そして記憶は儚く燃ゆる …7
もぬけの空となっている市庁の中を歩き、一階の駐車場に降りる。
もう持ち主がいるかすら分からない車の中をぬって、オープンカーの前まで来た時だった。
「ねえ、オジサン達。これからロストランドに行くんだよね?」
「!?」
見えてきたオープンカーを視界に入れたとたん、五十嵐が硬直した。
続いて俺も驚愕に眼を見張る。
「ねえ、そうなんでしょ? 答えてよ。オ・ジ・サ・ン・た・ち?」
よく目をこらしても、幻覚の類ではない。
オープンカーのボンネットの上には、白いワンピースを着た、俺より年下の……十歳くらいの少女が足をぶらつかせながら座っていた。
「お、おい何だお前。巽野、こいつ“恐鬼”の仲間か!?」
五十嵐がらしくもない声をあげて俺の方を見る。
「わからない。だが、どうしてこんなところに……」
目の前で楽しげな表情を浮かべてこちらを見ている少女からは、邪気の類は全くもって感じられない。むしろ、潔白すぎて気持ち悪いくらいだ。
足には子供っぽいスニーカー。頭には装飾品をつけていないが、ブロンドヘアーをツインテールに束ねており、少女が頭を揺らすたびにその髪の毛もさらさらとゆれていた。
「……オジサンじゃ話にならないや」
急に、少女が驚くほど低い声でそう呟いた。表情が怖い。
「ねえ、そこのお兄さん。今からロストランドに行くんだよね?」
「……あ、ああ」
「やっぱり!」
俺の方を向いた少女はぱあっと表情を明るくすると、ボンネットから飛び降り、こちらに駆けて来た。
「お兄さん、話が通じるね! 名前は?」
少女がこちらを見上げながら、文字通り無邪気に質問してくる。
……この少女に名前を教えて大丈夫なのだろうか。
一瞬そんな考えが脳裏を過ぎった。
「俺は……巽野響輝。ただの高校生だ」
……何を考えているんだ、俺は。こんなガキの何を警戒する必要がある?
「へえ、巽野さんか。私は龍ヶ峰市立北小学校4年4組、鳩丘梨菜。よろしくね」
「あ、あぁ……」
何だ? この違和感は。
目の前にいるのはただの少女だぞ。
これは……恐怖じゃない。何か別の……。
「ねえ、巽野さん、オジサン。私をロストランドに連れて行ってよ」
鳩丘梨菜と名乗った少女が笑いながら言った。
「……どうする、巽野」
驚愕から立ち直った五十嵐が俺に問いかける。
俺はしばらく考えたのちに、
「……連れて行こう。今は時間が惜しい」
と言った。生存者は多い方が良いに決まっている。
それに、鈴じゃないが、俺だってまだ人間でいたいからな。