そして記憶は儚く燃ゆる …6
―――――――――――――――――――――龍ヶ峰市 市庁 2F
「大丈夫か? 巽野の小僧」
「問題無い。それより、何で五十嵐が中央市街にいるんだ?」
オープンカーの全速力で路地や街道を行き来し、どうにか“大蛇”を巻いた俺達は、すぐそこにあった龍ヶ峰市の市庁に車を停め、市庁の中で休んでいた。
「あの後、お前たちが病院を後にしてしばらく経った後のことだ……」
五十嵐が経緯を話す。
残された彼らは、闘いが終わるまで病院で隠れている予定だったらしい。
だが、そのうち男連中の中で外に出て戦おうとする輩があらわれたらしいのだ。
彼らは話し合いを通り越して怒鳴り合いをし、なだめるにも手がつけられない状態になってしまった。そして仕方なく、外に出たいと言っていた男数人を送り出したのだ。
だが、彼らに渡した、三本の実銃のうちの一本が火種となったのである。
彼らに渡したのは射撃距離の長い銃身の大きめのライフルで、その弾丸の音は遠くまで良く響く。
男たちは、病院からすぐ出たところで、上空に居た“恐鬼”に向かってライフルを放ったというのだ。
当然、上空にいた“恐鬼”に気付かれ、音を聞いた周辺の“恐鬼”も集まってくる。
ライフル一本とその他刃物で武装していた男たちだったが、複数の“恐鬼”に囲まれて袋叩きにされ、あっさり殺されてしまったらしいのだ。
そして、病院内にまで“恐鬼”が入り込もうとしたため、五十嵐たち生き残りは、病院の地下駐車場にあった車を数台拝借し、病院から逃げ出した、ということらしい。
……話はわかった。
「……だが、どうして五十嵐だけが俺のところに来たんだ?」
そう訊くと、五十嵐の表情が曇りがかった。
「……俺はな、少し自分に腹が立ってるんだ」
……自分に腹が立っている?
「ああ。病院から逃げる時、見ちまったんだ。ゾンビの姿をした“恐鬼”に噛みつかれながら、泣き叫んでいる、男達の声をな」
俺は質問しようと口を開きかけたが、少し考えたあと、続きを促した。
「あいつら叫んでたよ。『何で俺は大事な人を守れなかったんだ、なんでこんな目に会うんだ、なんで俺には力がないんだ』ってな」
「力……」
俺みたいにたった一人に復讐するために鍛えた力ではなく、大切な、命に換えても惜しくない何かを守るための強さ。
「俺な、妻と娘が一人いたんだ。でもな、“恐鬼”どもの野郎、俺の見ている前であっさり彼女達を殺しやがったんだ。……何もできなかったんだ。見ていることしか出来なかった。……無様だろう?」
「そんなことは……」
『ない』、と答えようとしたが、五十嵐はその手で俺の言葉を遮った。
「いいか、巽野。俺は詳しい事はわからないし、今更説明しろとは言わない。だが、一つ言わせてくれ」
五十嵐が立ち上がり、階段の方に向かって歩き出す。
「……勝てよ、巽野。俺は俺にできることをする。お前は俺の分も、奴らの親玉に一泡吹かせてくれ」
五十嵐が振り返らずに言った。その表情を窺い知ることはできない。
「……言われなくても、そうするつもりだ」
しばらくして、俺はそう返答した。しなければならない、そんな気がした。