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Lost Days  作者: 陽炎煙羅
八章 Firelike Lifelessness~そして遊戯は炎に陰る~
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しかし“少女”は踊り咲く …5

「響輝君、逃げても無駄だよ、無駄無駄」

 “偽”が嗤いながらこちらに向かって歩いてくる。


「くッ……」

 何で“偽”まで。それに少し様子が変だ。……いや、確かにこいつは敵だが、それでもこんなに狂気をまとっていたことは一度も無い。

 何が起こっている? 何かがおかしい。

「破壊。破壊……」

 鈴も心ここにあらずといった感じだ。いや。本当に、攻撃するだけの人形のようになってしまっている。

 これも何かの“恐鬼”の影響なのか? 記憶に作用する奴らの特性が彼女たちに何か大きなダメージを与えたとしか考えられない。

「ならどうすればいい……」

 俺の方に歩いてきていた鈴が、素早く身を翻し、小太刀を放つ“偽”の方へと走り出した。おそらく邪魔者から先に始末するつもりらしい。


「何でしゃばってるのかな、大鎌!」

 放出をやめ、“偽”が両手に一振りずつ小太刀を握り、振り下ろされる鎌の刃と小太刀が交差する音が辺りに響き渡った。

「あなたも、邪魔です」

 大鎌の刃が猛攻を続ける。どう考えたって人間にできる動きではない。

 対する“偽”にも言えることだが、お互いの攻撃は一発一発が致命傷になるほどの威力のはずだ。だが、鈴も“偽”もそれに少しも臆した様子も無く、攻撃を受け、返し、避けるといった駆け引きを続けている。


「……何が……」

 俺に何が出来る? 二人の戦いに参戦するのか?……いや、こちらの後ろには梨菜もいる。こいつを一人置いて戦うのは危険だ。

 ……何も出来ないのか? 俺はただの人間で、鈴や“偽”とは違う。だからといって、見過ごしていいのか?


 いくら鈴が戦闘のみに集中していても、やはり明確な戦闘能力の差を埋めるのは難しいらしい。

 思い返せば、“偽”は普通だった鈴の攻撃を短刀一本で受け止めていた。それが小太刀二振りになったのだ。しだいに鈴の防御行動が増えているのが目に見えた。

「……人として、か」

 人として、闘う。鈴はそう言っていた。だが、“人”に出来ることは案外少ないものだ。それを補うには、人であることを捨てるしかない。

 思考が沸騰する。状況に押され、脳内を圧迫されるかのようなトランス状態に陥っても、思考は止まらなかった。

 ――人で無ければまだ太刀打ちが出来る。鈴を助け、何故あのような状態になったのかの原因を考えることもできる。だがどうする? このままでは鈴が……おそらく死んでしまう。

 様子を見るに、鈴はいくら自分が傷ついても戦うことをやめないだろう。そうすれば、彼女はもう戻れないところまで、意識の深淵まで落ちてしまう。

 ……いやまて。まだ手はある。


 頭の中に“漆黒”の二文字が浮かんだ。

 ……少し、少しだけ“漆黒化”に近づけば、あの戦闘を止めるだけの力ぐらいは手に入るんじゃないか?

 そう考え、自分の心の中にぽつりと残ったしこりの様な異和感を探った。

「巽野さん!!」

 だが、その思考は、梨菜が袖をぐいっと引っ張ったことで中断させられた。

 驚いて梨菜の方を見ると、梨菜は先ほどの錯乱が落ち着いたらしく、酷く怯えた表情を浮かべていた。

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