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Lost Days  作者: 陽炎煙羅
八章 Firelike Lifelessness~そして遊戯は炎に陰る~
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そして記憶は儚く燃ゆる …12

 何が起こったんだ!?

 思わず後部座席にいる梨菜の方を向く。

「多分、溶解液じゃないかなぁ。ゲームで見たことあるもん」

 梨菜が後ろを向いたまま言う。

 溶解液だと? あの“大蛇”め、飛び道具まで持っていやがったのか。なんて奴だ。

「もう時間は無いか……」

 前を向いたままの五十嵐が言う。

「……」

 どうすればいい。この状況を打破する方法は……。


 だが、その思考はすぐに遮断された。

「……っ!」

 後方から今度ははっきりと衝撃が加わった。

 すぐ横の道路にサッカーボールほどの弾が着弾し、地面を溶かすのが見える。

 後方では“大蛇”が大口を開けて迫っていた。

 すでに距離はそこそこ離れていたが、いつ差を縮められるか分からない。

 回避しつつ逃げられるか……?

 そう考え、前を向いた時だった。

「うおッ!?」

 急に前方に向かって負荷がかかり、危うく車上から投げ出されそうになる。車体の縁に手をかけて何とか堪え、五十嵐の方を向いた。

「酸弾を避けながら走れなんて言うなよ。これでようやく“大蛇”と同速なんだ」

 俺の言わんとすることが分かったらしい五十嵐が即座に返答した。

 だが、このままでは格好の的だ。どうにかあの溶解液の酸弾を避けなければならない。ナイフはそれなりのダメージを与えたらしく、“大蛇”は追走と言うよりもむしろ暴走している。しかし、オープンカーの方もあと一発喰らったら持ちそうにない。

 しかし、いくら思考しても良い考えが浮かばない。そもそも“大蛇”との戦闘で常識が通じるはずもないのだ。ナイフが決定打にならなかった以上、こちらに“逃げる”という選択以外は存在しないのだ。


「巽野さん! オジサン! 伏せて!!」

 急に、梨菜が叫ぶ声が聞こえとっさに姿勢を低くする。

「ッ……!!」

「うおおッ!?」

 直後、背後から何かがはじける炸裂音がし、視界が反転した。



――――――――――――――――――――――。


「……くッ……」

 一体、何が……。

 身体を起こす。どうやら車上から投げ出されてしまったらしい。

 固いアスファルトに手をつき周りを見渡すと、少し離れたところに見覚えのあるツインテールが目に入った。


「ぅ……ん……」

 身体をゆすると、梨菜は呻くようなか細い声を上げた。どうやら気を失っているらしい。

何とか身体を持ち上げて後ろを振り向くと、もうすぐそこまで“大蛇”が迫っているのが見えた。

そしてそれを眼前にして、身体を引きずりながら片方の後輪を失ったオープンカーに乗ろうとする人影。

……五十嵐だ。


「五十嵐!!」

足が言うことを聞かない。痛む頭を押さえながら、オープンカーに乗り込んだ五十嵐に向かって叫んだ。

「……よう、巽野……」

こちらに背を向けたオープンカーの運転席で、振り向いた五十嵐が片手を挙げた。

今更オープンカーに乗り込んで何をするつもりだ。


ーー『チャンスが一度しかないんだ。無謀な賭けはできない』


急に、五十嵐が言っていた言葉が思い出された。


ーー『やるなら確実に斃す方法を……』


……まさか。

「おい、五十嵐! 止めろ!」

頭が一つの結論を弾き出し、思わず声を上げた。

五十嵐は俺が何かを察したと分かると、こちらに顔を向けた。

その表情は強張っているが、何故かとても晴れやかだった。

「なあ……巽野」

“大蛇”の方に向き直り、その表情は見えなくなる。

「俺には、もう失うものは無いと思っていた。だがな、一つだけあったんだ。絶対に失ってはいけないものが」

オープンカーのエンジンが、最期の雄叫びを上げ始めた。

「……それは“希望”だ。何があっても、希望だけは無くしちゃいけない。お前たちは、俺にとっての希望だ」

五十嵐が手を伸ばし、後部座席に置いてある段ボールの蓋を開ける。その中には……。


「……勝てよ、巽野。後は任せたぜ」

車輪が火花を散らしながら回り出し、五十嵐を乗せたオープンカーが酸弾を散らしながら迫る“大蛇”に向かって走り出した。

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