そして記憶は儚く燃ゆる …4
土煙りを振り払いつつ、“大蛇”がその巨躯を覗かせる。
本当に厄介なことになった。いや、厄介なんてもんじゃない。
“偽”がまことしやかに語ったことを信じずに、ベレッタで迫る“大蛇”を撃ってみたが、やはりこいつの鱗は尋常じゃなく堅い。強化セラミックかよ。
「くっそ……!」
なんて奴だ。想像した以上の執念深さに、異常なまでの戦闘力。
まさに怪獣映画並みのスケールだ。こいつ、人間で斃すことができるのか?
――『あいつは無理だよ。あいつには、勝てない。……恐怖のベクトルを別の、食欲に変換しているの。あいつも別の意味で異常だから』
“偽”がいつしか言っていた言葉を思い出す。
どうしようもないとはまさにこのこと。曖昧な表現か? いや、全く歯が立たないのは事実だ。
これまで奴に撃ち込んだ弾丸は三発。だが、いずれも全てはじき返されている。
確かに眼球を狙ったはずなのだが、それすら弾かれたのだ。これ以上撃ったところで勝てるはずもない。
しかもこいつはデカく、視界はサーモグラフィー、圧倒的な攻撃力や速さを持っているのだ。その上銃弾が効かないときた。
そりゃ逃走に徹するしかないではないか。
「はあっ……はあっ……」
どうする? このままではこちらの体力が尽きて死亡エンドだ。それだけは避けなければならない。
そう、策を練っていた時だった。
「おうわっ!」
足が瓦礫に躓いた。不味い、少しも休む暇すら無かったというのに、今地面に倒れ込んだらすぐに追いつかれてしまう。
そう考え、とっさに手を突いて前転し、態勢を立て直した。
だが、背後から迫る殺気はすぐ後ろまで来ており、その距離が数十メートルほどしかないのを悟る。
「まだだぁぁぁぁ!」
どうせ殺されるならせめて一矢報いてやろうと、ナイフを構えて後ろを振り向いた。
俺が振り向いたのを見て、“大蛇”が大口を開けた。
その口が、牙が、舌が、俺に迫りーー
「……」
ナイフを構えて固まったまま、俺は眼前で停止している“大蛇”を見つめていた。
……どうしたんだ?
そう思った時、“大蛇”の背後、少し先の街道からエンジン音が聞こえて来ることに気づいた。