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V.R.  作者: 橋伸弘
第3章
31/31

31.一時の休息

 ラグナロクの迷宮入口が人だかりで喧騒としていた。

 師団の門番がザイエンデを振り分けている光景が見られる。すんなりと迷宮に通したり、後回しにしたり、時に言い合ったりと様々な対応がコレ忙しと行われていた。

 しかし、それも一人の男の出現で時が止まったかのように静寂に変貌する。

 仮面の男、王国直属第四師団・副師団長。名の無い男が迷宮から外へと帰還していた。


 師団の門番は丁寧な礼を、また、迷宮に入ろうとしていたザイエンデの多くが道の脇へ下がる。その不気味な仮面に睨む者や、野次るように吐き捨てる者も少なからずいたが、副師団長はその誰をも気にせずにゆったりとした足取りで歩んでいた。


「居辛い……」


 そんな仮面の男の後ろについて行く同じ第四師団所属の少年、勇気。注目の的は副師団長であるが、共に歩んでいる為に自分にも視線が幾らか集まっていると気まずそうに歩いている。

 代わって、勇気より先に進むリーゼは、副師団長の後ろにぴたりと隠れる様に歩いている。人見知りな性格が嫌という程に出ていた。


 勇気は顔見知りの門番に礼だけは、しっかりして尚も副師団長とリーゼの後を追う。早くこの注目が集まる迷宮入口付近から抜け出したいと思いながら進んだ。


「ユウキ!」


 自分の名を呼ばれて、勇気が反応する。そこへ目を向ければ、よく知る声とよく知る顔が手を振って自分の位置を報せているのが確認出来た。

 朝に早々と出掛けて行ったアリサだ。その隣には一緒に出て行ったゼクスが馬車に寄りかかっている。そして、ゼクスも勇気達にすぐに気付いて笑顔で迎えていた。


 先頭で歩く副師団長が無言のまま道の脇に居るアリサ達の下へと向かう。勇気とリーゼも、同じようにそこへと向かった。


「お前は仕事だ」


 勇気達がゼクスとアリサの下まで到着してすぐに、ゼクスが副師団長に向けて言う。その親指は、クイッと後ろの馬車を示していた。

 副師団長は無言のまま馬車へと乗り込んで入り、ゼクスも後を追うように馬車に手を掛ける。


「今日は帰らんから夕飯はお前達三人で済ませてくれ。明日の昼には多分帰る」


 ゼクスはそれだけ言い残すと「出してくれ」と騎手に言って、馬車を出発させて行ってしまう。

 師団の仕事なら仕方あるまいと勇気は見送るだけで、すぐにこの場に残ったアリサへ向かった。


「よく迷宮に居るの分かったな」


 勇気が言う。今日、迷宮に行くと決めたのはアリサとゼクスが出発した後。だから勇気は、この二人が迷宮入口付近で待機しているのに不思議に思っていた。

 アリサは答えようと口を開こうとする。しかし、まだ周りの視線が集まっているせいで話辛い空気だ。これを回避する為に勇気とリーゼに「行こう」と言って、一先ず此処から離れる為に歩き始めた。


「ほら、地図にお互いの居場所確認する機能があるでしょ。それでユウキが迷宮に行ってるの分かったから、家にリーゼも副師団長もいないし一緒に迷宮行ってたのかなって」


「そういえばそんな機能もあったな……」


 勇気達が王国に訪れた初日にゼクスから教えて貰った物の一つである。

 勇気の地図に登録されている人は、アリサとゼクスの二人だけ。アリサは行動を共にする事が多く、ゼクスに対しても緊急の用事がない限り追いかける事はありえない為、勇気にとって腐らせていた機能だった。


 今、三人が進む道は迷宮通り。迷宮通いの人だかりから離れて、やっと注目から外れられていた。


「それで、どっちが迷宮潜るって言ったの?」


「私です」


 アリサの質問にリーゼが答えた。

 アリサは、一つ唸って勇気を見る。勇気も本当だと目で応えると、アリサは納得したのか微笑んでリーゼの片手を手に取った。リーゼは気恥かしそうに頬を赤らめながらも、その手を軽く握り返していた。


「今日は師団長から晩御飯豪勢にしていいって言われたから商業区でいいもの買おうと思ってるけど、他に寄りたい所ある?」


 アリサが一緒の二人に尋ねる。リーゼは、ふるふると顔を横に振って寄りたい場所が無い事を示す。残る一人の勇気は唸って解答を探した。


「じゃあ、アイギスさんの店かな。そろそろ装備一度整えたいと思ってたしさ」


「……分かってた事だけど、アナタの頭の中っていつも迷宮から始まってるわよね」


「そうかな……」


 三人は迷宮通りから商業区に入り、真っすぐにアイギスの軽装店へ目指す。


 商業区には多くの店があれども、寄り道する事なく目的の店の傍らに到着した。

 セトの店に比べれば天地の差の外観。商業区は景観すら意識した街並みな為に建物一つの造りにしても力の入りようが異なると言えよう。


 勇気が扉に手を掛け、店の出入りの鐘を鳴らす。

 店主のアイギスがカウンターで珈琲を片手に、もう片方の手で頬杖をつきながら来客者に目を付ける。


 店内は外の騒がしい雰囲気と異なり閑散としていた。

 客商売だけに客が来なければアイギスは意味のない立場だ。故にアイギスは、客を出迎えられて満足そうにニコリと笑った。


「いらっしゃい」


 お約束の店の挨拶に対し、勇気は軽く礼を返して入店する。後続の二人も繋いでいた手を離し、入店して礼をした。

 来客者に目を向けたアイギスの瞳の中は、ある一点を捉えている。いつも来店する二人に加えられた新たな客、リーゼに向けられていた。


「今日は人が入らなくて暇していてね。それで、その子は?」


「エレイン師団長の娘です」


 アイギスの質問に勇気が答えると、アイギスは含んだような笑いをする。


「また厄介なモノ引き受けたわね。まぁ貴方達は話題に事欠かないから面白くていいけど」


 アイギスは珈琲を飲み干して、カップをカウンターの脇へ移すと店主としての役割を果たそうと構えた。


「今日の用件は? そっちの子の装備でも探しにきたの?」


「いえ、十一層に辿り着いて切りもいいので一新しようと思って」


 勇気の言葉を聞いて口を、ぽかんと開くアイギス。この反応には、勇気も納得できていた上に予想もできていた。ゼクスでさえ、十一層を攻略したと聞いた時に似たように驚いた反応を示していたのだから当然であると。


「本当に貴方達は面白いわね」


 アイギスの言葉とは逆に、笑顔を見せずに呆れた表情であった。逆に勇気が笑って対応している。


「でも貴方達の師団長のお馬鹿さんみたいな所まで移っちゃ駄目よ。普通のザイエンデなら、こんなに早く攻略しない。貴方達の年頃なら尚更ね。死に急ぎ過ぎな考えなしって言われても仕方ないぐらいにね」


 アイギスが言いきると手を出して、勇気にウィンドウを見せるように示した。道具を買うと購入する時と同じように、装備の購入の際に必要な作業の一つ。勇気もすぐに必要なステータスの項を見せる。


 アイギスはステータス、現在の装備、所持金と勇気のウィンドウ内を順に眺める。そして、もういいとウィンドウを返して指を三本立てた。


「選択肢は三つ。一つは現状維持で、十層手前で暫くはお金稼ぎとレベル上げ。二つ目はお金を在る程度使って、それなりに戦える装備で十一層の先に進める装備。最後にもう一つ、お金空になっちゃうけど現時点で最高の物を買う」


 アイギスが提示した案のどれもが、きちんとした理由がある。そのどれかを決めるのは勇気であって店側ではない。これは店側の厚意。信頼関係から生み出された提案だ。


「最後の選択肢でお願いします」


 少しの時間だけ使って、勇気は解答した。

 アイギスは「分かった」と一言だけで返答すると、今度はアリサに向ける。


「アリサは? 今日は買い物してくの?」


「私もユウキと同じで」


 勇気と違ってアリサは即答だった。そして、自分のウィンドウをアイギスに見せる。

 アイギスは、先ほどと同じように必要な項目だけを見て、アリサにウィンドウを返すと店の奥へ商品を探す為に姿を消した。


「防具はいいけど武器はどうするのよ。幾ら師団長が上等の物を買ってくれているとしても、そろそろ変えないと拙いんじゃない」


 アリサがアイギスの姿を目で追った後、すぐに開口した。

 現在、二人が取った選択肢は、それなりの期間を浪費し、貯めてきた所持金を全て使ってしまうものだ。同じ金額を貯めるには、希少度の高い道具を手に入れるでもしない限り、同じだけの時間が掛かるのは目に見えている。つまり、防具並に良い品の武器を揃えるとなれば、それだけの期間後回しになるという事である。


「何にせよ防具を一式揃えたら、金を幾らか残そうとも上等な武器なんて買えないだろ。それなら万が一を考えて最良の防具を揃えた方がいい。またあの牛馬の魔物ぐらいの力を持った相手と戦う場合を想定して判断したまでだ」


「そう。そこまで考えてるなら、アナタの意見に全面的に納得よ」


 アリサがカウンターを離れて、リーゼと一緒に店内の商品を見回る。

 軽装店なだけに鎧等に比べれば、幾らか戦う為の装備とは見え難いものが多い。一見すれば唯の服を選ぶ二人に見えても、喋る内容はザイエンデ特有の内容である。勇気は、それでも何処か和やか且つ仲良さ気に見える二人をカウンター傍から呆然と眺める。


 こんな時間だけが過ぎて、アイギスが店の奥から戻ってくる。片腕には、男用の装備一式をどっさりと。もう片腕には、中に物を入れれば纏めてウィンドウに収納可能の特殊な紙袋を抱えていた。アイギスは、この両方をカウンターにドサリと置いて、店内の商品を見ていたアリサとリーゼを手招きで呼びよせる。


「今の装備は置いて行きなさい。これを持って帰るなら容量が足りないからね。古いのは店に置いておくから暇な時に取りに来る事。アリサの袋も返してくれるなら、また新しい装備買う時に入れるわ」


 勇気もアリサもウィンドウを操作し、防具装備を全て外して、カウンター上の新しい装備と交換と云う形で収納していく。


 最後に金銭の取引を互いのウィンドウ上で行って売買は終了となる。ここで勇気が気づいた。アイギスとの取引は、金を空にして現在装備可能な最上級の装備を取引するという内容だった。それにも関らず、数日は迷宮を潜る為の道具を買う分の金銭が残っている。


「お金が結構残ってますが」


「全部持って行ったら今日明日が不便でしょう。それに、貴方達が最近手に入れた物見てみると売れる物もあるから、それを今度安値で買い取らせて貰うわ。つまりツケって事ね。すぐ返して貰えるから余計な心配しなくても結構よ」


 完了、承認と全ての取引の工程を終える。

 信頼がなければ成立しない取引方法。勇気とアリサは、丁寧にアイギスへ礼を渡した。

 その後、顔をあげたアリサがアイギスに向けて難しそうに眉根を寄せて訊く。


「あの、また丈が短か過ぎるとかないですよね……?」


「いいじゃない。軽装なんだから数値さえ高ければ全身包もうが包まないが変わらないんだし。それに前も言ったけど、貴方は容姿が良いんだからユウキもああいう恰好の方がやる気出るわよ」


「そういう話にはオレの名前を出さないで下さい」


 勇気がアリサとアイギスの両方から顔を逸らす。アリサは何か言いたそうに、アイギスは茶化すように顔を逸らした勇気を見ていた。

 そして、十分にやり取りに満足したアイギスが買い物をしなかった小さな客人に向ける。


「リーゼはいいの?」


「はい。私の装備は副師団長さんに用意して貰ったものですので」


「それなら安心ね」


 カランカランと鐘が鳴る。新たな客の入店を報せる音だ。

 勇気とアリサは、もう一度アイギスに礼を言ってから新たな客とすれ違って店から出て行った。


「さて、次は何処に行きましょうか」


 アリサが言いながら、またリーゼの手を取って人波激しい商業区内を進み始め、勇気もはぐれぬ様に並び歩いた。


「折角だし、何か菓子でも適当につまむか。少しなら夕飯にも差し支えないだろ」


「そうね」


 向かう先は露店が多い道へ。

 行く道先々でも、外に剥き出しの店舗を構えた店が何件も見えてくる。その一つ一つをリーゼが物珍しげな様子で眺めていた。


 歩む足はリーゼの速度に合わせて。そして、勇気がリーゼに露店について尋ねてみると、こんな内容が返ってきた。


「私は家に居る事が多かったので」


 出会った当初からエレインの過保護振りは見てとれたが、勇気とアリサの想像以上にリーゼは箱入り娘と云う事であった。一つ買い物するにしても、使いの者が外に出て行く。長く外出したのは、以前副師団長と迷宮に行った時だけで、他に記憶にないようだ。

 また知り合いも少なく、知っている人を挙げるならば師団の人が大半と言う。


「アリサさんとユウキさんは、師団の中でも特に若いです。その年齢の本隊の師団員となれば歴代でも限られているのではないでしょうか」


「まぁ私はユウキのついでみたいな感じなんだけどね」


「そう言われると実力的にオレの方が下だから何か虚しい」


「ユウキさんがゼクス師団長に誘われたんですか?」


「そうだけど、やっぱり外から見るとオレの方が実力ないから変だって思うよな」


「…………」


 無言のリーゼ。恐らく気を使っていると勇気には分かるだけに、この無言の肯定は何処か悲しかった。アリサがそんな勇気にフォローを加えるが、それをリーゼが聞いても勇気を見る視線に含んだ感情があるが為に余計に寂しくなる勇気であった。


 何だかんだと談笑をしながら露店を周る。そして行きついた先は、以前勇気がアリサと一緒に回った時に買った菓子の林檎飴になった。

 勇気が近くの休憩場として使える小さな円卓の席の一つを指差す。


「座っててくれ。リーゼも一緒にな」


 基本的に嗜好品の購入は勇気が払う事になっている。アリサも初めの内は、自分も払うとは言っていたが、この時ばかりは勇気の押しが強い為に甘んじて厚意を受け取る事にしていた。


 勇気はアリサとリーゼが空席に着くのを確認してから目的の露店へと向かった。

 露店には小、大二つの林檎飴の種類がある。林檎飴としては小さい方が一般的と云えよう。そもそも大きい方は、食べ切れない事が多い。余程の甘党でもない限り甘さで飽きが来てしまう。勇気は迷う事なく自分の考えの下に小さい方の林檎飴へと手を差し伸ばした。


「あ、すいません」


「すまない」


 勇気の手と第三者の客の手が交錯してぶつかってしまった。勇気よりも小さい背の客が大きい方の林檎飴に手を伸ばしていた。

 勇気は声からして女性だと判断出来たが、フードを深く被っている為に顔を確認出来ない。


 とにかく、と勇気も別段急ぎではないので女性に先を譲る。しかし、女性は商品に手を伸ばす事なく、勇気を見上げた。


「ユウキか」


 名を呼ばれ、勇気が一歩だけ退く。

 見上げたフードの下から見える高圧的な瞳。深く被った帽子の代わりになっているソレは、誰であるか証明するのに容易かった。


「……あ、セイ――」


「店主、金だ。君も商品を買うなら早めに買うといい」


 勇気が名を言いきる前に、フードの女性は大きい林檎飴を購入する意を店主に伝えて買い物を済ませる。その後は、店から数歩離れて勇気を待つように佇んでいた。

 勇気も買う分の小さい方の2本だけを手に取って、店主へと金銭を渡す。そして、自分を待っているフードを被った女性の下へとすぐに行った。


「セイレーン師団長、そんな恰好でどうしたんですか」


 勇気は小さな声で、その人に向かって言った。


「今日は非番になった。故に私の趣味を堪能している」


 身を隠して街中を散策している第七師団長。その口から述べた理由で、勇気も何でこんな誰からも声を掛け難く、一見して誰か分からない恰好をしているか納得する。

 本隊の師団長であるが為に目立つ。だから静かな時を過ごしたいとセイレーンは言っているのだ。


 セイレーンの視点が勇気からチラリとリーゼの方へ変えた。


「何故、お前がエレインの娘と一緒に居る」


「エレイン師団長が急な任務が入ったようで、副師団長に預けたんです。それで、今日は副師団長も仕事で忙しいみたいなので自分とアリサが」


「成程。了見は理解した。それで、アレがお前の相方か」


 セイレーンが目だけでアリサを示す。勇気が頷いて答えると、セイレーンは無言でアリサとリーゼの下へと足を向けた。これに対し、勇気に止める術はない。そもそも第七師団長相手に進言する事は、上下の関係上心苦しい上に、セイレーンの性格からして口を割り込むなど出来ようがなかった。


 セイレーンの後ろから大人しくついて行く勇気。そして、待っているのは避けられない顔合わせ。勇気は頭を抱えてどうしようか悩むのであった。

 ピタリと止まるセイレーンが、小さな円卓に座る二人の内の一人、アリサを見下ろす。

 アリサは高圧的な目に眉を顰めながらも、後ろの勇気に向けて訊いた。


「そっちの子は?」


 勇気の予想通りと言えば予想通りの言葉が向けられていた。

 セイレーンの外見は22の年齢と比べれば愕然に幼い。6つ下のアリサと同年代にも見えれば、それ以下の年齢にも見える。それでアリサは、自分よりも幾分背丈の低いセイレーンを年下の子かなと思って訊ねていた。


「あ、えっと、セイレーンさん」


 勇気は先に自分から説明すれば良かったと申し訳なさそうにしながら答える。

 アリサも勇気の答えた態度、そしてその名を聞いて、自分の目前の相手だ誰であるかを理解した。


「すいません……」


「別段気にせずともよい。自分の容姿でとやかく言われたのは、よくあった事だからな」


 セイレーンが気にしないと言えども、アリサにとってはそこまで楽観出来るものでもなく、珍しく身を縮こませている。

 そんなアリサを猛禽類が獲物を追うが如く射抜くような眼で見下ろすセイレーン。

 高圧的な眼は一層と深く、楽しく賑やかな周りとは相反するような瞳。


「ユウキ、アリサは背中を預けられる相手か?」


 透る声が告げられる。


「はい、頼りにしています。時々無茶やる事もありますが」


 解答者は即座に返した。偽りない解答を。

 セイレーンは勇気の笑みを含めた表情を見て息を吐く。その眼は先程と比べば幾らか緩いものになっていた。そして、勇気に卓に座るように言う。


 勇気が卓につくと、買ったばかりの二つの林檎飴をアリサとリーゼに渡した。

 リーゼは不思議そうに林檎飴を見る。リーゼにとって初めて見る菓子だと誰もが分かる反応だ。

 セイレーンが場を今一度眺めて、軽く手にある大の林檎飴を軽く揺らしていた。


「しかし、ユウキ。お前の師団長と同じで、お前は女癖が悪いな」


「…………」


「冗談だ。察しろ」


 はっはっはっ、と口だけで笑うセイレーン。

 感情無しの笑いに対して、勇気は苦笑いを浮かべる

 セイレーンは、そんな変な笑いを終えた後に皆から背を向けた。


「折角の休息に私が居ては場が固くなろう。それに、どうも私の趣味は他人と共にするようなモノじゃないみたいなのでな。私の隊の暇な奴に声を掛けても、誰も二度目は付いて来ようとしない」


 セイレーンが言うと二歩、勇気達から遠ざかり足を止めた。


「去る前に一つ。それで足りるのか?」


 振り向いたセイレーンが、ガリっと手にある大の林檎飴を噛み砕く。

 それを呆然と見るアリサと勇気。


「ふむ。邪魔したな」


 セイレーンは答えを聞く前に、立ち去って行った。そして、行く先は林檎飴を齧りながら新たな露店へ。


「ユウキ、セイレーン師団長の趣味ってもしかして……」


「察しの通り、食べる事だと思う」


 二人は無くなりかけの林檎飴を片手に持ちながら新たな菓子類を買っている師団長を眺める。

 遠くに居る師団長を眺める二人の眼は何処か遠く、何処か儚い。


「……噛み砕けません」


「うん、あの人の食べ方は多分間違ってるから」


 小さい林檎飴を頑張って噛み砕こうとするリーゼに説明する勇気だった。


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