そして盤上は動き出す …1
200話目です。いつの間にか二百。今後もよろしくお願いします。
「お前は姉さんであり、姉さんでない。どうしようもなく似ていて、もしかすると一緒の物なのかもしれないが、お前は姉さんとは別物でなければならないんだ」
「……」
“偽”は顔を上げない。
「なぜなら、巽野茜はもう死んだから。死んだ者は生き返ってはならない。常識だな。だが、暴走した現代の“恐鬼”にはそれがまがいなりにもできてしまう。……そう、紛いなりにも、だ。その人の記憶から生まれた“それ”はその記憶通りの存在だが、それでも、本物とは違う」
「……“偽者”というわけ、か」
覇気のない声が耳に届く。もしかすると本当にもう立ち上がれないのかもしれない。
「……俺にはお前を斃す理由がある。だが、俺には“姉さん”を殺す選択はしない。間違いは正すことができるものだ。記憶通りにことが進んでも、何も変わらない」
「……そう、ね。でも……“私”はもう駄目よ。いずれにせよ“私”の消滅は防げない。それを許さない存在がいるから」
血だまりが広がっていく。そこにある存在が、少しずつ消滅していく。
「ねえ……」
「……何だ?」
「一つ、いい?……記憶通りにならなかったこと、今してもいいかな」
「……」
ひざまずき、“偽”の身体を血だまりから起こす。
戌海琴音の姿をした俺の“恐鬼”は、もうほとんど霞んで見えないであろう両目を少し開けた。
そして、痙攣する腕を持ち上げ、俺の頬をゆっくりとさする。
「……ふふ、大きくなったね、響輝。それじゃ……今度こそ、さようなら……」
「…………」
“それ”は記憶の産物であり、紛い者。恐怖を喰らい、糧とする。
されど、“それ”は法則に組み込まれた必要な者。
何が正しいのか、何が間違っているのか。
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「……んっ……く……」
鈴の瞼が少し動き、ゆっくりと開かれる。
「……ここ、は……」
身を持ちあげた鈴は、あちこちに走った痛みに一瞬顔をしかめたが、すぐに気を取り直して立ち上がった。
「目が覚めたか?」
俺は、そのすぐそばで探し物をしていた。まあ、特に必要なものではないが、あるにこしたことはない。そんな物だ。
「……響輝さん。私は……、“支配者”と戦って、それで……」
鈴は自分の記憶をたどっているらしい。
「巽野さーん!」
その時、少し離れた所から高い声で梨菜が呼ぶのが聞こえた。
「……これなんかどうかな。傷も少ないと思うよ」
梨菜が抱えてきた一振りの小太刀を受け取り、刃を確認する。
「……傷は、少ないな。まあ時間も無いし、これで妥協しよう。ありがとうな、梨菜」
「当然。今は巽野さんに頼るしかないんだから」
梨菜が少し得意げに、後ろからついてくる。
「あの、響輝さん……」
鈴はその様子を眺めつつも何かを思い出したらしく、こちらに歩いてきた。
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