しかし“少女”は踊り咲く …3
「おい鈴……何があった!」
生気のない目。虚ろな眼孔からは、生きようという意思すら感じ取ることができなかった。
「だって、仕方ないじゃないですか。私だって生きようとしたんですよ。“逸れ者”として、緑を守ろうとしたんですよ」
「鈴、何の話だ。聞こえてないのか?」
会話が噛み合わない。こちらの声が届いていないことは明白だった。
「……響輝さんも、違うって言うんですか?」
「……」
柄を掴んでいる手に血管が浮いている。力がこめているのだと見て取れた。
「私だって、緑を取り戻すために今まで生きてきたんです。それを響輝さんは否定するって言うんですか?」
刃が、遊園地の証明のわずかな光に煌めく。
「ッ……!」
とっさに身を躱すと、今まで自分が立っていた空間を大鎌の刃が裂いていくのが見えた。
「巽野さん、この人もう壊れちゃってるよ」
俺が自分の中で認めまいとしていたことを、梨菜があっさり宣告する。
「梨菜、お前……」
何を言って……。
「壊れてるよ。この人も“恐鬼”と一緒だよ! 今、巽野さんを斬ろうとしたでしょ? 見えなかったの? 知り合いだったんだ。へえ。……それは残念だったね!」
梨菜が俺の腕を握る手に力をこめた。少女の細腕ごときの力では、痛みを感じるほどでもなかったが、俺はその場から動く事ができなかった。
「……ほお。今回は異常が満載だな。これもお前の所為か? 漆黒の“逸れ者”よ」
動転している頭に突如、血の底から響くような“あの声”が轟く。
「ッ……“支配者”か!」
振り向くと、すぐ近くにあった観葉植物の陰から、黒いローブをまとった英国風情の漂う老紳士……“支配者”が姿を現すのが見えた。
かつーん、かつーん……と、鉄を鳴らすような音を立てながら、一歩、また一歩とこちらに近づく。
「お前が……鈴に何をした!」
驚愕をすべて飲み込み、怒りが沸き起こる。
「何をした、だと? 簡単な事だ。大鎌使いの“逸れ者”、祇園鈴の心は復讐を決意したその時から既に澱みきっていたのだ。憎しみは、時間を重ねて練り上げれば練り上げる程純度を増す。それを促し、逆撫でし、最後の最後に最低最悪の絶望を与えて喰らってやろうと考えていたというのに、お前が余計な感情を割り込ませた所為で少々予定が早まってしまった。ふっ……何処までも忌々しい」
「……な、に……?」
待て。もし今のこいつの話が本当なら……。
……鈴の、これまでの復讐劇は……いや、復讐劇までもが、こいつの盤上で踊らされていたにすぎないということか……!?