しかし“少女”は踊り咲く …7
ベレッタを使えば兆弾の恐れもあるし、こいつらが相手なら銃弾すら避けかねない。
それなら……。
看板の陰から身を乗り出し、それに突き刺さっている小太刀を一本引き抜いた。これならなんとか武器にはなりそうだ。
「待ってろよ……」
柄を握り、戦闘を繰り広げている二人の方を見る。方法は考えていない。とにかく、いったん二人を止めなければ。
考ええている暇はない。そう考え、足を踏み出した。
「あなたが……響輝さんを惑わす!」
「何言ってるのかな。響輝を惑わしてるのは、むしろあなたの方だよ!」
大鎌、小太刀二振り、三本の刃がぶつかり合うたびに甲高い音を立て、時折火花を散らす。
いったん二人が弾かれ、そして再びぶつかりあおうと互いに踏み出した瞬間。
「止まれッ!!」
俺は二人のぶつかりあうど真ん中に飛び込み、小太刀で“偽”の小太刀を受け止め、もう片方の手で鎌の柄をとらえていた。
「ッ!」
鈴が逃れようと鎌の柄を握る手に力を込める。だが、放す気はない。
「鈴! おい、話を聞け!」
そう呼びかけるも、鈴は俺の声には見向きもせず、ひたすら鎌の柄を握っている俺の手を放そうと躍起になっていた。
「おい鈴!」
「無駄だよ」
なおも呼びかけようとするのを、“偽”のやけに冷静な声が遮る。
「“支配者”に一番弱いところを……心の闇を掴まれたのね。帰ってくるには響輝君がもっと呼んであげないといけないわ」
……。
「口調が変わってないか?」
「気のせいよ。響輝、私はあなたを殺すことでこの地獄から解放するつもり。“恐鬼”の制約に乗っ取りつつ救うにはそうするしかないから。響輝、どうして大鎌を助けたいの?」
何だ? いつもと雰囲気が違う“偽”の言葉に少し困惑する。その質問には何の意味がある?
「……見たくないんだ、壊れるのを」
ようやく絞り出した答えは、いつか鈴が言ったものとほぼ同じものだった。
「あいつと俺は同じ“逸れ者”であり、境遇も似ている。同じ鏡の裏表みたいなものだ。だから、まるで自分を見ているみたいな錯覚に陥る。それを壊れることを本能的に許さなくなるんだ」
「ふうん、同じ、同位体か……」
“偽”はそう呟くと、小太刀に込める力を緩めることなくこちらに睨みを効かせる。
「それで? じゃあ響輝は大鎌に対して特別な感情を抱いてないっていうの?」
「……」
質問の意図が読めない。どういうことだ?
「人間は何かを成し遂げる時、必ず何かしらの感情を動かすもの。響輝には無いの? 大鎌を救う為に必要なものは、そんな理だけじゃないはず」
それだけではない……か。ただ漠然とした、救いたい、救わなければならないという感情では足りないと言うのか?
「足りないわけじゃないよ、ただ救うだけならその感情で十分。ただ“私”は、響輝が何のために戦うのかを知りたいだけ」
戦う理由。俺が何のために戦うのか……か。