみたいだけれども)
その話題の人型ロボット、感覚共有アンドロイド《タッチ》は遠隔操作によって動作を伝える事が出来るのだけれども、その伝わり方がまるでその場に居るかのように操作出来るんだそうだ。
アンドロイド、《タッチ》の登場によって一般人であろうともロボット越しではあるけれども、人型としてより良い操縦が可能となった訳であり、それを使って色々な作業も出来るようになった。
勿論、そのアンドロイド、《タッチ》は一般人が立ち寄れない異能特区だけではなく、危ない場所での仕事や人力だけではきつい仕事、精密さが要求される仕事などにも重宝されて、かなりのお金が入っているらしいとか。
ともあれ、そんな高精度なアンドロイドをもってしても、日本の深刻な土地不足はどうにか出来ないし、今さら異能者が困っていると言う理由だけで住む場所をすぐに広げられる訳でもない。
だから僕達は予め国や企業が建ててくれた家を借りている訳であり、そう言った家は大体一律で、大きくないのである。
流石に本とかを片付けたりしたらちゃんと全員入れるのだが、そうやって本を片付けている時間とか面倒だし。
「私の家もあんまり大きくないので……出来れば……」
西城生徒会長はそう言いながら、ゆっくりと加賀見さんを見ていた。
「……うっ! わ、私の家に案内するなんて……」
そう言いながら何故かこっちを見る加賀見さん。
「……家にあげる事が出来る? けれども//////」
加賀見さんや、顔を赤らめながらこっちを見ないでください。
「わ、分かりました! 私の家で良ければ、来ればいいじゃないですか馬鹿野郎!」
……もう自棄になってませんか、加賀見さん?
☆
そんなやけくそ気味の事を言っていた加賀見さんに連れて行かれた僕達。
そんな僕達が案内された加賀見さんの家は
「……デカッ」
「おおき、い」
「私の家の何倍かな?」
連れて来られた3人がすぐさまそう言うほどの、大豪邸だった。
白い気品さを感じさせるたたずまいを持った、他の家よりも明らかに大きい、それどころか他を圧巻させるくらいの大きさを持った豪邸がデンと僕達の前に立っていた。
風格のある大きな屋敷の前にある黒い門はそれだけの凄さを感じるし、何より加賀見さんが鳴らしたインターホンからもその気品さが伝わって来た。
「……私よ。そう、早く開けてくれる、フユ?」
『はい、かしこまりました。アキお嬢様』
インターホンの向こうからそんな声が聞こえて来ると共に、ゆっくりと加賀見家の門が動き出して開き始めていた。
「ふむ……。遠距離用のあの武器の訓練が出来そうだな」
生徒会長さん?
人の家に来て、訓練が出来る出来ないの確認は止めて欲しいです。
そんな事を心で突っ込んでいると、横に居た楓が僕の服の裾をグイグイと引っ張って、小声で話しかけてくる。
「(お嬢様、だって? 似合わ、ない)」
「(言い過ぎだと思うが……)」
まぁ、確かに聞いた時にはあまり相応しくない呼び方だと一瞬思ってしまったのだけれども。
「(……それにしても、アキお嬢様、か)」
当たり前だが、僕は加賀見アキと言う人物の事をまだほとんど知らない。
まだ会って間もないと言うのも事実だが、どう言う家族構成なのかも教えて貰えてないし、まぁ、聞く事でもないとおもうけれども。
「……フンッ」
でも、なんでだろう。
彼女が、加賀見さんが自分の家に帰って来たと言うのに、どうしてそんなに不機嫌そうな顔をしているのだろうか?
その理由が分かったのは、家の中から扉を開けて1人の少女が現れてから分かった。
「お姉たん!」
と、1人の少女が扉を開けて現れた。
金髪ポニーテールの、加賀見さんを少しお姉さんらしくしたような、所謂大人びた美少女と言う雰囲気が良く出たカーディガンを羽織った赤いブラウスを着た少女は、加賀見さんの方をキラキラとした瞳で見つめていた。
その少女が家から出てから、不機嫌だった加賀見さんの顔がさらに一層不機嫌な顔へと変わる。
「お、ねぇ、たーん!」
いきなり走り出したかと思うと、その少女は地面を蹴って高く飛びあがり、そのまま戸惑っている加賀見さんへとダイブする。
「お姉たん! お姉たん! ナツは本当に会いたかったよー、お姉たん! 一時間一分一秒、お姉たんの事だけしか考えてなくて、授業に全然集中出来なかったよ! って、お姉たん、怪我してる! フユ、フユー!」
「私ならここですよ、ナツお嬢様」
と、いつの間にか。
まるで最初からそこに居たかのように、1人の少女が出て来る。
その少女は冷たい、どこか退屈そうな無表情な瞳をした金色のロングヘアが可愛らしい全身真っ黒な服をベストを着たクールな少女。
どことなく加賀見さんと、そして扉を開けて出て来た少女の2人に似ていた。
「アキお嬢様、お帰りなさいませ。怪我をなされているようですので、先にお部屋の方まで運ばせていただきますね」
そう言うと黒いベストを着た彼女は、いきなりガシッと加賀見さんの身体を掴むと、そのまままるで荷物を背負うかのように加賀美さんを担ぎ上げる。
驚いたのは、荷物のように担がれた加賀見さん。
「ちょ、ちょっとフユ! いい加減、そんな運び方は―――――― !」
「私はアキお嬢様にやっていただかれたこのやり方が気に入っておりますゆえ、これ以外の方法は却下させていただきます。では、ナツお嬢様、お先に」
「うん、分かったよ、フユ! じゃあ、お姉たん、ちゃんとフユの応急処置を受けてね!」
と、いつまでも不服だと言う鏡さんをフユと呼ばれた彼女が家の中へと連れて行かれると、赤いブラウスを着たナツと呼ばれていた彼女はこちらにニコリと笑い掛ける。
「いらっしゃいませ、お姉たんのお客様。私、お姉たんの妹の加賀見ナツと申します。気軽にナツとでも呼んで下さい。お姉たん共々、仲良くしてね♪」
そうやってニコリと笑い掛けるナツさんに、僕と楓は「どうも」と言いながら握手をする。
そんな僕達の様子を、いや正確に言うとナツさんを見ている西城生徒会長が居た。
次回は新年開けてから続けさせていただきます。
次回、「カガミコンプレックス」




