しかし“少女”は踊り咲く …4
「そんなことがあってたまるか!」
思わず口が動いた。感情が高ぶる。
「だが、それが現実だ」
“支配者”が不敵な笑みを浮かべ、両手を空中にかざした。右手にも左手にも、一つずつ小さな十字架がかけられている。
そう認識した直後、その二つの十字架が光を纏いながら回転を始めた。
……あれが“光球”か。
それを見ながら、懐からベレッタを取り出す。弾は残り少ない。持つとは考えにくいが、元よりそんなことは承知の上だ。
「銃か。ガキの分際でそんな物を扱うとはな」
「黙れ。どうせ俺の戦闘もすべて見ていたんだろう。いまさらそんな口をきくな」
「……ふはは、戯れも大概にせねばな」
そう言うと同時に、“支配者”が両手の“光球”を振りかざす。
「……ッふんっ」
……が、その手を挙げた瞬間、“支配者”が自分の脇の方を見、飛び退いた。
「!?」
その場所に一瞬遅れて、大量の刀が突き刺さる。
「……紛い物の鍵だと。貴様の生存反応は数時間前に消えたはずだが」
着地した“支配者”がローブを広げ、続いて刀の前に着地した人物に目を向けた。
「……“偽”」
そこに着地したのは、牢櫃神蔵で別れた時のままの姿で現れた“偽”。
「……怖いよ」
その場で顔を俯き加減にしたまま、“偽”がそう呟いた。
「憎いよ。辛いよ。恐いよ。全部全部消して、闇に堕とそう。それがいいよ。この龍ヶ峰市を消して壊してやる。もう響輝に辛い思いはさせない。だからみんな殺す。殺して殺して殺して殺す」
“偽”がぐっと首を持ち上げ、周りを見渡す。
「“虚偽複製”」
そう呟き、“偽”が両手を左右に広げた。
同時に、その両手先の小さな空間が歪む。……あれは、“牢櫃神蔵”の出入り口と同じものか。
「……みんなぶっ殺して、この下らない盤上を終わらせる‼」
そう叫ぶと同時に、“偽”の両手先の空間から、無数の刀……いや、小太刀が放出された。
「……異常の“恐鬼”……」
こちらに歩いて近づいていた鈴が、大鎌を回転させ、自分の方に飛んでいた大量の小太刀を弾き返す。
「……ッ!」
俺はとっさに、そばにあった厚い看板に身を隠した。看板にも、木々にも、周りの建物にも、無数の小太刀が突き刺さる。
「……邪魔が入ったか」
看板の影から、“支配者”が姿を消すのが見えた。