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Lost Days  作者: 陽炎煙羅
八章 Firelike Lifelessness~そして遊戯は炎に陰る~
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そして記憶は儚く燃ゆる …7

 もぬけの空となっている市庁の中を歩き、一階の駐車場に降りる。

 もう持ち主がいるかすら分からない車の中をぬって、オープンカーの前まで来た時だった。


「ねえ、オジサン達。これからロストランドに行くんだよね?」

「!?」

 見えてきたオープンカーを視界に入れたとたん、五十嵐が硬直した。

 続いて俺も驚愕に眼を見張る。

「ねえ、そうなんでしょ? 答えてよ。オ・ジ・サ・ン・た・ち?」

 よく目をこらしても、幻覚の類ではない。

 オープンカーのボンネットの上には、白いワンピースを着た、俺より年下の……十歳くらいの少女が足をぶらつかせながら座っていた。


「お、おい何だお前。巽野、こいつ“恐鬼”の仲間か!?」

 五十嵐がらしくもない声をあげて俺の方を見る。

「わからない。だが、どうしてこんなところに……」

 目の前で楽しげな表情を浮かべてこちらを見ている少女からは、邪気の類は全くもって感じられない。むしろ、潔白すぎて気持ち悪いくらいだ。

 足には子供っぽいスニーカー。頭には装飾品をつけていないが、ブロンドヘアーをツインテールに束ねており、少女が頭を揺らすたびにその髪の毛もさらさらとゆれていた。


「……オジサンじゃ話にならないや」

 急に、少女が驚くほど低い声でそう呟いた。表情が怖い。

「ねえ、そこのお兄さん。今からロストランドに行くんだよね?」

「……あ、ああ」

「やっぱり!」

 俺の方を向いた少女はぱあっと表情を明るくすると、ボンネットから飛び降り、こちらに駆けて来た。

「お兄さん、話が通じるね! 名前は?」

 少女がこちらを見上げながら、文字通り無邪気に質問してくる。

 ……この少女に名前を教えて大丈夫なのだろうか。

 一瞬そんな考えが脳裏を過ぎった。

「俺は……巽野響輝。ただの高校生だ」

 ……何を考えているんだ、俺は。こんなガキの何を警戒する必要がある?


「へえ、巽野さんか。私は龍ヶ峰市立北小学校4年4組、鳩丘(はとおか)梨菜(りな)。よろしくね」

「あ、あぁ……」

 何だ? この違和感は。

 目の前にいるのはただの少女だぞ。

 これは……恐怖じゃない。何か別の……。


「ねえ、巽野さん、オジサン。私をロストランドに連れて行ってよ」

 鳩丘梨菜と名乗った少女が笑いながら言った。

「……どうする、巽野」

 驚愕から立ち直った五十嵐が俺に問いかける。

 俺はしばらく考えたのちに、

「……連れて行こう。今は時間が惜しい」

 と言った。生存者は多い方が良いに決まっている。

 それに、鈴じゃないが、俺だってまだ人間でいたいからな。

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