そして偽少女は身を委ねる …5
“鉄騎士”が、がちゃり、がちゃりと金属音を響かせながらこちらに向って歩いて来る。
どうやらこの“鉄騎士”は先の“黒蜘蛛”や“狼”とは違い、目に見えない程の速さを持っているわけではないようだ。
だが、速さを持たないモノはそれに見合った強さと堅さを持っているのが定番だ。前に遭遇した“影”もしかり。油断は出来ない。
バタフライナイフを構え、少し距離のあるところで立ち止まった“鉄騎士”を見る。
ふと、“鉄騎士”が片手を前に突き出した。
「……?」
そのまま暫く立ち止まったまま微動だにしない“鉄騎士”を、なす術もなく見据える。相手の戦い方が分からない以上、迂闊な行動は出来ないからだ。
“鉄騎士”がそのまま突き出した片手を、すくい上げるような動作で少し上に挙げた。
すると、その動作に同調するかのようにその真下の地面が吸い上げられ始めた。
その土が、“鉄騎士”の片手を軸に収束していき、……一本の“大剣”を形造った。
それの持ち手を“鉄騎士”が両手持ちで握り、こちらに向き合う。
……土から武器を生成できるのか。しかも、かなり完成度が高い。
じっと見たわけではないし、はっきりした描写ができるわけではないが、その大剣は刀身が平べったくて太い両刃剣……つまりは、洋風の両刃大剣だったのだ。
大剣を振りかぶりながら“鉄騎士”がこちらに向かって駆け出す。
やはり、走る速度も人間と大差ない。だが、あの大剣での斬撃は避けなければ命に関わるだろう。
「ッ……!」
距離を詰めてきた“鉄騎士”が振り下ろした大剣を躱し、後ろに回り込む。
すぐにナイフを握り直し、金具の間を斬りつけた。
「ゔっ……」
だが、ナイフの刃はあっけなく弾かれ、手に反動で痛みが走る。
すぐに飛び退き、振り返りざまに振るわれた横薙ぎの斬撃を避けた。
……厄介な相手だ。いくら隙があっても、防御力が高いのでは話にならない。
ならば、真っ向からぶつかり合いつつ、武器を狙うしかないか……。
手汗が滲み、思わずナイフを握り直した。