表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Lost Days  作者: 陽炎煙羅
八章 Firelike Lifelessness~そして遊戯は炎に陰る~
185/261

そして記憶は儚く燃ゆる …9

 後ろから地面と“大蛇”の腹部が擦れる音が響いてくる。

 それに続いて、街路樹がなぎ倒される音、街道に打ち捨てられている車が潰される音。

 はっきり言って規模が違う。こいつと戦うなという“偽”の言葉も分からないでもない。

 だが、今は逃げ切らなければならない。行かねばならないのだ。

「ハーテッド、ロストランドまであとどれくらいだ!?」

『五キロだ。ぬかるなよ』

 まだそこそこ距離がある。


 後ろから全くスピードを落とさずに近づく“大蛇”はというと、全く諦める気はないらしい。

 そりゃそうだ。既にこの街で生き残っている人間は少ない。あの“大蛇”が俺達を見逃すはずもない。


「……不味いな」

 しばらく走り続けたのちに、五十嵐が呟いた。

「どうした?」

 既に車の速度はかなりのものとなっている。だが、それに比例するレベルで“大蛇”の速度も上がっている。

 直進しているからこその全力疾走だが、何かトラブルがあればそれこそ死活問題だ。

 顔を激しい抵抗風があおっていく。

「このオンボロオープンカーめ。熱で回路が焼きかけてやがる!」

 五十嵐が叫んだ。

「かいろが焼けてる? それって何か不味いの?」

 後部座席から鳩丘梨菜が問う。

「エンジン回路が焼け切れちまったらこんなオンボロ、すぐに壊れちまうよ。なんとか隙をみて減速しなければ……」

この状況から減速したらどうなるか。考えるまでもない。


「……だが、このまま加速し続けたらオーバーヒートしてしまう、か」

“大蛇”を引き離すのは無理だ。奴だって、今度は逃がさないだろう。

なら、決まっている。

「五十嵐、追いつかれない程度に減速してくれ」

「……いいのか?」

「ああ。なんとかする」

対策がないわけではないのだ。だが、それも気休め程度のものでしかない。

……だが、この状況なら気休め程度でも十分だ。


五十嵐が少しアクセルを緩めると、一気に“大蛇”との距離が縮まった。

あっという間に、“大蛇”の口が数十メートル後ろに迫る。

「大丈夫なのか? 巽野。これで車の方は何とか持ちそうだが」

五十嵐が訊いてくる。

「ああ。多分な」

“偽”の言っていたことが正しければな。……ってまたそれか。


ーー『“狼”に“鉄騎士”。この二体と響輝君が渡り合えたのは、ひとえにそのナイフのおかげだよ。……え? いやいや、別に元から特別なナイフだったわけじゃないと思うよ。響輝君、一度“漆黒化”に堕ちたことがあったでしょ? あの時に響輝君の身体を覆っていた“漆黒”、あの液体モドキは響輝君の服にも染み込んでたけど、手に持っていたナイフの刃にも擦り込まれてたんだよ。……“漆黒化”は、“恐鬼”や世界の法則について知っている人間を削除する、自動プログラムみたいなもの。その名残である“漆黒”の液体には、世界の法則もとい、その産物である“恐鬼”の実在を否定する力があるのよ。知らなかった? ……だろうね。まあとにかく、今そのナイフは“恐鬼”に対する絶対武器になっているわけ。大きい武器なら“大蛇”とも互角に戦えたかもしれないけど、ナイフのリーチじゃ気休めにしかならないかな……残念だったね』


嫌味な奴である。だが、今こそその気休めを大いに利用する時だ。ナイフを失うのは正直痛いが、命には代えられない。

徐々に速度を上げている“大蛇”の大口がすぐ後ろに迫った頃合いを見計らい、俺は後ろを振り向いた。

「巽野さん、何を……?」

急に立ち上がりつつ後ろを向いた俺を見て、梨菜が驚いた表情を浮かべる。

ナイフを握りしめ、迫る“大蛇”を見据える。


さらば、ナイフよ。最後に良い仕事を期待する!

そう思うと同時に、俺は全力でそれを“大蛇”の喉の奥に投擲した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ