そして記憶は儚く燃ゆる …3
「このッ……!」
幾度となく強襲してくる“光球”を大鎌で弾き、破壊する。
刃と光がぶつかるたびに、周囲に閃光が迸った。
「ただの“逸れ者”の分際でよくやる。人間の感情は底が知れないからな」
“支配者”がそう言いながらも、新たな“光球”をこちらに飛ばしてくる。
「あなただって! 元は人間でしょうにッ」
それを切り裂き、跳ね飛ばし、じわりじわりと“支配者”の方へ近づいて行く。
「貴様の恨みがそこまでさせているわけか。……ふはは、最初にお前に遭った時にはただの小娘だったというのに。何とも恐ろしい」
「お前がッ、言うなぁぁ!」
瞬時に距離を詰め、横なぎに大鎌を振るう。だが、切り裂いた先に支配者はいなかった。
速い。刃を避けられるのか。
「……ッ!」
気配を頼りに、後ろに向かって再び大鎌を振るう。
「だが、まだ甘い。“それ”は強さだが、ただの強さに過ぎん」
……が、大鎌の刃は背後に居た“支配者”の片手に受け止められていた。
「な、何……」
急いで鎌を引き離そうとするが、“支配者”は片手の握力で刃を受け止めたまま放さない。
そのまま、“支配者”がもう片方の手に十字架を浮かべた。
「お前はただの憎悪の塊でしかない。それを闇に堕とすことなど、赤子の手をひねるよりも……」
その十字架が私の目の前で回転を始め、“光球”となる。
「簡単だ」
その光を見てしまった瞬間、心に何かが入り込んでくるのを感じた。
「くッ……」
自分の内で何かが蠢いているのを感じる。このままでは……。
そう考え、鎌から手を放し、腰から隠し持っていた短剣を取り出し、素早く突き出した。
だが、その刃が“支配者”の眉間に届こうかという瞬間。
『……止めて、鈴ちゃん!!』
「ッ!?……みど……」
その場で停止した短剣を眺めながら、“支配者”がにやりと嗤う。
「……り……」
急に視界が歪み、心の内から浸食する“何か”を感じながら、
……私の意識は闇に閉ざされた。
――――――――――――――――――――HIBIKI side
「ああ畜生!!」
今俺こと巽野響輝は街道を抜け、裏路地を抜け、全力で走り続けていた。
理由は後ろを振り向けば分かるのだが、正直振り向く余裕すらない。
「……はあっ……はあっ……」
路地を抜け、壁に手をつく。
が、その休憩も次の瞬間に止めざるを得なくなった。
「ッ……!」
突然大きな音が聞こえ、顔をしかめる。
少し向こうの廃ビルが轟音を立てながら崩れて行くのが見えた。
そして、土煙りの中から顔を出す、逆三角形の巨大な頭部。
時折覗く巨大な双牙、紅色の舌。
……そう。俺は今、あの“大蛇”に追われているのだ。